2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、首都圏を中心に建築ラッシュが続いています。その経済効果は全国で約32兆円とも言われており、直接的効果やレガシー効果を含めて、経済への波及および雇用誘発に大きなプラスの影響を与えるとされています。とくに、建物への投資と消費、生産、そして付加価値の創出は、短期だけでなく中長期にわたって日本経済に影響を及ぼすと考えられます。

一方で、“不動産の価値”という点に着目すれば、新規建築物だけでなく既存の建物にも目を向けなければなりません。これまでのようにスクラップ・アンド・ビルドをくり返すのではなく、今ある建物をできる限り有効活用するためにも、必要なのはメンテナンスです。そこで本稿では、あらためてビルメンテナンスの基本を確認しつつ、その中心となる「予防保全」と「事後保全」ついて見ていきましょう。

ビルメンテナンスの基本

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(写真=Have a nice day Photo/Shutterstock.com)

そもそも都心を中心に乱立している小規模ビルの多くは、高度経済成長期前後に建てられています。それも、中長期目線の土地開発の一環というよりは、低層の商業施設保有者が個々で土地を有効活用するために建設しているケースが中心です。ひとつの商店がビルに変わり、やがてその周辺にある商店も次々とビルになる。現在、小規模ビルが建ち並んでいる都市部などは、そのような過程を経てビル群へと変わっていったわけです。

その後、さまざまな物件がオーナーの世代交代や売却、用途変更などをしつつ管理されています。ただ、相続などで両親から物件を受け継いだ人の場合、ビル管理に精通しておらず、苦労しているケースも散見されます。そのような方こそ、ビルメンテナンスの基本は“建物の価値を維持するため”ということを再認識し、「予防保全」と「事後保全」の双方からアプローチすべきだと覚えておきましょう。

「予防保全」と「事後保全」

建物のメンテナンスと言われたとき、すぐに「定期点検」を連想する人も多いのではないでしょうか。たしかに、エレベーターや消防設備、さらには外壁、防水の状態などを含む定期点検は、建物の機能を維持するために重要なメンテナンス(予防保全)となります。ただ、それらに加えて、何からの不備や故障、破損等が発生した場合のメンテナンス(事後保全)も意識しておくことが、管理者には求められます。

予防保全とは

予防保全とは、建物の価値を維持するために、計画的に行うメンテナンスのことです。すでに述べているように、その中心となるのはエレベーターや消防設備、給排水、空調、電気設備などを含む定期点検です。これらの設備がきちんと機能しているかをチェックし、記録・保存しておくことが求められます。

事後保全とは

定期点検に含まれる設備や外壁、共有部分の故障などが発生した際には、その都度、修理や改修をしなければなりません。それが事後保全です。建物の物理的な劣化はもちろん、環境への配慮やバリアフリー化など、機能面での劣化も事後保全の対象です。必要に応じて、適切に対処することが重要です。

長期修繕計画の重要性

マンション等の集合住宅に住んでいる人、あるいは保有している人はご存じのように、ビル管理には「長期修繕計画」が不可欠です。長期修繕計画は予防保全の一環として、建物の寿命を見越し、短期・中期・長期で計画しておく必要があります。たとえば、鉄部塗装であれば約3~5年、外壁塗装であれば8~12年ほどが目安となります。

長期にわたってビルの価値を維持するために

このようにビルのメンテナンスは、予防保全と事後保全の両面から行うことが大切です。定期点検をしておけばそれで十分なのではなく、また事後保全だけでも建物の価値を維持することはできません。長期修繕計画とともに、予防保全と事後保全という2つの観点からメンテナンスを行いましょう。(提供:ビルオーナーズアイ