シンカー: グローバルな景気・マーケットの不透明感はまだ強く、将来の景気後退につながると言われる米国の2-10年金利のイールドカーブの逆転が意識され、株価の下落も進行してきた。グローバルな金融危機前の2007年と同じような展開も警戒されている。しかし、2007年と現在の大きな違いは、10年の実質金利(名目金利-インフレ期待)の水準である。2007年はFEDの着実な利上げの進行により、インフレ期待は低下し、10年の実質金利は2.3%と、金融市場の景気引き締めの力となっていた。一方、現在の10年の実質金利は、緩和的な金融政策による流動性の過剰感もあり、0%程度である。米国の10年間の平均実質GDP成長率が0%であるとは考えられないため、緩和効果がいずれ景気・マーケットの状態を改善させる方向性が意識され始める可能性がある。逆イールドから0%の実質長期金利へ、マーケットの注目がいつ移ってくるのかが注目だ。ただ、米中の貿易紛争が重く圧し掛かる状態は続くだろうから、良い方向への動きは時間がかかるかもしれない。一方、米国の財政政策による景気刺激策が現実的になれば、極めて低い実質長期金利と合わせたポリシーミックスが良い方向への動きを加速させる可能性もある。グローバルでも、財政政策の緩和が今後の景気・マーケットの動きの鍵を握ると考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●イタリア首相辞意表明、連立政権崩壊へ

コンテ首相は昨日、連立政権を構成する同盟から内閣不信任案を提出されたことを受け、辞意を表明した。首相は上院における演説で同盟のサルヴィーニ氏が高い支持率を背景に自分自身や党の利益ばかりを追求してきたと批判。コンテ氏はマッタレラ大統領に辞表を提出し、大統領は新たな連立政権の発足が可能か各党と協議を始めることになる。新たな連立政権が出来なければ議会が解散され、今年秋に総選挙が行われるとみられる。新たな連立政権の候補として、五つ星と民主党(PD)の連立可能性も報道されている。両党は以前は対立していたが、総選挙では同盟が票を伸ばすことを見込まれるため、ここに来て両党は距離を縮めている。いずれにしても昨年同様、イタリア政治は総選挙か新たな連立政権かの方向性が決まるまで混乱が続く可能性が高いだろう。

●ドイツ連銀が3Qに2四半期連続でマイナス成長になる可能性を指摘

ドイツ連銀は8月の月報で3Qに2四半期連続でマイナス成長になり、テクニカルなリセッション入りする可能性を指摘した。ドイツ経済は自動車産業を中心に製造業の低迷、米中貿易戦争とBREXITをめぐる不透明感を背景とした輸出の伸び悩みが重くのしかかっている。今回の月報はユーロ圏経済の牽引役であったドイツ経済の停滞が今後も続きうることを指摘しており、輸出、生産の伸び悩みが国内消費にまで影響を与えることが懸念される。9月のECBで追加金融緩和が発表されるとの期待もあるが、ECBに残された手段が少なくなっているとの見方も根強い。ECBは個別の国の経済情勢には対応しきれないこともあり、ドイツでは景気を押し上げるための財政拡大への期待が強まっているようだ。

グローバル・レポートの要約

●中国経済(8/19):貸出金利プライシングの新手法が、利下げへの道を整備

強く見込まれていた動きだが、PBOCは8月17日に、(何十年も政策金利だった)基準貸出金利を廃止して、ローンプライムレート(LPR)を銀行貸出金利の新しいベンチマークに格上げ、またプライシング・メカニズムを改良して、 LPRを1年物中期貸出ファシリティ(MLF)~中央銀行が銀行間流動性を注入するツールの1つ~とリンクさせると発表した。

●中国経済(8/19):雨の日に備えて緩和を節約? しかし、すでに霧雨が降っている

中国の7月の経済指標はほぼ全面的に著しく弱まり、成長ペースの急速な悪化を確認する形となった。控えめに言っても経済はさらなる政策緩和を必要としているが、中国共産党政治局の会合や中国人民銀行(PBOC)の最近の報告書から発せられたメッセージは、近いうちに大規模な景気刺激策を打ち出す気配をまったく示していない。米国が追加関税の実施をちらつかせているため、状況が一段と緊迫した時に備え、政策当局は緩和策の温存が妥当だと考えているのかもしれない。しかし、我々が見るところ、貿易摩擦の不透明感によって引き起こされるダメージは、どのみちすでに現実のものとなりつつある。したがって、我々はPBOCが間もなく本格的な金融緩和 ― 預金準備率または政策金利の引き下げ、もしくはその両方 ― の再開に追い込まれるとの見方を堅持している。1ドル=7元台に乗せてきた人民元レートの下落は、まだ金融環境の緩和と言えるようなものではない。むしろ、不可能な三位一体(IMPOSSIBLE TRINITY;固定為替相場制、自由な資本移動、独立した金融政策を同時に実現することはできないという考え方)の縛りをさらに緩めた可能性があり、PBOCにやや大きな利下げ余地を与えている。

●アルゼンチン経済(8/15): 大統領予備選の後、厳しい現実に直面

アルゼンチンでは、大統領予備選で現職のマクリ大統領が左派連合候補のアルベルト・フェルナンデス氏に大きく後れを取ったことを受け、月曜日(12日)には(通貨を含む)金融資産価格が暴落した。現在の市場では「フェルナンデス氏が明らかに支持されており、10月の大統領選挙での勝利に向かっている」とみられている。弊社は本レポートで、市場の視点から主要指標をみて、どのような経緯でアルゼンチン経済に制度的・構造的なボトルネックが再び姿を現したのかを議論する。政治面の現状を考えると、アルゼンチンの経済や金融の早期回復はサプライズ・シナリオとみられる。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司