不動産を売るためには、専門知識が必要だ。業者に言われるがまま契約を結んでしまい、損をしてしまった人は少なくないだろう。しかし、いくつかのポイントさえ知っておけば、できるだけ高い値段をつけてもらい、費用を抑えてスムーズに売却することができる。

不動産を売却するときに「知らないと損をするポイント」について、実際の売却の流れに沿って解説していこう。

不動産を売却する手順は?

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(画像=PIXTA)

手順1.売却する理由や希望条件を明確にしておく

不動産の売却を考えるときに、まず大切なのが「その物件をなぜ売るのか」「いつまでにいくらで売りたいのか」をはっきりさせることだ。親子や夫婦で共有している財産の場合は特に、後でトラブルにならないよう全員で共通認識を持っておきたい。

なぜリフォームでも建て替えでも賃貸でもなく、「売却」する必要があるのだろうか。住み替えるなら、次の家は購入するのか、賃貸なのか。それに必要な費用はいくらで、それを用意するには物件をいくらで売却できればいいのか。それは急ぐのか、いつでもいいのか。

このように、考えるべきことはたくさんある。この段階で出た答えによって、この後で出てくる物件価格の設定や契約方法の選び方が変わってくる。さらに、その先の人生設計やそれに伴う資金計画にも影響してくるので、時間をかけて考えたい。

手順2.物件の相場を調べる

不動産を売却すると決めたら、自分の物件が今いくらで売れそうかチェックしてみよう。このプロセスをおろそかにしたばかりに、業者に言われるがまま相場よりずっと安い価格で大切な家を手放してしまう人がもいる。損をしないためにも、ここは最低限の知識を身につけて臨みたい。

不動産の価格は立地条件や築年数、方角や階数など、複数の要素によって決まる。2つとして同じ条件のものはないので、正確な価格を算出するのは難しい。しかし、最近はインターネットで検索すれば近隣の過去の取引事例が簡単に見つかるようになった。それを参考に、おまかな金額でいいので「相場」をつかもう。

たとえば、「レインズマーケットインフォメーション」というサイトがある。レインズは国土交通大臣から指定を受けた不動産流通機構が運営する不動産情報システムのことで、すべての不動産業者が物件情報を共有している。

本来レインズは不動産業者のためのものだが、一般の人でも地域ごとの過去の成約事例に限り閲覧できる。検索結果はグラフで表示されるので、売却価格が集中する価格帯や過去数年の市場動向の変化などが一目でわかる。

同じく国土交通省が管轄している「土地総合情報システム」でも相場を確認できる。詳細な地図が表示され、知りたいエリアを感覚的に選ぶことができるので使いやすい。そのほか、CMなどでも有名な大手企業が運営する住宅情報サイトもいくつかあるので、上手く活用して所有不動産の価格相場を知っておこう。

手順3.不動産会社に査定を依頼する

自分で一通り調べ終えたら、不動産業者に査定を依頼する。プロの目で見てもらい、実際の売出価格を設定しよう。

査定方法には、住所や面積など数字で表れる情報をもとに算出する「机上査定」と、担当者に現地を見てもらい算出する「訪問査定」がある。机上査定は、インターネットのサイトで必要な項目を入力するだけなので結果が出るのも早いが、周囲の状況や日当たりなどの条件は反映されない。訪問査定は手間はかかるが、実際に目で見た情報すべてが反映されるので、適正価格が算出されやすい。

ここでの重要なポイントは、複数の業者へ査定を依頼することだ。業者や担当者によって、査定額や対応の丁寧さ、専門知識の量、得意な不動産ジャンルが異なる。不動産業者には、その後の売り出しや購入希望者との交渉、手続きまでサポートしてもらうことになるので、この時点で信頼できる不動産業者と担当者を見つけておきたい。

訪問査定では、査定金額の理由や近隣の取引状況などを質問してみよう。きちんと教えてくれなかったり、ぞんざいな扱いを受けたりした場合は、のちのトラブルや損失を防ぐためにも別の業者を探したほうがいい。

