エネルギー

発展には規制緩和が必要。「分散型電源化」が進む

先進国では原発を増やしにくい状況にあるため、天然ガスなどを使った火力発電と再生可能エネルギーの混合でやっていくしかない。日本では、再生可能エネルギーの固定買取制度の改正により買取価格が大幅に引き下げられたため、普及の伸びが止まる可能性が高い。これからの課題はエネルギーの地産地消だが、そのためには電力事業の規制緩和をどれだけ進められるかがキーポイントだ。大手電力会社の既得権益をなくし、地方の新電力会社が効率的に電力を供給できるシステムにしていく必要がある。(中原氏)

キーワードは「分散型電源」。これは、都市近郊の小型発電所や一般の建物に設置された発電装置や蓄電池などをネットワークで結び、従来の火力発電などと同じ電力効果を生む仕組みのこと。今後、分散電源化を進めていくうえで、AIによるシステム制御機能が不可欠になる。企業側も太陽光発電パネルや蓄電装置を売るだけでなく、システム制御の仕組みにまで踏み込み、価値を生み出していく。そうした動きが広がっていくのではないか。(長谷氏)

介護

現場作業は劇的に効率化するが地方の小規模事業所は衰退

人手に頼ってきた作業が自動化・機械化され、介護現場の効率化が進む。ただし、投資できる企業だけが生き残り、地方の小さな企業は淘汰されていくだろう。4月から施行された改正入国管理法は、まさにその流れを加速させそうだ。今回、外国人労働者が事業所を選べるようになった。彼らは当然、時給の高い大都市圏の事業所を選ぶだろう。大都市圏の大手事業所は雇用を確保できる一方で、地方の小規模事業所は人手不足が続く。潰れる事業所も出てくるだろう。(中原氏)

見守りセンサーの高度化により、現場作業の効率化が期待されている。最近は、スマートスピーカーなどを使って、遠方で暮らす高齢の家族と会話する機会も増えている。そうした会話の内容から病気の兆候を捉え、要介護者を減らしていくためのAI活用も広がっていくだろう。また、今はまだ大型で脱着しにくい介護アシストスーツも、高齢化社会でニーズがある以上、将来的には服と同じくらいの薄さと軽さになるはず。そうなれば普及が進み、介護現場の助けになる。(長谷氏)

新しく生まれる職業、マスメディア

データサイエンティストとマッチングサービスが増える?

今後10年で考えれば、データサイエンティストは増えるだろう。需要がひっ迫しているため待遇もいい。ただし、それ以降は供給が満たされてくるので、ずっと成長し続ける職業だとは考えていない。AI活用に出遅れた企業が淘汰され、AIを使いこなす企業だけが生き残ると、次の次元で新たな競争が始まる。その競争に勝つための新たな職業が生まれるだろう。(中原氏)

最近新たに生まれた業種にマッチングサービスがある。持つ人と持たない人のアンバランスを調整する仕組みは、AIと相性がいいので、マッチング系のビジネスは今後も生まれるだろう。ただし、基本的には、既存の業界が別の形に発展していく姿が主流だと考えている。例えば、建設業がAIを活用した新たな建設業に脱皮していくイメージだ。単なる効率化ではなく、別のサービスと組み合わせたり、サービスを高度化させたりして、新しい形にビジネスを発展させていく企業が10年先にも生き残る企業だろう。(長谷氏)

中原圭介(なかはら・けいすけ)
経済アナリスト
1970年生まれ。慶應義塾大学文学部卒。経営・金融のコンサルタント会社、アセットベストパートナーズ㈱の経営アドバイザー。企業・金融機関への提言、執筆・セミナーで経営教育・経済教育の普及に従事。幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、その予測の正確さには定評がある。『中原圭介の経済はこう動く 2016年版』(東洋経済新報社)など著書多数。

長谷佳明(ながや・よしあき)
野村総合研究所 上級研究員/ITアナリスト
同志社大学大学院修士課程修了後、外資系ソフトウェア企業のコンサルタントを経て、2014年に㈱野村総合研究所入社。現在は、ITアナリストとして、先進的なIT技術や萌芽事例の調査、コンサルティングを中心に活躍している。古明地正俊氏との共著に『AI(人工知能)まるわかり』(日経文庫)がある。(『THE21オンライン』2019年07月22日 公開)

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