移住や地方の実家の処分、離婚、不動産投資のなどの理由で、最近は一般の人が不動産を売却する機会が増えてきた。しかし、不動産の売却に伴う税金や確定申告については無頓着な人が多く、そのままでは無用な損をするおそれがある。そこで今回は、不動産売却にかかる税金の内容や金額、特例や確定申告について詳しく解説するので。ぜひ参考にしてほしい。

不動産売却にかかる税金は確定申告をする

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(画像=PIXTA)

日本では、原則的に「すべての利益」に対して税金がかかる。不動産も同様で、売却して利益が発生したら税金も発生する。税金が発生するということは、確定申告が必要になる。残念ながら、勤務先の会社が自動的に年末調整をしてくれるわけではない。

不動産を売却して「利益が発生したら」税金が発生するので、「利益が発生しなかったら」税金も発生せず、確定申告をする必要はない。税金計算や確定申告が面倒だからといって不動産を安値で売却する人はいないので、「不動産売却に税金と確定申告は付きもの」と考えておいたほうがいいだろう。

確定申告はいつ行う?

確定申告の時期は、法律で「翌年の2月16日~3月15日」と決まっている。不動産を売却して利益が発生した場合は、この期間に確定申告をするわけだ。厳密に言えば、確定申告の時期は休日の関係で、多少は前後することはある。事前に確認しておこう。

不動産売却においては、所得税と住民税(+印紙税)が発生する。所得税については確定申告期限である3月15日までに納める必要があるが、住民税は後払いだ。5月頃に納付書が届くので、それを使って納めよう。売却によって利益が出た翌年は、税金だけでなく社会保険料も上がるので注意したい。

確定申告を行わないとどうなる?

確定申告が必要なのに行わないでいると、そのうち税務署から督促が送られてくる。その際、延滞税というペナルティを受けることもある。無視をしていると、ペナルティが厳しくなっていくので特に注意しよう。

不動産売却で利益が発生しなければ確定申告は不要だが、それでもしたほうが賢明だ。利益が発生しないということは損失が発生しているはずであり、確定申告をすれば給料など他の収入にかかる税金を減らせる可能性があるからだ。不動産売却では損失が出るケースも多いので、確定申告は怠らないようにしたい。

不動産売却には譲渡所得税がかかる

税金は「どうやって利益を得たか」によって税金の計算方法や税率が異なり、適用される特例や制度、税額も変わってくる。たとえば会社員の給料は「給与所得」、不動産売却によって得た利益は「譲渡所得」に該当するが、それぞれで税金の内容が異なるわけだ。

少し紛らわしいが、株式やゴルフ会員権などを譲渡して発生した利益も譲渡所得に該当する。譲渡所得の中でも、土地や建物などの不動産については別枠で様々な規定があるため、きちんと区別して理解することが重要だ。

同じ不動産でも、家賃収入などは「不動産所得」に該当するため、特に初心者は混同しないように注意してほしい。

譲渡所得税の計算方法

土地や建物を譲渡したときの税金の計算方法は、以下のとおりだ。

収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額

収入金額とは、「不動産を売却して得たお金」と考えて問題ない。取得費とは、土地や建物を買った時の値段(購入代金)や建築代金、手数料などだ。設備費や改良費なども含まれるが、減価償却費相当額は差し引く必要があるので覚えておこう。

実家を売却する時などは、購入したのがはるか昔で取得費がわからないことも多いが、そんな時は「収入金額の5%」を取得費とすることができる。特別控除額とは、(詳しくは後述する)特例のことだ。基本となる税金計算方法については、しっかり押さえておこう。

税額の計算方法

課税譲渡所得金額を計算したら、これに税率を掛ければ税額が確定するが、不動産は「不動産の所有期間」によって税率が異なる。具体的には、以下のとおりだ。所有期間の計算は、購入時も売却時も、その年の1月1日を基準にすることを覚えておこう。

区分 所得税 住民税
長期譲渡所得(5年超) 15% 5%
短期譲渡所得(5年以下) 30% 9%

簡単に言えば、不動産は税金の面では「短期売買は損」と言える。離婚や不動産投資における不動産の売却は、短期譲渡になることが多いので注意したい。「課税譲渡所得金額がマイナスなら税金は発生しない」こととセットで覚えておこう。

譲渡所得を節税できる特例と必要書類

自宅などの不動産は、個人資産の大部分を占めることが多い。不動産に多額の税金が発生すると、後の当人の生活に悪影響を及ぼすため、様々な特例(優遇制度・特別控除額)が設けられている。できる限り活用し、節税に励みたい。

特例の適用を受けるためには、条件を満たす必要がある。条件を満たしていることを証明する書類を提出して、ようやく特例の適用を認めてもらえるわけだ。初心者にはわかりにくい書類もあるだろうが、節税のためにも頑張って揃えるようにしよう。