近隣でうまく物件を売却できた友人や業界に詳しい知人がいれば、誠実に対応してくれそうな業者を紹介してもらうのもいいだろう。一括で複数の業者に見積もりを依頼できるサイトもあるので、面倒でも何社かとコンタクトを取ることをおすすめする。

手順4.媒介契約を結び、売り出す

信頼できる業者が見つかったら、媒介契約を結び、いよいよ自分の物件を売り出すことになる。媒介契約とは、簡単に言えば「あなたに私の不動産の売却を任せるので、買いたい人を見つけてきてください」という依頼のことだ。

媒介契約には、「専属専任媒介契約」「専任媒介契約」「一般契約」がある。それぞれメリットとデメリットがあるので、自分の意向に合う契約方法を選ぶのがここでのポイントだ。

専属専任媒介契約では、契約を結ぶのは1社だけで、もし自分で購入者を見つけてきたとしても、契約した会社を通して手続きしなければならない。一方不動産業者には、5日以内にレインズに物件情報を掲載することや、1週間に1度販売状況を報告することなど、ほかの契約形態にはない義務が課される。

1社に依存することにはなるが、不動産業者は確実に仲介手数料が手に入るので、優先的に買い手探しに取り組んでくれることが多い。また、不動産に関して何か問題が起きても、契約した業者に相談しやすいので安心だ

専任媒介契約も専属専任媒介契約と同じで、契約を結ぶのは1社だけだが、もし自分で購入者を見つけてきた場合は購入者と直接やり取りできるなど、条件によっては契約会社を通さなくてもいいことになっている。友人・知人・親族など自分の身の回りで購入希望者が現れる可能性があるなら、この契約を選んでもいい。

一般契約は、何社とでも媒介契約を結べる契約形態だ。もちろん自分で購入者を見つけてきても問題ない。複数の会社が競って購入者を探してくれるので、販売価格など自分の希望する条件が通る可能性は高くなるが、何人もの担当者と同時並行でやり取りをしなければならない。また一般契約では、業者側に物件情報掲載や販売状況報告などの義務がない。

手順5.購入希望者を探してもらう

広告を出したり、購入希望者の問い合わせに対応したりと、物件が売れるよう汗をかくのは不動産業者の役目だ。しかし、売り主も黙って待っているわけにはいかず、家の掃除や手入れなどをして物件を購入希望者に公開したり、価格交渉に応じたりと、この段階で売り主側がすべきことは意外に多い。

購入希望者の希望に応じて、物件購入時の資料などが必要になることもあるので、まとめておくといいだろう。それらは物件の有力な情報であり、購入の決め手になることもあるからだ。

手順6.契約・引き渡し

購入希望者が見つかり、価格など条件面の折り合いがつけば、売買契約を結ぶ。その後、物件を引き渡すと、晴れて売却手続きが完了する。

このときに注意しておきたいのは、売買契約書の内容だ。多くの場合、「売却後に構造や設備に何か問題が見つかった場合は、売り主の負担で直します」という内容の瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)の条項が定められている。小さい文字が大量に書かれているので読む気にならないかもしれないが、自分の負担や責任について書かれている項目もあるので、契約前に一度は契約書に目を通しておきたい。

特に注意すべきは、引き渡し日だ。消費税率が2019年10月に引き上げられるので、その日付が9月30日以前か10月1日以降かで、税率で2%の差が生じる。土地には消費税がかからないので関係ないが、建物には引き渡し日時点の税率が適用される。

また、仲介手数料は売買契約を結んだ日と引き渡し日の2回に分けて支払うことが多いが、その場合それぞれ当日時点の税率が適用される。2%とはいえ、不動産は動く金額が大きいので、納税額にかなりの差が出ることになる。

さらに、物件を売却した年の1月1日時点での所有期間によって、納める所得税額が変わることもある。このように、契約書に書かれた日付は意外に重要なのだ。

知識豊富で熱心な担当者なら、このようなことも教えてくれるかもしれないが、そうでない担当者にあたると、知らないうちに損するほうを選んでしまいかねない。信頼できる不動産業者を見つけることは、かなり重要なポイントだ。

