マイホームや親の家を売却するとき、誰しも「少しでも高く売りたい」と思うもの。業者にうまく丸めこまれて不当に安い金額で売らされるなんて悲劇には遭いたくない。そんな不動産売却への不安を抱えている方のために、不動産の評価方法を解説しよう。マイホームの買い替えなどを考えている方は、少しでも希望価格に近い金額で売却できるよう参考にしてほしい。

不動産価格の評価方法は大きく3つ

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(画像=PIXTA)

不動産の評価方法には、大きく分けて3つある。どれも不動産の価値を求めようとするものだが、それぞれ評価の観点や計算方法などが異なり、対象となる不動産の特徴に合わせて評価方法を決める。

評価法 査定場面 評価の観点 評価額の名称
取引事例比較法 個人が所有する住宅を売却する場合 不動産の取引事例、または賃貸借等の事例に着目 比準価格
原価法 個人が所有する住宅を売却する場合 不動産の再調達(建築等による新規の調達を指す)に要する原価に着目 積算価格
収益還元法 投資用不動産の査定価格を算出する場合 不動産から生み出される収益に着目 収益価格

これらの評価方法は、価格を求める手法と賃料を求める手法に分類されるが、ここでは価格を求める手法について説明しよう。

1.取引事例比較法

取引事例比較法とは、評価対象の不動産と近い条件の不動産の成約事例を比較する手法だ。住宅地やマンション売却の際に最も用いられる。国土交通省の定義によると、次のようになる。

取引事例比較法は、まず多数の取引事例を収集して適切な事例の選択を行い、これらに係る取引価格に必要に応じて事情補正及び時点修正を行い、かつ、地域要因の比較及び個別的要因の比較を行って求められた価格を比較考量し、これによって対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を比準価格という)。取引事例比較法は、近隣地域若しくは同一需給圏内の類似地域等において対象不動産と類似の不動産の取引が行われている場合又は同一需給圏内の代替競争不動産の取引が行われている場合に有効である。

(国土交通省の不動産鑑定評価基準から抜粋)

2.原価法

原価法とは、仮に建物を再度建築した場合の原価(再調達原価)を基に、築年数に応じた調整を行い、価格を算出する方法である。国土交通省の定義は次のとおり。

原価法は、価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、この再調達原価について減価修正を行って対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法 による試算価格を積算価格という)。原価法は、対象不動産が建物又は建物及びその敷地である場合において、再調達原価の把握及び減価修正を適切に行うことができるときに有効であり、対象不動産が土地のみである場合においても、再調達原価を適切に求めることができるときはこの手法を適用することができる。

(国土交通省の不動産鑑定評価基準から抜粋)

3.収益還元法

収益還元法とは、賃貸用不動産などが将来得られるであろうと予測される収益を基に現在の価値を総合して評価価格を算出する方法だ。直接還元法とDCF法の2つがあり、計算事例を交え、後で改めて分かりやすく説明したい。国土交通省の定義は次のとおり。

収益還元法は、対象不動産が将来生み出すであろうと期待される純収益の現在価値の総和を求めることにより対象不動産の試算価格を求める手法である(この手法による試算価格を収益価格という)。収益還元法は、賃貸用不動産又は賃貸以外の事業の用に供する不動産の価格を求める場合に特に有効である。また、不動産の価格は、一般に当該不動産の収益性を反映して形成されるものであり、収益は、不動産の経済価値の本質を形成するものである。したがって、この手法は、文化財の指定を受けた建造物等の一般的に市場性を有しない不動産以外のものには基本的にすべて適用すべきものであり、自用の不動産といえども賃貸を想定することにより適用されるものである。なお、市場における不動産の取引価格の上昇が著しいときは、取引価格と収益価格との乖離が増大するものであるので、先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段として、この手法が活用されるべきである。

(国土交通省の不動産鑑定評価基準から抜粋)

一番使われる「取引事例比較法」による算出方法例

個人住宅の売却の場面でよく使われるのは、取引事例比較法であるが、一般的には次のような手順で算定される。

<取引事例比較法の一般的な計算式>
対象物件の比準価格=事例物件(※1)の平方メートル単価×(対象物件の評点÷事例物件の評点)×対象物件の面積×流通性比率(※2) ※1:事例物件とは、対象物件と比較的近い物件のこと。 ※2:流通性比率とは、対象物件がどれだけ売りやすいか売りにくいかを数値化したもの。1.00が標準であり、マイナスの場合には売りにくい、プラスの場合には売りやすいということ。

