不動産の売却を考えるときに、まず気になるのは「いくらで売れるか」という点だろう。この目安となるのが不動産査定書だ。しかし、不動産査定書の意味や入手方法、査定書を見るポイントについて、よく知らない人も多いだろう。そこで、不動産についてあまり詳しくない方にも分かりやすく、不動産査定書について説明していこう。少しでも高く不動産を売却するための参考としていただきたい。

不動産取引の参考となる査定書

不動産査定書,内容,入手方法,ポイント,解説
(画像=PIXTA)

不動産の査定とは、不動産の価値を算出すること。査定書には、その不動産価値に基づいて算出された価格が記される。不動産の価値を評価する書類には2種類ある。一つは不動産会社が作成する無料の「不動産査定書」、もう一つは不動産鑑定士が作成する有料の「不動産鑑定評価書」がある。

不動産会社の査定書について、「不動産会社は取引をすることで大きな利益を得ることができるため無料で査定を請け負う」という説明をしている記事を見かけるが、これは誤り。不動産の評価で報酬を得ることができるのは、国家資格である不動産鑑定士だけで、資格のない不動産業者が不動産評価を有料で行うことは基本的にできない。

不動産査定には2種類の方法がある

不動産会社が行う不動産の査定には「机上査定」と「訪問査定」がある。その違いを見てみよう。

机上査定

机上査定は、多くの取引事例や周辺の相場といったデータをもとに査定を行う。実際に不動産を見ずにデータや概要情報だけで査定するため、簡易査定とも呼ばれる。データさえそろえば評価できるため、結果が出るのも早い。当日中に結果が示されることもある。

ある程度の妥当性はあるものの、不動産の条件によっては、査定額と実際の売却額で大きな差が出ることもある。検討段階での参考程度に考えておいたほうが無難だろう。

訪問査定

訪問査定とは、机上査定で使用するデータに加えて不動産会社の担当者が現地訪問して特徴を査定額に反映させる方法だ。実際に物件の状態を評価に反映させることができるため、より実態にあった評価ができる。

机上査定に比べて時間はかかるものの、本格的に売却を考えるのであれば訪問査定を依頼したほうがよい。

不動産査定書の内容とは

不動産査定書の内容は大きく次の3つの項目に分けることができる。

・不動産の詳細情報
・不動産の査定項目とそれぞれの評点
・査定結果

不動産査定書は、公益財団法人不動産流通推進センターがHP上で有料配布している「価格査定マニュアル」をもとにしている業者がほとんどである。このため、業者によって査定書の記載内容が大きく異なることはない。

査定書の記載内容について説明していこう。

不動産の詳細情報

建物
建物名 間取り・方位 構造
所在地 建築年月日 専有面積
最寄駅 所有階※ 総戸数※

※マンション・アパートの場合

土地
所在地 容積率・建ぺい率 用途地域
面積 交通 形状
都市計画 取引事例についての情報

不動産会社によってはマップや写真も掲載される。

不動産の査定項目と評点

この項目では不動産の査定項目ごとの査定結果が評点として記載される。この評点を総合して査定価格を算出する。戸建て住宅の場合は、建物と土地を分けて査定し、最終的にそれらの結果を総合して判定される。

査定項目は次の表の通り。

建物
規模 階数(マンションの場合) 耐震性
築年数 リフォームの有無 室内の保守状況
各種設備のグレード その他、住宅性能や省エネ設備などの付加価値
土地
交通の利便性 間口 近隣の状況
店舗や公共施設への利便性 排水施設 騒音・振動
前面道路の状況 街路の整備 眺め・日当たり・風通し
形状 周辺環境

査定結果

「価格査定マニュアル」に従えば、建物は原価法で、土地は取引事例比較法(査定地と似た他物件の事例と比較する方法)でそれぞれ結果が算出される。マンションの場合は取引事例比較法で査定される。

<建物を原価方式で評価する場合の一般的な計算式>
再調達価格(同じ建物をもう一度建てたと仮定したときの単価)×査定地の面積×残存年数÷耐用年数

<土地を取引事例比較法で評価する場合の一般的な計算式>
事例地の1平方メートル当たり単価×(査定地の評点÷事例地の評点)×査定地の面積×流通性比率

詳しく知りたい方は、不動産流通推進センターのHPに不動産査定書のサンプルがあるので確認してほしい。

不動産会社による査定額の調整に注意を

不動産流通推進センターが提供している不動産査定システムは、必要なデータを打ち込むことで上記のような査定の計算を自動で行ってくれる。しかし、算出される査定金額が実勢価格からかけ離れることがあるので、最後に人の手で調整できるようになっている。

調整が行われるのは、比較対象の取引事例の評点や流通性比率のような比率などである。不動産流通推進センターの「戸建住宅価格査定マニュアル」「住宅地価格マニュアル」「マンション価格査定マニュアル」のサンプル画面では、「流通性比率による調整」という項目があり、価格や間取り、地域特性などの評点を+10%~-15%の範囲で調整できるようになっている。

