消費税の経過措置により、一部品目では11 月分から値上げが反映

要旨

● 10 月に消費税率が2%Pt 引き上げられると消費者物価指数は1%Pt 押し上げられると言われるが、実際には10 月分のCPIが即座に1%Pt 押し上げられるわけではない。

● 電気代など一部の品目では、消費税率引き上げに際して経過措置がとられており、2019 年10 月に使用したものであっても旧税率が適用される場合がある。つまり、一部品目では新税率の反映が11月までずれ込む。

● 経過措置対象品目がCPIコアに占めるウェイトは10.6%。2%Pt の増税によるCPIコアへの寄与度は0.2%Pt 弱となる。つまり、消費税率引き上げによって想定される1.0%Pt のCPIコア押し上げ分のうち、10 月分に反映されるのは0.8%Pt のみであり、残りの0.2%Pt の反映は11 月分に持ち越される。この取り扱いを理解しておかないと、10 月分のCPI発表時に、CPIが下振れたと誤って受け止めかねないため注意が必要である。

増税
(画像=PIXTA)

10月分のCPIが、増税によって即座に1%Pt押し上げられるわけではない

「10 月に消費税率が2%Pt 引き上げられると、消費者物価指数は1%Pt 押し上げられる」とよく言われる。これは、家賃や診療代などの非課税品目や新聞・食料などの軽減税率対象品目を除いた上で、課税品目すべてに完全に価格転嫁されると仮定して機械的に計算した値である。日本銀行がこの値を採用しており、筆者を含む多くのエコノミストがこの値を前提に経済見通しを作成している。

ここで注意したいのは、10 月分のCPIが即座に1%Pt 押し上げられるわけではないことだ。実際には、一部の品目においては消費税による値上げ分が(10 月分ではなく)11 月分のCPIから反映されるため、10 月分での押し上げ幅は1%Pt に達しない。このことを理解しておかないと、10 月分のCPIが公表された時に、「予想よりも下振れた」と誤って受け止めかねない。

消費税の経過措置に注意。CPIへの増税分反映は11 月へ一部ずれ込む

ポイントになるのは、消費税の「経過措置」だ。経過措置とは、消費税率引き上げのタイミングをまたぐ一部の取引において、消費税率引き上げ後であっても旧税率が適用されることを言う。具体的には、電気、ガス、水道料金、電話料金などが対象になる。

たとえば、検針日が2019 年9月15 日と10 月15 日である電気料金のケースを考えてみよう。本来であれば、9月に使用した電気代については旧税率、10 月に使用した分については新税率が適用されるはずだが、現実問題として、月に一度の検針では、どこまでが9月に使用し、どこまでが10 月に使用したものなのかが区別できない。そこで、10 月15 日の検針分については旧税率を適用するとされ、新税率の適用は次回11 月15 日の検針からとなる。これが経過措置だ。

総務省は7月26 日に、今回の増税についても経過措置を考慮して指数を作成することを公表した。

具体的には、「電気代」「都市ガス代」「プロパンガス」「固定電話通信料」「携帯電話通信料」については、「2019年10月は旧税率に基づく価格を採用し、11月から新税率に基づく価格を採用する」としている 。つまり、10月分についてはこれらの品目の増税分は反映されないということだ1。また、「水道料」「下水道料」については、「各自治体の条例により料金改定が行われるため、改正条例に照らし、条例の中で経過措置が定められている場合は、その期間において旧税率に基づく価格を採用する」としている。前回14年4月の消費税率引き上げの際にも経過措置を考慮して指数が作成されたが、今回もほぼ同様の取扱いがなされることになる。

これら7品目合計でCPIコアの10.6%を占めるため、影響は馬鹿にならない。具体的には、2%Ptの増税が実施された場合、これら7品目のCPIコアへの寄与度は0.2%Pt弱になる2。つまり、消費税率引き上げによって想定される1.0%PtのCPIコア押し上げ分 のうち、10月分に反映されるのは0.8%Ptのみであり、残りの0.2%Pt分の反映は11月分に持ち越されることになる。

このことを理解しておかないと、10月分のCPIは下振れ、経過措置分が反映される11月分では上振れと誤解しかねない。特に10月分のCPIについては注目度が高いため注意が必要だ。あくまで技術的な要因に過ぎないが、統計ユーザーは正確な理解を心がけたい。

10 月のCPIは下振れ?(消費税とCPI①)
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
主席エコノミスト 新家 義貴

(参考文献)
・新家義貴(2014)「4月のCPIは下振れ?(消費税とCPI)」(第一生命経済研究所Economic Trends)
・総務省統計局HP「消費者物価指数に関するQ&A」


1 固定電話通信料、携帯電話通信料については、一部の通信事業者については10月から新税率が反映される。
2 正確には、これら7品目の増税による押し上げ寄与は10月分が0.02%Pt、11月分が0.19%Ptと試算される(固定電話通信料は3分の2が10月に新税率、携帯電話通信料は4分の1が10月に新税率が反映されると仮定)。なお、「航空運賃」についても経過措置が一部影響するが、今回の試算には反映していない。