一般の人が不動産を売却する機会は、一生のうちで何度もないだろう。一度も経験せずに人生を終える人もいる。よって、不動産売却の勝手や注意点がわからず、知らない間に損をしてしまう人は非常に多い。不動産は「一生で最も大きな取引」だからこそ、些細なことが大きな損につながるので注意が必要だ。そこで今回は、初心者が不動産売却で気をつけたいポイントを流れに沿って解説するので、ぜひ参考にしてほしい。

不動産売却の流れ

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(画像=PIXTA)

不動産売却に限らないが、完璧を求めないほうがいい。損をしたくないあまりに完璧を求めすぎると、かえって損をしやすくなる。不動産売却は、「相手」がいてはじめて成立するものだ。相手にも事情があるので、完璧を求めると取引は成立しにくくなる。

ある意味では、結婚に似ているかもしれない。完璧な相手を求めすぎて、売れ残ってしまう人は少なくない。最終的には売れるとしても、時間が経つほど価値が落ちて、大損する人がいる。「売れる時に売る」ことが大切なのだ。

普通に売却すれば1,000万円で売れたのに、欲をかいたばかりに500万円でしか売れなかった……このような損は、絶対に避けるべきだ。「より良く売却する」よりも、「より悪く売却しない」ことが大切だ。初心者であっても最低限のポイントを把握し、損失を回避してほしい。

次の章から、初心者でもイメージしやすいように不動産売却の手順に沿って、基本と最低限押さえるべきのポイントを説明していく。

不動産の相場価格を算出する

不動産には、定価がない。最終的には売主と買主の話し合い(価格交渉)で値段が決まるため、たとえ造りがほぼ同じ分譲マンションの隣の部屋でも値段は違って当然だ。極論すれば、税金などを無視すれば1円で売ってもいいし、買主が承諾すれば1兆円でも売れる。

不動産には定価はないが、「相場価格」はある。たとえば、造りがほぼ同じ分譲マンションの隣の部屋が2,000万円で売却できたなら、自分の部屋も2,000万円程度で売れる可能性が高い。これが相場価格だ。相場価格を基準に、売主と飼い主が協議して最終的な値段を決めることになる。

たとえば、同じ缶コーヒーでもお店によって値段が違うことがある。自販機では120円、スーパーでは90円、商業施設内では150円ということも珍しくない。この場合、この缶コーヒーの相場価格は「90円~150円」となる。不動産の相場価格を知るためには、様々な売買事例を調べることが大切だ。

競合が多ければ安売りされるだろうし、喉がカラカラに乾いている人なら高くても買うだろう。相場価格が100円なら1,000円では売れにくく、10円なら即完売するだろう。近所に50円で売っている店があれば多くの人がそこで買うだろうが、それが数キロ先の店なら「50円に対する価値観」で行動は変わるだろう。

まずは、近隣物件の売買事例と所有不動産の客観的価値を考慮して、「自分なりの相場価格」を出してみるといいだろう。また、不動産にはいろいろな「価格」があるので、この機会に覚えてほしい。

公示価格

簡単に言えば、公示価格は「公的に定められた指標となる土地価格」だ。価格は毎年変わり、あくまで指標なので例外も多いが、参考にするといいだろう。公示価格は、固定資産税の評価や経済指標としても使われる。

路線価

簡単に言えば、路線価とは「道路に付けた公的価格」だ。その道路に接している土地の価格を表し、主に相続税・贈与税の税額計算で不動産価格を確定させるために使われる。すべての道路に路線価があるわけではない。路線価は公示価格の80%程度だが、他の判断材料がない場合は参考になる。

仲介する不動産業者を探し、査定を依頼する

所有不動産を購入してくれる相手を自力で探すのは、極めて困難だ。仮に自力で探せたとしても、素人同士ではトラブルになりやすいし、相手がプロなら交渉で負けてしまう可能性が高い。自分なりの相場価格を割り出したら、次は仲介してくれる不動産業者を探そう。

不動産業者を探す時の注意点は、以下のとおりだ。

近隣物件の販売状況(相場など)に詳しい業者か

相場とは、想像以上に難しいものだ。所有不動産は、安く売れば損をするし、高くすれば売れない。相場価格の根拠は曖昧であり、価格の受け取り方も人によって違う。今日の適正価格が、明日は割高・割安になることもある。売れなければ価値が下がっていくし、本当に難しい問題だ。

その意味で、売主・買主の双方が納得できる相場価格をリアルタイムで把握することは、極めて重要だ。幸いなことに、最近ではインターネットでも相場を知ることができるので、買い手が相場価格とかけ離れた値段を言ってきたら、少し考えたほうがいいだろう。

近隣物件の販売・売買実績があるか

一口に不動産業者といっても、実際には様々な業者がある。開業して間もないところもあるし、何年もろくにお客さんが来ないところもある。悪徳業者もいる。まともな業者でも、海外や遠方の不動産取引ばかりしていて、近隣の事情を知らないこともある。

経験が少ないとトラブルの可能性は高くなるため、その不動産業者による近隣物件の販売・売買実績はチェックしておいたほうがいい。一般的な業者なら、アピールのために自社サイトに実績を掲載していることが多い。似たような売買を多く経験していれば、安心できる。

査定額の理由について十分な説明があるか

不動産には絶対的な定価が存在しないわけだが、この事情は業者にとっても同じだ。代わりに相場価格があるわけだが、相場とは極めて不明瞭なものだ。不動産は一つとして同じ物件は存在せず、似た物件でも値段は違う。その価格である理由について、納得できないまま不動産を売買する人はいないだろう。

