不動産を利用しなくなったり、自宅を買い替えたりするなどの理由から、所有している不動産を売却するケースは多い。不動産を売却すると、金銭を得ることができるが、売却価格のすべてが自分のものになるわけではない。なぜなら不動産を売却する際には、さまざまな費用がかかるからだ。費用を考慮しなければ、売却後の資金計画に狂いが生じる可能性さえある。そこで、ここでは不動産を売却する際にかかる費用や高く売る手順などについて紹介する。

不動産を売却する際の流れを紹介

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(画像=PIXTA)

まずは不動産を売却する際の流れから見ていこう。一般的な不動産を売却する際の手順は主に4つだ。

1 売却価格の相場の把握と査定の依頼
知人などに売却する場合を除き、第三者に売却するためには不動産会社などに頼むのが一般的だ。問題となるのが、「売却価格をいくらにするか」ということである。なぜなら原則、売却価額は自分で決める必要があるからだ。もちろん売却価額の目安は不動産会社が提示してくれるが、不動産会社によって異なることも多い。そのため複数の業者に査定を依頼し、売却価格の相場を知っておく必要がある。

2 必要書類を用意し、不動産会社に仲介を依頼する
複数の業者に査定を依頼し納得できる不動産会社を見つけたら不動産売却の仲介を依頼する。その際は、あらかじめ必要書類を用意しておくことが必要だ。不動産の状況によって必要書類は異なるが、おおむね次の書類が必要である。

・登記済権利証または登記識別情報
・土地測量図や境界確認書など
・印鑑証明書、実印
・住民票
・本人確認書類

不動産会社に仲介を依頼すれば、購入者の募集や広告、契約のとりまとめなどさまざまなことを行ってくれるため、あとは購入希望者が現れるのを待つことになる。

3 売買契約
購入希望者が見つかれば、不動産会社から連絡が来る。金額面や支払時期、引き渡し時期などの交渉後、売却が決まれば売買契約を結ぶ。売買契約書は依頼する不動産業者が用意してくれる。

4 売却代金の受取と不動産の引き渡し
代金の受取は、契約時に手付け金を受領し最後に清算金を受領する。間に中間金の受取が発生する場合もあるので確認しておくことが必要だ。清算金を受領したら、住宅ローンの完済や抵当権の抹消、所有権移転登記(司法書士に依頼)などを行い、不動産を引き渡して売却の完了となる。

売却の完了時には、不動産の書類や鍵など不動産会社を通じて購入者に引き渡す。また、不動産会社や司法書士などに代金を支払う。

不動産を売却する際にかかる費用は?

上述した通り、一般的に不動産の売却を自分一人で行うことはない。不動産会社に仲介を依頼したり、司法書士に登記を依頼したりするため、それらの手数料が必要だ。また忘れてはいけないのが、税金のこと。不動産の売却には、さまざまな税金の支払いも必要となる。ここでは不動産を売却する際にかかる費用を確認していこう。不動産を売却する際にかかる費用をまとめると、以下のようになる。

費用 内容
仲介手数料
・不動産会社に支払う手数料
・不動産の売却が成功した場合のみ支払う

登記費用
・抵当権の抹消必要な場合に発生
・登録免許税と司法書士への報酬が必要

譲渡(所得)税
・不動産の売却益にかかる税金
・所有期間が5年超かどうかで税率が異なる

印紙代
・不動産売買契約書に貼付する印紙
・金額は売却価格によって異なる

その他
・状況により次の費用が必要
・引っ越し費用や廃棄物の処分代、建物の解体費、ハウスクリーニングの費用など

仲介手数料

仲介手数料とは、不動産会社に支払う手数料のことである。不動産会社は売却者に代わって、購入者募集のための広告の掲載や、契約のとりまとめなどを行い、仲介手数料を受け取るのが一般的だ。仲介手数料は、原則不動産の売却が成功した場合のみ支払えばよい。不動産の売却ができなければ、手数料を支払う必要がないので安心だろう。

仲介手数料は、不動産会社ごとでその金額を決めることができる。では仲介手数料の目安はどうなっているのだろうか。宅地建物取引業法では、不当に高額な仲介手数料の請求がないように、仲介手数料の上限を下記のように定めている。

仲介手数料の上限=売却価格×3%+6万円+消費税(取引金額が400万円以上の場合)

例えば、売却価格が5,000万円の場合は、5,000万円×3%+6万円=156万円(消費税別)が仲介手数料の上限となる。仲介手数料は、売買契約時(頭金受取時)と売却完了時に半額ずつ支払うのが一般的である。不動産会社に依頼するときに仲介手数料の用意をする必要がないため安心だろう。

登記費用

不動産の売却と切っても切れないのが不動産登記だ。不動産の売却時の必要な登記は、主に「抵当権抹消登記」と「所有権移転登記」である。このうち所有権移転登記は買い主が行うべきものであり、売却に関係する登記は、抵当権抹消登記のみだ。抵当権とは、住宅ローンなど金融機関などから融資を受けた場合に登記により設定するものである。