3,000万円の特別控除の特例

簡単に言えば、「自分が住んでいる自宅を売却する時」には3,000万円の特別控除が認められる。住まなくなった自宅を売却する場合も、3年以内なら適用されると考えていい。これは、長期譲渡・短期譲渡の区別なく適用されるが、親子間や夫婦間などの売買には適用されないので注意しよう。

この特例を受けるための必要書類は、以下のとおりだ。

・登記事項証明書(不動産を管轄する法務局で取得)
・不動産の売買契約書(契約時に取得、コピー可)
・譲渡所得の内訳書(税務署で記入用紙をもらう)

これは、以下ので説明する特例と同時に受けられることもある最も基本的な特例と言える。自宅を売却する時は、まず「3,000万円の特別控除の特例」を思い出してほしい。

軽減税率の特例

簡単に言えば、「所有期間10年を超えるマイホームを売却する時」に、低い税率を適用してもらえる制度だ。「3,000万円の特別控除の特例」を適用して計算した課税長期譲渡所得金額に対して、以下の税率が適用される。

課税長期譲渡所得金額 所得税 住民税
6,000万円までの部分 10% 4%
6,000万円を超える部分 15% 5%

この特例を受けるための必要書類は、以下のとおりだ。

・登記事項証明書
・不動産の売買契約書
・譲渡所得の内訳書

結婚後すぐ離婚する場合を除けば、多くのケースで利用できる特例だろう。

買い換えの特例

簡単に言えば、「所有期間10年を超えるマイホームを買い換える時」には、税金を納める時期を先延ばしにできる特例だ。「3,000万円の特別控除の特例」や「軽減税率の特例」とは併用できない。売却価格1億円以下、売却した年を基準に前後3年以内に買い換えるなど、様々な条件がある。

この特例を受けるための必要書類は、以下のとおりだ。

・登記事項証明書
・不動産の売買契約書
・譲渡所得の内訳書

「3,000万円の特別控除の特例」と比較され、譲渡所得が3,000万円を超える場合に選ばれることが多い。

不動産売却で損失が発生した際の特例

簡単に言えば、「所有期間5年を超えるマイホームを売却して損失が出た時」に、給料など他の所得から損失分を3年(当年を含めて4年)にわたって差し引ける制度だ。新たにマイホームを買い換える場合とそうでない場合で、条件が多少異なる。なお、合計所得金額が3,000万円を超える年には使えない。

この特例を受けるための必要書類は、以下のとおりだ

・登記事項証明書
・不動産の売買契約書
・譲渡所得の内訳書
・住宅ローン残高証明書(売却前後どちらかの不動産に住宅ローン残高が必要)

買い換える場合は新居の条件が、買い換えない時は住宅ローン残高がネックになる。税金を気にして購入するかどうか考えるケースは稀だと思うが、売却時は少し意識したいところだ。

譲渡所得を節税するために必要な書類一覧

譲渡所得の節税には、共通して以下の書類が必要になると考えていいだろう。

・登記事項証明書
・不動産の売買契約書
・譲渡所得の内訳書

制度や事情によっては、以下の書類も必要だ。

・住宅ローン残高証明書
・仲介手数料や登記費用などの領収書

その他に、「戸籍の附票」が必要なこともある。事前に必要書類はすべて揃えておき、確定申告に臨もう。

確定申告に必要な書類一覧

確定申告に必要な書類は、以下のとおりだ(どちらも税務署またはインターネットで入手できる)。

・確定申告書B様式(すべての所得を申告できる書類)
・分離課税用の申告書(分離課税所得を申告できる書類)

これらに、譲渡所得を節税するのに必要な書類を添付して申告する。確定申告初心者は、税務署に行って相談しながら書類を作成すると早く済むことが多い。

確定申告の2つの方法

確定申告には、方法が2つある。税額が変わることはないが、申告の手間はかなり変わる。「パソコン操作に慣れているか」ポイントになるので、自分の力量を考えてどちらかを選ぼう。

紙面で行う

パソコンに不慣れな人は、「紙面で行う」といいだろう。紙面は税務署に取りに行くほか、インターネットでダウンロードもできる。提出は紙面を税務署に直接持って行くことも、郵送することもできる。確定申告期間中、受付時間を延長する税務署もあるので、直接提出する場合は事前に確認しておこう。

インターネットで行う

パソコンに慣れている人は、「インターネットで行う」ほうが手軽だろう。自動で計算してくれて、入力が必要な箇所も教えてくれる。納税までのすべてをインターネットで完結したい場合は、別に「電子証明書の取得」なども必要になる。

損失が出ても必ず確定申告は行おう

不動産売却においては、利益が出れば当然、損失が出ても税金対策として確定申告をすべきだ。初心者は苦手意識があるだろうが、税金や確定申告の知識は、他の節税方法や投資でも使える。総じて「自分の利益にもつながる」ものなので、積極的に学んでほしい。