【具体例】

前提条件 対象物件 事例物件
専有面積 70平方メートル 70平方メートル
評点 110点 105点
成約価格 4900万円
平方メートル単価 70万円

比準価格…70万円×(110点÷105点)×70平方メートル×1.00(流通性比率)      ≒5133万円

原価法による算出例

原価法は、同じ建物をもう一度建設した場合の原価(再調達原価)を基に原価修正を行って評価額を求める。原価法での評価額を積算価格と呼ぶ。

<原価法の一般的な計算式>
対象物件の積算価格=再調達原価(A)×減価修正(B)
 (A)再調達原価=平方メートル単価×対象物件の面積
 (B)減価修正=残存年数(耐用年数{※}-築年数)÷耐用年数

※住宅用の場合、耐用年数は下図のとおり。

構造 耐用年数(住宅用)
木造 22年
木骨モルタル造 20年
鉄骨鉄筋コンクリート造
鉄筋コンクリート造
47年
金属造(鉄骨造) 19・27・34年
(骨格材の肉厚によって異なる)
れんが・石造・ブロック造 38年

(東京都主税局の機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表 【全体】から抜粋)

【具体例】
仮に築11年の木造住宅の積算価格を求めると、次のようになる。

前提
築年数 11年
総面積 80平方メートル
構造 木造一戸建
平方メートル単価 15万円

再調達原価…15万円×80平方メートル=1,200万円
減価修正…(22-11)÷22=0.5
⇒積算価格…1,200万円×0.5=600万円

収益還元法による算出例

収益還元法には、直接還元法とDCF法の2つがある。どのような物件を評価するかによってどちらを使うかが決まるが、多くの場合、DCF法が使われているようだ。簡易的な評価として直接還元法が使われる場合もある。

直接還元法

直接還元法とは、還元利回りから物件価格を逆算する方法である。具体的には、1年間の純利益を還元利回りで割ることで収益価格を求める。DCF法と比較してかなり簡易な評価法となっている。

<直接還元法の一般的な計算式>
対象不動産の収益価格=1年間の純収益÷還元利回り

計算式にでてくる純利益とは、不動産投資における純利益のことで家賃収入から諸費用を差し引いたものになる。費用率は年間家賃総額の2~3割程度が一般的だ。築年数が古い物件ほど修繕が必要となる分、費用率が高くなる傾向がある。そのほか、どの物件であっても管理費や修繕費、広告費や固定資産税などがかかるため、可能な限り細かく計算しておくことがポイントになる。

また、計算式の還元利回りとは、キャップレートとも呼ばれる。還元利回りの算出方法にも2通りある。近似物件の成約事例や販売中物件の利回りを参考に算出する方法と、不動産会社などが公表している地域ごとのデータを参考にする方法だ。

【具体例】

前提条件
1年間の収益 200万円
諸費用 25万円
還元利回り 4.2%

収益価格…(200万円-25万円)÷4.2%≒4,167万円

この場合、対象不動産の評価額は4,167万円ということになり、この金額より安く購入できれば割安、高い金額なら割高だと判断する。また、融資を受ける際、4,167万円程度まで受けられるという目安にもなる。

DCF法

DCF法とは、対象不動産を保有中に得られると期待される収益と売却時の予想価格を現在価値に換算して、その合計額を不動産価格とする方法。DCFはDiscounted Cash-Flowの略であり直訳すると割引キャッシュフロー、すなわち「期待キャッシュフローを割り引くことで価値を算定する」という意味だ。

これは、今の100万円と将来の100万円とでは価値が一緒ではないという考え方を前提にしている。たとえば、現在持っている100万円があれば10年間運用や預金することで運用益や利息を得ることができるので、今の100万円と10年後の100万円は、同じ価値ではないと言える。また、不確定な将来の100万円より現在の100万円のほうが、価値が高いといえる。そこで、将来受け取る額から、それまでに得られる収益を差し引いて現在の価値に換算するという方法を採る。この場合に差し引く割合を「割引率」という。

だが、DCF法は将来予想される価値から、その間に見込める収益を差し引くという、予測に予測を重ねた評価法となっているため、評価する人によって評価額が大きく異なることがある。不動産会社の考え方によって査定額に差が出てくる可能性があることは知っておきたい。

たとえば、年間200万円の家賃収入がある物件を2年後に2,000万円で売却した場合、物件価値は2,400万円になるはずだ。しかし、DCF法では将来に家賃収入が下がっているリスクも勘案する。

