不動産の売買契約を結ぶ際、手続きの進め方や、注意すべき点について不安に感じる人は多いだろう。個人で何度も不動産売買をするような人はあまりいないので、契約書の内容が理解できるか心配になるのは自然なことだ。そこで、不動産売買の基本から契約書の内容、注意点などについて、初めての人にも分かりやすく解説しよう。

不動産売買契約の基本

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不動産取引の経験のない個人の方のために、まず不動産売買契約の基本から確認していきたい。

ポイント1 契約はあくまでも自己責任で

不動産売買契約では、法律の範囲内であれば、売り主と買い主は自由に取り決めを交わすことができる。個人の場合は一般的に、取引相手や仲介先となる不動産会社に任せることが多いが、あくまでも契約を行うのは当事者同士。最終的には「自己責任」で決めるという認識を持って進める必要がある。

自己責任で自由な契約ができるということではあるが、売り主が不動産会社などの「宅地建物取引業者」である場合は、一般の買い主にとって著しく不利な契約になることがないよう、一定の制限を設けている。これは不動産に関する知識が不足している買い主を保護するための必要な措置だ。

また、この制限とは別に、事業者と消費者が契約を結ぶ場合、消費者を守るために「消費者契約法」で特別な契約ルールが定められている。この場合の「消費者」は主に個人を指しているが、個人であっても事業のために取引を行う場合は「消費者」には該当しないので注意してほしい。

ポイント2 一度契約すると簡単には解除できない

不動産売買のような財産に関係する契約は、一度締結したら簡単には解除することができない。契約時の約款には、解除に関する記載があるが、ただ単に「白紙に戻す」ということではなく、解除ができる期間、解除の方法などについて細かく定められている。

解除を行うのは、売り主、買い主、どちらにとってもあまり良いことではない。しかし、重大な過失や欠陥が発覚したり、住宅ローンの承認が下りなかったりといった特別な事情が生じたときなど一定の要件を満たせば解除することは可能だ。とはいえ、契約解除はごくまれな事例だと理解しておいたほうが良い。

ポイント3 瑕疵担保責任(旧民法)や契約不適合責任(新民法)を知っておこう

売り主にとっても買い主にとっても重要になってくるポイントが「瑕疵担保責任」である。「瑕疵」とは雨漏りや壁内部のシロアリ被害など、物件の維持に影響のある欠陥のことを指す。

中古物件であれば、大なり小なりの不具合は存在するものだが、これらのうち、買い主が事前に知り得なかった欠陥を「隠れた瑕疵」と呼ぶ。隠れた瑕疵が見つかった場合、買い主は売り主に損害賠償請求ができるほか、場合によっては契約解除をすることもできる。これを売り主の瑕疵担保責任といい、特に中古物件の取引の際にはトラブルのもとになりやすい。

瑕疵担保責任については、民法改正によって2020年4月から廃止され、新たに売り主は契約不適合責任を負うことになる。隠れた欠陥に限らず、引き渡された不動産が契約の趣旨と異なった状態であった場合、買い主は損害賠償のほか、修補や代金の減額なども売り主に請求できる。取り交わす契約書をこれまで以上にしっかりと理解することが必要になりそうだ。

詳しくは専門家に相談したほうが良いだろう。

ポイント4 重要事項説明書とは

不動産の取引では、売買契約書とは別に「重要事項説明書」が作成される。重要事項説明書とは、物件そのものの情報や取引の条件などを、契約書よりも詳しく記載するもので、その内容については、契約をする前に宅地建物取引士が口頭で説明を行うことが義務付けられている。重要事項説明書に記載される主な内容は次の通りとなっている。

・所在地・地目・面積などの物件の概要
・抵当権など権利に関わる内容
・該当する都市計画法や建築基準法の制限
・道路に関する内容
・水道や電気・ガスなどの設備に関する内容
・その他、留意事項
・取引条件に関する内容 など

登記簿の内容や物件の調査内容などが詳細に記載されるため、重要事項説明書の内容によっては契約を見送るというケースもよくある。重要事項説明書の説明は早めに受け、しっかりと確認したい。

不動産売買契約の流れ

次に、不動産売買契約の流れについて、どのような手順になるのか確認してみよう。

1.不動産売買契約書の締結へ

重要事項説明を受け、内容について確認した後は、不動産売買契約書を締結する手続きに入る。契約書には、売買代金の支払い方法や時期なども記載されるので、住宅ローンを予定している人は、この時点で金融機関とは借り入れについての話が進んでいるはずだ。

不動産売買契約書は、売り主と買い主がお互いに1部ずつ保管するため、2部作成する必要がある。

2.売り主と買い主による契約書の確認

売り主と買い主は互いに契約書の内容を最終確認し、契約を完成させる。氏名、住所(法人の所在地)を自署するのが一般的で、印鑑は実印を用いることが多い。

売買契約書には、取引額に応じた印紙税が課税される。また、不動産会社が仲介している場合は、このタイミングで仲介手数料を支払うことも多いので準備しておこう。

3.手付金の支払いや受け取り

一般的には、契約時に買い主が売り主に対して手付金を支払う。手付金は、おおよそ取引額の20%程度といわれているが、お互いが了承すれば任意で金額を決めることができる。

売り主は手付金を受け取ると、買い主に対して領収証を発行する。売り主が受け取った手付金は、取引代金の一部に充当されるのが一般的だ。

不動産売買契約書の基本構成と注意すべき9つのポイント

不動産売買契約書には、具体的にどのような項目が記載されているのか。契約書の基本的な構成と注意点などについて説明しよう。

基本構成 

① 売買物件の表示
土地であれば物件の所在地や地番、地目や地積など、主に登記簿の内容を記載する。

② 売買代金、手付金等の額、支払日
物件の売買代金、手付金、中間金や残金の金額と清算日を記載する。

③ 所有権の移転と引き渡しの時期
物件の所有権が買い主に移転、引き渡される時期について記載する。一般的には、代金の最終決済(残代金支払い)と同日に所有権が移転する流れになる。