債務者が返済できなくなった場合に、金融機関がその不動産を弁済に充てることができる権利のことだ。抵当権は、ローンを完済した際に自動的に登記簿から消えるものではない。抹消するためには、抵当権抹消登記が必要だ。抵当権抹消登記に必要な費用が、登録免許税と司法書士への報酬である。

登録免許税

抵当権抹消には、不動産1物件につき1,000円の登録免許税がかかる。また土地と建物の両方に抵当権が設定されている場合は、2物件となり登録免許税は倍の2,000円だ。

司法書士への報酬

抵当権抹消の登記は自分で行うこともできるが、手続きや必要書類が複雑だ。そのため一般的には不動産会社を通して、司法書士に依頼する。司法書士に登記を依頼する場合は、1万円~数万円程度の報酬が必要である。

不動産売却時にかかる税金

不動産売却時にかかる税金は、次の通りである。

・譲渡税
不動産を売却し、利益が出た場合に納めなければならない税金が「譲渡(所得)税」である。売却益(譲渡所得)がある場合は、売却年の翌2月16日~3月15日までの期間に、確定申告と納税が必要だ。譲渡税は、売却益(譲渡所得)に、売却する不動産の所有期間に応じた一定の税率をかけて計算する。そこで、売却益(譲渡所得)の求め方と税率を知っておく必要がある。売却益(譲渡所得)は次の計算式で求める。

売却益(譲渡所得)=売却価格-(購入価格+購入にかかった費用+売却にかかった費用)-特別控除
※建物部分の購入価格については減価償却費の調整が必要

税率は所有期間に応じ、次の表のように定められている。

売却年の1月1日時点 税率
所有期間5年超 20.315%(所得税15%、住民税5%、復興特別所得税0.315%)
所有期間5年以内 39.63%(所得税30%、住民税9%、復興特別所得税0.63%)

※住宅を売却する場合や買い替えをする場合など、一定の要件を満たす場合は、特別控除や税率の軽減がある。

・印紙税
不動産売買契約書を作成する際には、契約書に印紙を貼付し、割印(消印)を押す必要がある。この印紙は、実は「印紙税」という税金である。印紙税は印紙を購入し、契約書等に貼付することで納付する。印紙代の金額は、売却価格によって次のように異なる。

2020年3月31日までに作成される契約書(軽減後)

契約書に記載された売却金額 貼付する印紙代
10万円超50万円以下 200円
50万円超100万円以下 500円
100万円超500万円以下 1,000円
500万円超1,000万円以下 5,000円
1,000万円超5,000万円以下 1万円
5,000万円超1億円以下 3万円
1億円超5億円以下 6万円
5億円超10億円以下 16万円
10億円超50億円以下 32万円
50億円超 48万円

※2020年3月31日までに作成される不動産の売却契約書に関しては、税額が軽減されている。 2020年4月1日以降に作成されるものは、上記よりも税額が高くなる可能性がある。

その他の費用

不動産の売却にかかる費用は、不動産の状況などによって大きく異なる可能性があるため確認が必要だ。不動産会社への仲介手数料や税金以外にかかるその他の費用として、主に次のものが挙げられる。

・引っ越し費用
自宅などを売却する場合は、新しい家への引っ越し費用が必要だ。引っ越し業者や引っ越しの時期により値段が変わる。

・廃棄物の処分代
売却する不動産に廃棄するものがある場合は、処分のために廃棄業者への依頼が必要だ。廃棄物の量が少ない場合は、引っ越し業者に依頼できることもある。

・敷地の測量費(境界線の確定)
売却する不動産の敷地の測量図が古かったり、隣地との境界が不明であったりする場合は、敷地の測量をして現状状況を確定する必要がある。

・その他
更地にして売却する場合は建物の解体費がかかる。買い主が内装工事などをしない場合はハウスクリーニングの費用も必要だ。それぞれの料金は不動産の状況により異なるが、場合によっては数十万円~数百万円になることもある。仲介を依頼している不動産会社であれば、状況に応じたおおよその金額が分かるので、あらかじめ確認しておくことが必要だろう。

不動産を高く売却するためのコツ

ここまでは不動産を売却するための手順や費用について見てきた。不動産を売却する過程では、売却価格の相場の確認をしたり、不動産会社に仲介を依頼したりとさまざまなことをしなければならない。しかし、実はその中でちょっとしたことに気を付けると、不動産をより高く売れる可能性がある。ここでは不動産を高く売却するためのコツについて紹介する。

不動産の相場を調べる

売却を考える際に、最初に行うのが不動産の相場を調べることである。不動産を相場より低く売り出すと損をするし、高く売り出すと買い手が見つからないことも少なくない。そのため「いくらで売却すれば売れるか」といった相場を知ることは、不動産の売却において非常に重要だ。不動産の相場は次の方法で調べることができる。

1 インターネットの物件情報サイト
最も簡単に調べることができるのが、インターネットの物件情報サイトだ。売却する不動産と広さや立地が似ている物件が、「いくらで売り出されているのか」について簡単に確認することができるので便利である。