不動産売却時に気をつけたい3つのポイント

1.仲介手数料には上限額がある

不動産売却にかかる費用の中で、大きな割合を占めるのが「仲介手数料」だ。これは、法律で以下のように上限額が定められている。

売却価格 仲介手数料の上限
~200万円以下 物件価格の5%+消費税
200万円超~400万円以下 物件価格の4%+2万円+消費税
400万円超 物件価格の3%+6万円+消費税

自分で計算するのは少々面倒なので、以下の具体例を見てほしい。

売却価格 消費税8%(~2019年9月) 消費税10%(2019年10月~)
1,000万円 38万8,800円 39万6,000円
3,000万円 103万6,800円 105万6,000円
5,000万円 168万4,800円 171万6,000円
1億円 330万4,800円 336万6,000円

仲介手数料は、上限額以内であれば不動産業者が自由に設定できるが、ほとんどの業者が上限額を仲介手数料として設定している。この上限額を超えて請求する業者は、信頼できない業者と判断していいだろう。

2.売却時の費用は工夫すれば抑えられる

仲介手数料以外に必要な費用には、登記費用、引っ越し費用、各種税金(印紙税、固定資産税、消費税、譲渡所得にかかる所得税・住民税)などがある。

必ずやらなければならないわけではないが、買い手を見つけやすくするためにリフォームや耐震診断などを行った場合は、その費用もかかる。また、売却代金でローンを完済できない場合は、基本的に売却ができないので、それを補てんする資金も必要になる。

登記費用は司法書士に頼むと数千円~3万円程度かかるが、ある程度時間と知識があるなら、自分で登記申請をして費用を抑える方法もある。引っ越し費用は、3~4月の引っ越しシーズンを避け、複数の業者から見積もりを取って交渉すると安く済むことが多い。

印紙税や固定資産税は法律で定められているので節約できないが、所得税・住民税は確定申告することで税額控除が受けられ、節税できるケースもある。特に、長年住んだマイホームや相続で受け取った空き家は、特例で通常よりも税金が優遇されている。

たとえば、「居住用財産(マイホーム)の3,000万円特別控除」という制度では、「売却した金額-購入した金額-かかった費用=譲渡所得」がプラスになった場合、つまり売却益が出た場合でも、利益が3,000万円以内なら税金がかからない。もしマイナスになってしまったら、「譲渡損失の損益通算や繰越控除」の対象となり、税金が安くなる。

そのほかにも「マイホームを10年以上長期所有したことによる軽減税率」や「特定のマイホームを買い換えたときの特例」、相続で受け取った空き家を売却したときの「被相続人の居住用財産の3,000万円特別控除」などの制度があるので、該当するものがないか調べてみよう。よくわからなければ、不動産業者や税理士、FPなどに相談するといいだろう。

3.担当者が物件を囲い込んでいないか確認する

良くない業者に依頼してしまった場合、「囲い込み」されることがある。囲い込みとは、別の業者がその物件に関与することを妨げ、自社が買い手と売り手の双方から仲介手数料をもらえるように動くことだ。

通常はレインズに物件情報を登録して、ほかの不動産業者も閲覧できるようにする。ほかの業者が購入者を紹介した場合、買い手側の仲介手数料はその業者が受け取ることになり、自分たちは売り手側からしか仲介手数料を受け取れなくなる。そこで、自社の売上を上げるために、ほかの不動産業者を妨害してまで物件を独占しようする業者がいるのだ。

囲い込みをされると、売り手は買い手を見つけにくくなり、買い手側もその会社を通さないと物件情報を確認できなくなる。自分が契約した業者がそのようなことをしないように、レインズに正しい情報が掲載されていることを証明する「登録証明書」を業者から受け取り、中身を確認するようにしよう。

不審に思ったら、他の不動産業者に自分の物件がレインズに掲載されているか問い合わせてみるのも手だ。

手順とコツを押さえて賢く物件を売却しよう

不動産を扱う仕事をしていない限り、不動産の売却は慣れないことばかりだろう。面倒な手続きにうんざりすることもあるはずだ。しかし、信頼できる業者を見つけられれば、順を追って必要なことを教えてもらえるだろう。希望に近い条件で売却できるよう、ポイントを押さえて立ち回りたい。

文・馬場愛梨(ばばえりFP事務所 代表)