簡単な例で、そのリスクを2%の割引率として織り込んだ場合、1年目の家賃収入は「200万円÷(1+0.02)=196万円」、2年目は「200万円÷(1+0.02)2=192万円」となり、さらに2年後の物件価格を現在価値に割り引くと「2,000万円÷(1+0.02)2=1,922万円」となり、「196万円+192万円+1,922万円=2,310万円」となる。

素直に年間の家賃収入と売却価格を合計した2,400万円に対して将来のリスクを織り込むと2,310万円と差がでることになる。以下、もう少し具体例を用いてDCF法で不動産価格を計算していく。


対象物件の収益価格=毎期得られる純収益(割引現在価値※)の合計+将来の売却価格の割引現在価値
 ※割引率をxとしたときのn期目(n年目)の現在価値…純利益÷(1+x)n

【具体例】
前提
1年間の収益350万円、経費50万円、保有期間5年間、割引率2%、売却時の想定価格5,000万円の物件

年数 割引計算式 家賃収入(現在価値)
1年目 (350万円-50万円)÷(1+0.02) 294万円
2年目 (350万円-50万円)÷(1+0.02)2 288万円
3年目 (350万円-50万円)÷(1+0.02)3 282万円
4年目 (350万円-50万円)÷(1+0.02)4 277万円
5年目 (350万円-50万円)÷(1+0.02)5 271万円

将来の売却価格の割引現在価値…5,000万円÷(1+0.03)5=4,528万円
294万円+288万円+282万円+277万円+271万円+4,528万円=5,940万円
この5,940万円が現在の評価額ということなり、この金額より安く購入できれば割安、高い金額なら割高と判断できる。融資であれば5,940万円程度まで受けられるという目安になる。

不動産会社によって査定価格が異なるのはなぜか?

不動産売却の際に複数の業者へ一括査定依頼をすると、それぞれ査定価格が異なることが多い。不動産売却の場合、なぜこのような違いがでるのかというと、不動産を評価する方法が異なっていることが一番大きな理由だ。

不動産の評価方法が異なる

不動産会社の評価で一番よく使われるのは、取引事例比較法だが、評価方法が異なると当然、査定価格も変わってくる。

また、同じ取引事例比較法を採用しても、会社によって査定項目や評価の考え方が違う。たとえば、中古マンションを評価する場合でも、次のように、さまざまな査定項目や考え方がある。これらの査定結果が各社完全に一致することは、ほぼないだろう。

査定項目 考え方
交通の便 駅徒歩分・バス分 etc.
近隣の状況 店舗等への距離・周辺環境 etc.
住戸位置 所在階・方位・日照 etc.
専有部分 維持管理状況・騒音振動・眺望景観 etc.
敷地 所有権もしくは借地権
共有部分 外壁の状況・エントランス・耐震性 etc.
施設 セキュリティ・駐車場・コミュニティ施設 etc.
維持管理 計画修繕の実施・保守清掃・管理人 etc.

(不動産流通推進センターの「価格査定マニュアル」を参考に作成)

比較する物件の選び方が異なる

取引事例比較法で、比較する物件の選び方は業者によってさまざまだ。どのような物件を取引事例として比較するのか、いくつの事例と比較するのかという違いがあれば査定結果にも違いがでるのは当然だ。

不動産会社による判断の違い

不動産会社によっては、依頼相手を見て査定額を変えることがよくある。

インターネットの一括査定サイト経由の依頼であれば、高めの査定価格を出して選ばれやすくするところが多いし、マイホームの買い替えを考えている依頼主が相手であれば、買い替え資金の確保ができるよう確実に売却する必要があるので、堅実な査定をする傾向が強い。このように依頼主の依頼方法や個別の事情も、不動産会社の判断基準になることを覚えておこう。

査定価格はあくまで参考値であることを知っておこう

査定価格は業者によって大きな差がでることがある。その理由について、お分かりいただけただろうか。

しかし、考えて見れば、不動産というのは、最後は売り手と買い手の交渉しだい。どうしても欲しいという人が現れれば、高く売ることができるし、買い手が現れなければ、価格を下げるしかない。あくまでも、査定価格は参考でしかない。

とはいえ、査定が売買交渉のスタートになるのは間違いないので、自分でもしっかりと査定の根拠を確認し、適正な価格なのかどうか、確かめておこう。