2 不動産取引価格情報検索 国土交通省の「不動産取引価格情報検索」サイトであれば、実際に売却された金額を知ることもできる。

http://www.land.mlit.go.jp/webland/servlet/MainServlet

売却された時期や、宅地やマンションなどの種類、都道府県や地区町村などの地域を選ぶことで、指定された条件の売却実績をすぐに確認することができる。

3 路線価図
路線価図とは、毎年国税庁が公表している地価を記載した図である。路線価図は、相続税の計算で土地の評価をするために使う図で道路ごとに1平方メートルあたりの地価が記載されているのが特徴だ。その地価に面積を乗ずれば、評価額を計算することができる。ただしあくまで国税庁が相続税の評価のために定めたものなので、市場価格と大きく異なることも多い。そのため参考程度にしたほうがよいだろう。

http://www.rosenka.nta.go.jp/

買い手の心象をアップさせる

不動産を高く売却するためには、買い手の心象をアップさせる必要がある。なぜなら買い手の心象が良いと、少し高い価格であっても売却しやすくなるからだ。では買い手の心象をアップさせるためには、どのような対策が必要だろうか。不動産の購入を希望する人は、一般的に購入を決める前に現地を見学する。

現地見学の際に、よりよい印象を与えることで買い手の心象をアップさせることが期待できる。具体的な方法としては、清潔感を出すこと。掃除や片付けは当然行う必要がある。特に玄関や水まわりをきれいにすることで、買い手の良い印象を与えることが可能だ。また、部屋に置く物を少なくすることで、より広く見せることができるので片付けは重要である。

しかし、小さな子どもがいて、落書きや汚れなど通常の掃除ではとれないものもあるだろう。その場合は、ハウスクリーニングなどの利用がおすすめだ。ハウスクリーニングには数万円程度かかることもあるが、費用以上の効果をもたらしてくれる可能性もある。なお購入希望者が現地を見学する際は、通常、不動産会社の担当者が立ち会う。

売り手が立ち会うかどうかは自由である。売り手が立ち会いをする場合は、売ろうとアピールしすぎるのではなく購入希望者の質問に素直に答えることで心象をアップさせることができるだろう。

1~3月に売却する

通常、さまざまな物やサービスを販売する場合、値段に大きく影響するのが需要と供給のバランスだ。需要が高い場合は、多少金額が高くても商品が売りやすくなる。これは不動産でも同じことがいえるため、需要が高まる時期に売り出すことで高い金額で不動産を売却することが可能だ。不動産の需要が高い時期は1~3月。日本では、3月末やその半年後の9月末を決算月としている会社が多い。

また、転勤がある場合は、2~3月の間に辞令が出て、4月から新しい勤務地で働くことになる。さらに大学などの新年度も4月から始まることが多い。4月からの転勤や進学などで新しい土地で生活を始めるためには、1~3月に物件を探して住む場所を決める必要がある。そのため1年のうち1~3月は、不動産の需要が1番高まる時期になるのだ。

つまり、1~3月に売却することで、それ以外の月よりも高く売れる可能性が高まる。しかし、売却をするためには、その前に売却価格の相場を調べたり不動産業者に依頼したりする必要がある。複数の業者に査定を依頼することなども考えると、少なくとも11月ぐらいには、売却価格の相場を調べるなどの行動を開始しておいたほうがよいだろう。

所有期間によって変わる税率に注意する

不動産を高く売りたいということは、売却後に手もとに残る資金を多くしたいということである。売却後に手もとに残る資金のことを考える場合に重要なのが、譲渡(所得)税だ。上述したように譲渡(所得)税の税率は所有期間に応じ「20.315%」と「39.63%」の2つの税率がある。この2つの税率のどちらに該当するかによって税金の納付額、つまり出ていくお金の金額が大きく変わることになる。

例えば、売却益(譲渡所得)の金額が3,000万円の場合は、次のようになる。

1 所有期間5年超(長期譲渡所得)
譲渡(所得)税=3,000万円×税率20.315%=609万4,500円

2 所有期間5年以内(短期譲渡所得)
譲渡(所得)税=3,000万円×税率39.63%=1,188万9,000円

3 上記の差額
1,188万9,000円-609万4,500円=579万4,500円

この例では、同じ物件を売却しても、所有期間の違いだけで約580万円も納める税金が変わることになる。これは手元に残る資金のことを考えると大きな差である。「今すぐ資金が必要な理由がある」「維持費がかかる」などの他の事情を無視して考えるなら、所有期間が5年を超えてから売却をしたほうが有利だ。特に所有期間が5年を超えるかどうか微妙な場合は、5年を超えてから売却しよう。

その際に重要なのが、所有期間の考え方である。所有期間は、その不動産を購入した日から売却した日で計算するのではなく、その不動産を購入した日から売却年の1月1日時点で計算するので、注意が必要だ。

情報収集をすすめて不動産の売却を成功させる

不動産の売却を成功させるには、売却価格の相場の把握や税金の金額など多くの知識が必要である。もちろん仲介を依頼した不動産会社は相談に乗ってくれるが、それだけでは不十分なことも多い。同時に、自分で必要な情報を収集することも重要だ。この記事が、情報収集をすすめて不動産の売却を成功させるための一助になれば幸いである。