不動産の売買契約書には「印紙」が必要と言われたが何のことなのかピンとこないという方も多いだろう。この記事では、そもそも「印紙」とは何か、どのようなときに必要でどこで手に入れることができるのか、軽減措置の内容とどの程度の軽減があるのかを詳しく解説する。
不動産の売買契約書に貼る印紙とは?
印紙の正式名称は「収入印紙」である。では、収入印紙とは何か。それは財務省が発行する証票であり、印紙税という税金を納付するための手段である。消費税やたばこ税は現金で購入代金と一緒に支払うが、印紙税は課税文書に収入印紙を貼付し、印鑑や署名で消印をすることで納税したことになる。
収入印紙は1円~10万円まで31種類ある。形状は切手によく似ているが、似て非なるものである。
印紙税とは?
収入印紙は印紙税を納めるためのものであるが、どんなときに納付しなければならないのか。
国税庁によると印紙税が課されるのは印紙税法で定められた課税文書に限られる、とされている。この課税文書とは、次の3つのすべてに当てはまる文書だ。
・印紙税法に定められた文書(契約書など)により、証されるべき事項(課税事項。請負契約書であれば、請負の内容)が記載されていること
・当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること
・印紙税法において、印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと
課税文書に該当するかどうかはその文書に記載されている内容次第とされている。例としては、契約書、約束手形、預金通帳、会社の設立に必要な定款などが挙げられる。
なお、国税庁HPには課税対象となる20項目の文書が一覧化されているので参照いただきたい。
参考:国税庁 印紙税額一覧表
また、印紙税額は課税文書に記載されている契約金額により決定する。ただし、不動産の譲渡等に関する契約書、請負に関する契約書、金銭又は有価証券の受取書の3つの文書においては、次のどちらかの条件を満たす場合は消費税額等を含めない金額で印紙税額を決定することとされている。
・消費税額等が区分記載されている場合
・税込価格および税抜価格が記載されている場合
印紙税について詳しく確認したい場合は国税庁HP掲載の「印紙税の手引き」を参照することをお勧めする。
印紙税が課税される理由
経済取引に関連する文書に印紙税が課税される理由は次の2つがある。
・経済取引にて作成される文書には経済的利益が背後にあることが推定されること
・文書を作成することが取引事実を明確にし、法律関係の安定化に寄与すること
契約書や領収書などの文書の背後にある経済取引には、担税力(税金を負担する能力)があると考えられる。また、なんの負担もなしに契約書や領収書を作成できてしまうと、それを脱税などに悪用されてしまうことも考えられ、それを抑制する効果もあると言われる。何より、国の法律に従って印紙税を納めたことが証明された契約書などの書類は、印紙によって信用が裏付けされるのである。
不動産取引にかかる印紙税額一覧表
不動産取引の課税文書にかかる印紙税額一覧表を掲載する。
契約金額 | 本則税率 | |
不動産売買契約書 | 工事請負契約書 | |
1万円未満 | 非課税 | |
1万円以上10万円以下 | 1万円以上100万円以下 | 200円 |
10万円超50万円以下 | 100万円超200万円以下 | 400円 |
50万円超100万円以下 | 200万円超300万円以下 | 1,000円 |
100万円超500万円以下 | 300万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 | |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 | |
1億円超5億円以下 | 10万円 | |
5億円超10億円以下 | 20万円 | |
10億円超50億円以下 | 40万円 | |
50億円超 | 60万円 |
1997年4月1日から2020年3月31日までの間に作成される、不動産の譲渡に関する契約書のうち、契約書に記載された契約金額が一定額を超えるものについては、税率の軽減がある。軽減税率については後述する。
印紙税は領収書にも貼らなければならない
金銭の受取書や領収書は国税庁規定の課税文書に該当するため印紙税の課税対象である。そのため領収書にも収入印紙を貼らなければならない。
受取書や領収書とは、その受領事実を証明するために作成され、支払者に交付する証拠証書を指す。そのため、「受取書」「領収証」「レシート」「預かり書」はもちろんのこと、受け取ったという事実を証明するために請求書や納品書などに「代済」「相済」「了」などと記入したものや、買上票などでその作成の目的が金銭の受取事実を証明するものであるときは、課税文書に該当することになる。
非課税範囲の拡大
印紙税法および租税特別措置法の一部が改正されたことにより、2014年4月1日以降に作成された領収書については、記載された受取金額の非課税範囲が3万円未満から5万円未満に拡大となった。
個人のマイホーム売却など非営利目的であれば印紙税は不要
不動産の売却には、「営利目的」と「非営利目的」に分けることができる。この違いにより印紙税の要否を判断可能だ。個人がマイホームやセカンドハウスといった不動産を売却する場合は、事業目的でない=非営利であるため、印紙税の課税対象とはならない。領収書に収入印紙を貼る必要がないということだ。
もし、賃貸アパートなど、家賃収入を得られるような営利目的の不動産を売却する場合は、印紙税の課税対象となる。
印紙税の軽減措置とは?