④ 公租公課の精算
土地や建物にかかる固定資産税や都市計画税は、通常月割りや日割りで精算する。その計算方法や、実際の精算額、精算日などについて記載する。

⑤ 反社会的勢力排除
取引に関わる当事者が反社会的勢力とは関係がないこと、反社会的勢力に名義を貸すような行為をしないことなどを記載する。

⑥ ローン特約
不動産の売買代金の支払いに住宅ローンを利用する場合、ローンの審査に通らないことがあり得る。この場合の契約解除について記載する。

⑦ 負担の消除
売買する物件に、抵当権や賃借権が設定されていることがある。これを抹消することを「負担の消除」という。借り入れの返済が残っている場合はもちろん、完済していても抹消されていないことがあり、所有権移転までに抹消の手続きを済ませることなどを記載する。一般的には残代金の支払いと所有権移転、抵当権の抹消は同時に行う。

⑧ 付帯設備等の引き渡し
空調設備や照明機器などの付帯設備について、売り主が撤去するのか買い主に引き継ぐのか、ひとつひとつ詳細に記載する。

⑨ 手付解除
何らかの事情で契約が解除されることがある。その場合に手付金をどのように取り扱うかについての取り決めを記載する。

⑩ 引き渡し前の物件の滅失・毀損 引き渡しの前に、天災など、売り主・買い主の双方に責任のない事由で物件が滅失した場合についての取り扱いについて記載する。一般的には、無条件で契約解除となり手付金も返還されることが多い。

⑪ 契約違反による解除
売り主または買い主のどちらかが、契約内容に違反した場合、債務不履行となり契約を解除することができる。一般的には、売買代金の20%程度の違約金が発生するが、こうした取り決めについて記載する。

⑫ 瑕疵担保責任(旧民法)
隠れた欠陥などが発見された場合に、買い主が損害賠償請求や契約を解除できることが記載される。一般的に、瑕疵などの責任を負う期間について記載され、瑕疵を知ったときから1年以内とされることが多い。

先述したように、民法の改正によって、2020年4月から瑕疵担保責任は廃止され、売り主は契約に適合しない物件を引き渡した場合の責任を負うことになる。このとき、買い主は損害賠償の請求や契約解除のほか、補修や代金減額の請求を求めることができるとされ、民法改正後は、この取り決めについて記載することになる。

⑬特約事項
基本的な契約内容では網羅できない特別な条件などは、特約事項として記載する。

契約締結時の注意点

(1)売買物件の表示
物件については、登記簿と契約書の内容に間違いがないか、改めて確認する。契約時には、登記簿謄本も添付されるため、これと契約書を照合すると良い。

(2)売買代金、手付金等の額、支払日
期日、金額は売り主と買い主の両方が納得する形で決めなくてはならない。期日、金額ともに改めてしっかりと確認しよう。売り主が宅地建物取引業者である場合、手付金の上限は、売買代金の20%と定められている。

(3)所有権の移転と引き渡し時期
所有権移転と物件の引き渡しは同日であることが多いが、まれに売り主の都合で引き渡しが後日というケースがある、この場合でも引き渡しの期日は明確にしておくことが大切だ。

(4)公租公課の精算
月割り、日割りなど精算の方法によっては、所有権移転の期日が変更された場合、計算し直すことになる。双方が納得できる形で精算を進めたい。

(5)ローン特約
買い主側の落ち度によってローンの申し込みができなかった場合、ローン特約があっても該当しない場合がある。契約解除できる条件を確認しておこう。

(6)付帯設備等の引き渡し
設備を残すのか、残さないのか、曖昧にしないためにも、できるだけ詳細に記載したほうが良い。

(7)手付解除
手付解除の条件については、基本として当事者同士が了承していれば自由に決めることができる。しかし、どちらかが著しく不利にならないよう内容はチェックしておこう。

(8)契約違反による解除
契約違反があった場合の違約金の額などは、自由に決めることができる。ただし、売り主が宅地建物取引業者である場合は、売買代金の20%が上限となっている。「知らなかった」などと後悔することのないよう、どのような理由が契約違反に該当するのかしっかりと確認しておきたい。

(9)瑕疵担保責任
トラブルになりやすいのが、瑕疵担保責任である。中には「現状渡し」ということで瑕疵担保責任を負わない特約を記載するケースもある。買い主側が瑕疵についての知識が浅いことも多く、非常にトラブルになりやすい。場合によっては裁判になることもあるため、納得がいくまで確認しておくことが大切だ。もしもの場合は第三者に相談することも必要になる。

2020年4月からは「現状渡し」など瑕疵担保責任が問われない契約は結べなくなり、売り主は契約に適合する物件を引き渡すこととなる。

不動産売買契約書の締結は慎重に行おう

不動産の売買契約には、専門的な用語や細かな取り決めが数多くあり、「自分に理解できるだろうか」と不安になる人も多いだろう。万が一どちらかに不利な内容で契約を結んでしまったら、後から深刻なトラブルにもなりかねない。個人同士の売買であっても不動産会社に仲介してもらったほうが、安心して売買を進められるだろう。

しかし、土地売買の契約は、結局は自己責任。契約書や重要事項説明書の内容は自分でしっかりと確認し、難しい項目については、きちんと質問をして納得したうえで契約を進めたい。不動産売買は、大切な財産を扱うとても重要な契約。細心の注意を払って、慎重に進めていこう。