不動産査定書,内容,入手方法,ポイント,解説
(画像=不動産流通推進センターの「マンション価格査定マニュアル」の査定画面抜粋)

こうした調整が、きちんと根拠を持って行われているのならよいが、不動産会社の事情が加味されることがあるので注意が必要だ。

たとえば、自分たちが仲介業者として選ばれるために、査定価格を高めにする業者もある。一方、マンションなどの買い替えの際には、確実に売却できるように価格を抑えた「堅め」の査定をすることもあるようだ。

信頼できる不動産会社なのかは査定書をチェック

不動産会社が作成する不動産査定書は、業者による調整が可能なため、実勢価格に近づけるために善意で調整を行ってくれる不動産会社であればよいが、業者によっては信頼性に欠ける部分も出てくる。

そこで、信頼できる不動産会社を見極めるための査定書チェックポイントをお教えしよう。

査定書に記載している内容に根拠はあるか

「とりあえず、査定額さえ分かればいい」と、金額だけ確認して、査定の根拠まで確認しない人は要注意。査定の根拠まで記されているかしっかり確認しよう。額はいくらでも不動産会社側で調整できるため、もし金額しか提示しない不動産会社があれば、その根拠を疑ったほうがよい。

特に流動性比率は確認が必要だ。価格査定マニュアルの当初の設定は100%に設定されているが、査定の際、85%~110%まで調整が可能だ。もし、100%以外の数字が入力されていたら、その理由を尋ねよう。きちんとした説明がない場合は、その査定額は信頼性に欠ける。あらかじめ不動産会社側で価格を決め、その額になるよう調整を行っている可能性があるからだ。

査定書は分かりやすく記載されているか

査定書の分かりやすさもチェックしてほしい。内容が整理されず、記述が分かりにくいときは、隠したい情報があるのかもしれない。

また、査定価格が概算の数字になっている場合も、ちょっとおかしい。査定マニュアルに従えば、ピッタリの数字が出るはずだ。それを概算値にしているのは、高めの金額を提示することで、他の業者と差をつけて契約を勝ち取ろうとしているのかもしれない。

不動産の査定書を入手する2つの方法

最初にも触れたが、不動産の評価を記したものには「不動産査定書」と「不動産鑑定評価書」がある。これらの違いと、入手方法について次に詳しく説明したい。

無料で作成してもらえる「不動産査定書」

ここまで説明してきた不動産査定書は、不動産会社に依頼するもので、基本的に無料である。不動産鑑定士の資格がない者が有料で不動産を評価すると法律に触れる。

だから、不動産会社が作成する不動産査定書は、あくまでも不動産売却額の参考にする目的で作成されるもので、法的な効力を持たない。このため、査定額は助言価格とも呼ばれ、査定額と売却額が同じになるとは限らない。

有料だが、法的効力を持つ「不動産鑑定評価書」

法的効力を持つ不動産評価が必要であれば、不動産鑑定士に有料で「不動産鑑定評価書」を作成してもらう必要がある。不動産鑑定士は国家資格であり、いわゆる士業である。不動産鑑定士はその名の通り「不動産鑑定業」を独占業務としており、不動産鑑定士以外が不動産を評価する業務で報酬を得ることはできない。

不動産の鑑定評価に関する法律」には次のように定められている。

第二条 この法律において「不動産の鑑定評価」とは、不動産(土地若しくは建物又はこれらに関する所有権以外の権利をいう。以下同じ)の経済価値を判定し、その結果を価額に表示することをいう。

2 この法律において「不動産鑑定業」とは、自ら行うと他人を使用して行うとを問わず、他人の求めに応じ報酬を得て、不動産の鑑定評価を業として行うことをいう。

3 この法律において「不動産鑑定業者」とは、第二十四条の規定による登録を受けた者(=不動産鑑定士)をいう。

不動産鑑定書は法的効力を持つので、相続税や贈与税計算で不動産の適正価格を証明したいとき、裁判所に不動産価値の提示を求められたときなどに必要となる。不動産鑑定士に鑑定を依頼する場合、20~30万円以上の費用がかかるものと考えておこう。

不動産査定書は無料の一括査定で取得しよう

通常の不動産売却であれば、鑑定書まで作成する必要はなく、算定書で十分。しかし、不動産会社によって異なった調整を行うため、数社から査定書を取り寄せたほうがよい。

しかし、いくつもの不動産会社を回るのは大変なので、不動産一括査定などのウェブサービスを利用するといい。

そして、届いた査定書の中から不動産会社を絞ったら、次の質問を投げかけてみよう。

・販売戦略について
・査定額の根拠について
・近似物件の取引事例を把握しているか
・取引実績がどれくらいあるのか

査定書の内容が分かりやすく、質問に対する答えも明確なら、おそらくそこは信頼できる不動産会社。売却価格で後悔しないよう信頼できる会社を選んでほしい。