現在であれば不動産にかかる契約書では印紙税の軽減措置を受けることができる。「所得税法等の一部を改正する法律」において租税特別措置法の一部が改正されたことで、1997年から実施されていた「不動産売買契約書」および「建築工事請負契約書」にかかる印紙税の軽減措置が2020年3月31日まで延長されることになったのだ。
軽減措置の内容
軽減措置の内容としては、課税文書に記載の契約金額によって印紙税額の20%~50%の軽減措置を受けることができる。対象となる契約書は「不動産売買契約書」では契約書に記載された契約金額が10万円を超えるもの、「建築工事請負契約書」では契約書に記載された契約金額が100万円を超えるもので2020年3月31日までに間に作成されるものである。
軽減された後の税率一覧表
契約金額 | 本則税率 | 軽減後の税率 | 参考(軽減額) | |
---|---|---|---|---|
不動産売買契約書 | 工事請負契約書 | |||
10万円超50万円以下 | 100万円超200万円以下 | 400円 | 200円 | 200円(50%軽減) |
50万円超100万円以下 | 200万円超300万円以下 | 1,000円 | 500円 | 500円(50%軽減) |
100万円超500万円以下 | 300万円超500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 | 1,000円(50%軽減) |
500万円超1,000万円以下 | 1万円 | 5,000円 | 5,000円(50%軽減) | |
1,000万円超5,000万円以下 | 2万円 | 1万円 | 1万円(50%軽減) | |
5,000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 | 3万円(50%軽減) | |
1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 | 4万円(40%軽減) | |
5億円超10億円以下 | 20万円 | 16万円 | 4万円(20%軽減) | |
10億円超50億円以下 | 40万円 | 32万円 | 8万円(20%軽減) | |
50億円超 | 60万円 | 48万円 | 12万円(20%軽減) |
なお、1997年4月1日から2014年3月31日までの間に作成された不動産の譲渡に関する契約書のうち、記載金額が1,000万円を超えるものは、次表のとおりとなるので注意が必要だ。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
1,000万円を超え5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万5,000円 |
5,000万円を超え1億円以下のもの | 6万円 | 4万5,000円 |
1億円を超え5億円以下のもの | 10万円 | 8万円 |
5億円を超え10億円以下のもの | 20万円 | 18万円 |
10億円を超え50億円以下のもの | 40万円 | 36万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 54万円 |
印紙はどこで購入するの?
収入印紙は法務局、郵便局、取り扱いがあるコンビニなどで購入することが可能だ。しかしコンビニでは200円分の収入印紙しか置いていないケースが多い。高額の収入印紙が必要な場合は郵便局に行くとよいだろう。
以下の購入場所ではお得に購入することが可能な場合もあるので紹介したい。
Amazon | 今や通販の代名詞とも言えるAmazonでは財務省が直接出品している。ネットで購入し自宅まで届けてくれるので便利だ。 |
オークションサイト | 使わなくなった未使用の収入印紙が出品されていることがある。安く購入できる場合が多い。 |
金券ショップ | 映画や新幹線のチケットのように収入印紙が置いてある金券ショップもある。 |
印紙は誰が支払うの?
印紙税の納税義務者は課税文書を作成したときに成立し、課税文書の作成者がその作成した文書について印紙税を納める義務がある。
印紙を貼らないとどうなるの?
課税文書に収入印紙を貼らないと印紙税を納付しなかったことになり過怠税を徴収されることになる。この場合の過怠税は納付するべきであった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額、すなわち当初に納付すべきだった印紙税額の3倍に相当する額となる。
調査を受ける前に自主的に不納付を申し出たときは1.1倍に軽減されるので、自身で気づくことができれば、早く申し出た方がいいだろう。また貼り付けた収入印紙を所定の方法によって消印しなかった場合にも、消印されていない印紙の額面に相当する金額の過怠税が徴収される。
なお、過怠税は、全額が法人税の損金や所得税の必要経費に算入できないので注意が必要だ。ちなみに、印紙を貼らなかったらその文書は無効になるのかと言うと、文書の効力には影響はないので有効である。過怠税が徴収されるかどうかの問題のみである。
不動産の売買契約書に貼る印紙は納税した証明
不動産の売買契約書に貼る収入印紙は印紙税を納税するための手段ということを説明した。 印紙税は、経済的利益が背後にあることが推定される取引で作成される文書を課税文書としている。不動産取引のような高額取引の場合は、軽減措置を受けても印紙代だけで最大48万円分必要になる。
不動産の売却の場合は、印紙税の他に譲渡所得税などの税金が発生するので、事前にどのくらいのコスト負担があるかを確認することが重要になりそうだ。