不動産売買契約ではさまざまな金銭の授受が発生する。その中のひとつが「手付金」だ。手付金は売買契約の締結時に買い主から売り主に支払われ、手付金の授受をもって契約の成立を表す意味合いがある。この手付金にはいくつか種類がある。少なくとも支払う前に、個々の性質の違いを知っておく必要があるだろう。

不動産の「手付金」とは?

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(画像=PIXTA)

不動産の売買契約は一般的な商品の購入と違い、売買契約時に代金が支払われるわけではない。契約後にローンの手続きが行われ、ローンが実行されて初めて代金の残りが支払われることになる。この売買契約から残金決済までの期間、契約関係を保証する意味合いで支払われるのが「手付金」だ。手付金は買い主から売り主に対して支払われ、売買代金とは別のものだ。もし売買契約の締結後に債務不履行などのトラブルがあった場合は、その手付金の放棄や償還が行われる。また、滞りなく売買が行われた場合、最終的には残代金の支払時に、手付金を売買代金の一部に充当することが通例だ。

手付金が持つ3つの意味

手付金には3つの意味があることを知っておきたい。

(1) 解約手付

解約手付とは、手付金に解約権を持たせるという意味のものだ。この場合、手付金が支払われてから一定期間、買い主および売り主は、一方のみの意思で契約を解約することができる。

買い主および売り主は、次の対応によって損害賠償を負うことなく売買契約を解約できる。

 ・買い主の意思で解約する場合:買い主が支払った手付金を放棄する
 ・売り主の意思で解約する場合:買い主から受領した手付金を返還し、さらに手付金と同額の金銭を買い主に支払う

これについて不動産売買契約書では、例えば、次のように記載されている。 『売主は買主に、受領した手付金の倍額を支払い、また、買主は売主に、支払った手付金を放棄して、それぞれ本契約を解除することができる。』

売買契約の締結後も、何らかの理由で契約解約せねばならない事態は起こり得る。万が一の場合に、契約解除という選択肢があることを知っておこう。

ただし、注意しなければならない点がある。解約手付で契約が解約できるのは「当事者の一方が契約の履行に着手するまで」の期間中に限られるということだ。例えば、売り主ならば、所有権移転登記の手続きや、引き渡しのために不動産の修復を始めたとき、買い主ならば、中間金や残代金を支払ったときが「契約の履行に着手」したタイミングとなる。こうした行為に着手した後は、解約手付による不動産売買契約の解約はできなくなるので注意したい。

(2) 違約手付

違約手付とは、債務不履行(売り主または買い主の契約違反)があった場合に、手付金を違約の罰として支払うという意味のものだ。

具体的には、買い主が代金の支払いができなくなった場合(代金支払い義務の不履行)や、売り主が不動産の引き渡しが遅れた場合(引き渡し義務の不履行)だ。前者の場合は手付金が没収されて、後者の場合は手付金の倍額を買い主に償還しなければならない。

これについて不動産売買契約書には、例えば、次のように記載されている。 『買主が契約違反したときは、手付金は売主が没収することとする。また、売主が契約違反したときは、売主は手付金の倍額を支払うこととする。』

解約手付との違いは、違約手付は違約に対するペナルティーという意味合いが強いため、当事者は別途損害賠償が請求できるという点だ。ただし、不動産業者が売り主、消費者が買い主となる場合は、宅地建物取引業法により、手付金はすべて解約手付とされる。

(3) 証約手付 

証約手付とは、不動産売買が成立したことを証する意味合いのものだ。不動産売買は契約の締結までにさまざまな交渉段階があり、どの時点で契約が成立したのかが明確になりにくい。そこで手付金の支払いをもって、契約成立を証明することになる。

今回は売買契約締結時の手付金について解説した。日本国内では、手付金というと解約手付と解されるのが一般的であるが、前述したように3つの意味合いがある。特に解約手付による契約解約が可能な期間に関しては、トラブルも多くなりがちなので注意しよう。手付金についても不動産売買契約書に記載されているが、十分に確認しないまま、売買契約を進めてしまう方も少なくないだろう。後々、損失を被らないようにするためにも、手付金に限らず、売買契約書の記載事項は、入念に確認しておきたい。