東京オリンピックという一大イベントを来年に控えて、不動産投資家の間ではオリンピック後の不動産市況が大きな関心の的となっている。今回はオリンピックが不動産の需給バランスに影響を与える要因をピックアップし、それらのインパクトを評価して、今後の不動産市況を占ってみよう。

(1)人口推移

東京オリンピック後,不動産市況
(画像=Roman Babakin/Shutterstock.com)

不動産を購入したい人が多いほど需要は増加する。これには人口の増減、景気の良しあし、海外からの投資、訪日客などが大きな影響を及ぼす。加えて、消費税の増税など、生活に関連する法律が改正される前後で、需要が変動するケースが少なくない。

その中でも、人口は需要に大きな影響を及ぼす要因のひとつだろう。日本はすでに人口減少が始まっている。総務省統計局の統計によると、人口のピークは2010年で1億2,800万人、2019年は1億2,600万人となっており、2030年には1億1,900万人に減少すると予測されている。(内閣府の「令和元年版高齢社会白書」より)

全国の人口はピーク時から900万人近く減少することになる。当然、需要は減少すると考えられるが、逆に、2018年実績で人口が増加している地方自治体が7つある。東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、愛知県、福岡県、沖縄県だ。街としての利便性が高く、就労機会も多い地域であれば、不動産需要は堅調に推移するだろう。

また、訪日客による人口増加も見逃せない。観光局の資料によると、2018年実績で訪日客数は3,100万人となった。国土交通省は訪日客数の目標を2020年で4,000万人、2030年には6,000万人としており、これは人口減少による不動産需要の低減を補う強力な要素となり得る。事実、都心部ではマンション用地とホテル用地の取り合いが起きている。

一方で、土地の供給を左右する要因には何があるだろうか。少子高齢化によって人口が減少しているが、高齢者の増加にともない、死亡数も増加している。厚生労働省の統計では、年間死亡数は2003年に100万人を超え、2018年の死亡数は約136万人で、今後も増加すると予測されている。

親世代の高齢者層が亡くなると「代替わり」にともない、相続が発生する。子世代の長男と長女で夫婦になっていると、夫方と妻方の双方から遺産として不動産を相続するケースがある。その場合、利用できない不動産が生じることもあり、相続の起因で不動産が市場に供給されるようになるだろう。

(2)政策と税制

政策・税制には、不動産の需要と供給にアクセルを踏んだり、ブレーキをかけたりする効果があるため、不動産市況を大きく変化させる。だからこそ、これらの動向は見逃せない。近年の主なトピックを挙げてみよう。

コンパクトシティ

地域の住居・生活空間を限定し、そこに社会インフラを集中させる「コンパクトシティ」という政策が進められている。まだ十分な効果を上げているとはいえないが、住居・生活空間が拡散した状況を放置するままでは、その地域の不動産価格の下落は止まらないだろう。

生産緑地制度

市街化区域にある農地を、宅地並み課税の例外とする「生産緑地制度」は、2022年に終了する見込みだった。例外措置を解除された農地が、宅地として市場に大量供給されると予想され、不動産価格が下落するとの見方が強かったが、法改正によって課税の例外が10年延長(再延長可)となった。これにより、市況には大きな影響は与えないだろうという見方が優勢となっている。

タワマン節税

数年前まで富裕層の間ではタワーマンションを用いた節税がブームになっていた。しかし税制改革により節税効果が減少した結果、一時ほどの勢いを失っている。

東京オリンピック後の不動産市況

ではポストオリンピックの不動産市況はどうなるのだろうか。

都内の利便性の高い地域は、「社会増(人口流入と流出のプラスの差)」を背景に、ポストオリンピックでも、その人気は衰えることなく継続するだろう。

都内の主要ターミナルへのアクセスが容易な首都圏の鉄道沿線地域は利便性に富むため、人気は継続するだろう。ただし、低地や地震による地盤液状化が懸念される地域は、首都直下型巨大地震に対する懸念が高まると、徐々に敬遠されるようになる可能性がある。そこで、自治体などが発表する「ハザードマップ」を読みこなすスキルが必要となる。

一方、地方の不動産には大きな期待は持てないだろう。地方自治体への負担が大きくなる宅地開発が行われた地域は、未来のゴーストタウン化が待ち受けている。ただインバウンド効果は大きく、観光需要を手にした地域は、観光業への就業や不動産需要で地価の上昇が期待できるだろう。

オリンピック後は地価の二極化が加速する?

今回は「人口動向」と「政策」の両面から、東京オリンピック後の不動産市況について考察してきた。人口減少社会では不動産に対する需要が減退し、より高い利便性を求めて、人口移動が生じる。また、社会インフラの維持保全から、政策的に、限定された地域に人口を集中させる施策が行われる。その結果、地価は二極化することになるだろう。そうした状況はすでに始まっていると考えられる。