オフィス・住居を問わず、収益確保の要点は「空室期間を生まないこと」に尽きる。そのためには、入居者が長く住み続けたいと思える物件を、オーナーは提供しなければならない。今回は高齢者層が住みたいと思えるような住まいに必須となる「バリアフリー化」について考えてみよう。

投資用マンションでもバリアフリー化は必須

バリアフリー
(画像=ucchie79/Shutterstock.com)

日本は急速に進む少子高齢化により、いよいよ人口減少時代に突入した。2018年10月1日現在の高齢化率(65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合)は28.1%。3.6人に1人が高齢者となっている。さらに高齢化率は2025年で30%、2030年で31.2%、2045年には36.8%になると予測されている。高齢者の増加によって、生活環境が高齢者に適合した仕様に改良されてきていることは周知の事実だろう。投資不動産も同様で、これまで投資物件では関心が払われなかったような仕様を、今後は具備せざるを得ない。言い換えると、高齢者の生活に適さない物件は、入居率が低下していくことになるわけで、いわゆる“バリアフリー化”は必須といえる。

みんなに優しいバリアフリー化

バリアフリーやユニバーサルデザインという言葉を聞くと、何か特別な設備や備品を用意しなければならないと考えがちである。もちろん、階段部のスロープ化や手すりの設置といったバリアフリー化に、それなりの費用が掛かるのは確かだ。しかし、バリアフリー化の基本的な考えは、「誰もが移動や行動に支障が生じない居住空間を実現する」ということであり、この発想から生まれる住まいは、高齢者や障がい者だけでなく、すべての入居者に優しい居住空間を提供することになる。

結果的に、あなたの物件は、ライバル物件に対して、従来とは異なる側面から競争力を持つだろう。バリアフリー化は、特定のセグメント向けのアピールポイントであると同時に、全入居者候補にも訴求できるメリットが生まれるわけだ。

バリアフリー化のニーズとは?

バリアフリーを直接的に必要としているのは、高齢者や病気やケガで身体機能の一部が衰えたり、不全になったりした人たちだろう。彼らのニーズを的確に把握することが、適切なバリアフリー化を可能にする。

高齢者や障がい者が直面している身体機能の衰えには、次のようなものが挙げられる。

 ・つま先が十分に上がらない
 ・足元が見にくい
 ・視野が狭い
 ・バランスを崩す
 ・距離感や高低差を誤る
 ・柔軟性の欠如(体がかたい)
 ・体力や筋力の衰え
 ・温度差に弱い

地方自治体の関連団体などでは、こうした高齢者や障がい者などの機能の衰えを、疑似体験できる機会を設けているので、ぜひ体験してほしい。

バリアフリー化の具体的なポイントは?

上述したような身体的な特徴から「玄関で靴ひもの取り扱いに苦労する」「階段の上り下りが負担になる」といった現象が現れ、転倒などのアクシデントも発生する。特に高齢者は「転倒→骨折→寝たきり→認知症」という負のスパイラルに陥る危険性があるので、できる限り転倒させないためのケアが重要だ。また、日々の挙動における補助具の使用を踏まえて、車いすや手押し車(シルバーカー)などをスムーズに利用できる空間であるべきだろう。介助者のことも考慮すると、廊下や通路は、ある一定以上の横幅が必要となることも留意したい。

身体的な特徴と居住空間のマッチングが良くないと、高齢者にアクシデントが発生しやすくなる。居住空間を提供するオーナーとしては、設計やデザイン面に関して、細かくチェックできる能力が必要だ。

室内で転倒などの事故が発生するデザイン的な要因には、床部の段差、階段の踏み込みの高さや幅、床の滑りやすさなどが挙げられる。設備的な要因としては、リビング、廊下、トイレ、浴室間の温度差やドアの構造(開き戸・引き戸)などが挙げられる。

共有部分では、エントランスのスロープ(段差の解消)や自動扉(車いすなどの出入り)があると、負荷は大幅に低減する。コスト面での問題がなければ、エレベーターを設置すると、格段に暮らしやすくなるだろう。

これからの賃貸にバリアフリー化は必須

居住空間のバリアフリー化は、これからの賃貸物件に必ず求められる要件だと考えるべきだ。高齢者の身体機能の衰えは「まさか」のアクシデントを発生させる。床面にあるわずか数ミリの段差に、つまずくこともあるのだ。オーナーは高齢者や障がい者が直面する問題を念頭に、いま一度、所有する賃貸物件をチェックしてみよう。