「もっともらしい理由」が納得する人は出てくるだろうが、中には理由や根拠を明かさない業者もいる。査定額提示という取引の入口においてこの調子では、以後の取引も納得できないまま続いていく可能性が高い。完璧を求めてはいけないが、説明しようとする姿勢があるかどうかは厳しく見極めよう。

肝心なのは、複数の不動産業者に査定を依頼することだ。初心者でも、プロ同士を比較すれば違いを感じることはできる。最終的に1社に絞ることもあるが、その1社を探し出すためにも、まずは複数の不動産業者をあたってみよう。

最初に依頼するのは、売却予定の不動産の査定だ。簡単に言えば、「いくらくらいで売却できそうか」という相場価格(一般に見積もり価格)を業者に出してもらう。価格は業者によって違うのが普通で、高ければいいわけではない。自分の相場価格と比べて、本当の相場価格を見極めよう。

不動産会社を選び、契約を結ぶ

不動産会社による査定は、基本的に無料である。無料なのはその後の取引を期待しているからなのだが、あなたにとっては関係のないことで、査定だけでやり取りを終わらせても問題ない。気に入った不動産会社とだけ契約を結べばいいのだ。

不動産会社との契約には3つの形態があり、それぞれにメリット・デメリットがある。以下で詳しく見ていこう。

複数
契約
自己
取引
レインズ登録 業務報告 契約期限
一般媒介契約 任意 任意 制限なし
専任媒介契約 × 7営業日以内 2週に1回以上 3ヵ月以内
専属専任媒介契約 × × 5営業日以内 1週に1回以上

複数契約や自己取引とは、それぞれ「複数の不動産会社との契約」「あなたが自分で見つけた相手との取引」の可否のことだ。レインズとは、簡単に言えば「不動産会社間の専用情報サイト」である。以上を踏まえて、契約形態を1つづつ解説しよう。

一般媒介契約

不動産会社との関係性が最も弱い契約である。複数の会社と契約でき、自分で取引相手も探せるが、不動産会社にとってはその分売買契約に結び付く(利益になる)可能性が低い。契約会社が増えるほど連絡の手間も増えるが、稀に不動産会社間の競争で有利に売却できることもある契約形態だ。

専任媒介契約

後述の専属専任媒介契約を、少し緩くした契約である。契約内容は専属専任媒介契約に準ずるが、「自分で取引相手を探すこともできる」ことが最大の相違点だ。不動産会社にとってはライバル業者が絡まなくなるので好まれやすい契約形態だ。売却を見込める知り合いがいるなら、この契約にしておくといいかもしれない。

専属専任媒介契約

不動産会社との関係性が最も強い契約である。複数契約も自己取引もできないため、不動産売却を1つの不動産会社に完全に任せることになる。他の不動産会社を探す必要も、自分で取引相手を探す必要もなくなるため、特に時間がない人におすすめの契約形態だ。

初心者は、一般媒介契約にするか、残りの2つのどちらかにするかでまず悩むかもしれない。後者を選んだとしても、契約は最長でも3ヵ月なので、そこまで深く考える必要はないだろう。ダメだと思ったら、3ヵ月後に別の会社と契約すればいい。

不動産を売り出す

まずは、売却予定の不動産に「現実的な値段」を付けてみよう。値段を決めるのは、あなただ。自分で考えた相場価格と不動産会社が付けた査定価格を元に、「とりあえずの値段」を付ける必要がある。実際の売買価格は、買い手との値段交渉の末に決まる。

値段は、一度付けたら終わりではない。最終的には値段交渉によって決まるが、そもそも購入希望者が現れなければ話にならない。相場通り、査定通りの値段を付けても、購入希望者が現れないことは珍しくない。売却を期待する期日(期限)を考えながら、値下げも覚悟して売り出そう。

値段を付けたら宣伝しよう

売り出すとは、言い換えれば「宣伝する」ことだ。「こんな不動産を〇円で売っていますよ~」と、広くに宣伝するわけだ。宣伝の方法は、一般的にレインズ登録や広告媒体への掲載などが多い。契約形態によっては、自分でも積極的に買主を探すといいだろう。

最近はインターネット広告で宣伝することも多くなったが、その際は不動産の外観や内観の写真画像を掲載することが多い。ある程度は仕方ないが、外装や内装が汚れていたり傷んでいたりすると、買主の購入意欲は薄れてしまうだろう。直接物件を見に来る人もいるかもしれないので、整頓や掃除はしっかりやっておこう。

その他の注意すべきポイント

レインズはもともと不動産会社が閲覧するために作られたが、平成28年1月から、専任媒介契約または専属専任媒介契約を結んだ売主に限って登録状況を閲覧できるようになった。客観的に自分の物件ページを確認し、初心者ならではの視点と発想を生かして、早期の売買契約締結を目指したい。

不動産物件を広告・宣伝する際は、一定のルール(不動産業界の自主規制)があるので十分注意しなければならない。稀に契約した不動産会社がルールを無視して広告・宣伝し、後でトラブルになることがある。初心者だから許されるわけではないので、契約した不動産会社を信用しつつも、売主として最低限の注意は払うようにしよう。

買い主との契約を締結し、引き渡す

無事に買主が見つかり、双方が納得できる値段が決まったら、売買契約を結んで不動産を引き渡すことになる。契約には一定のルールがあるものの、原則的には自由だ。値段以外の取り決めも意外に多く、売主または買主に希望があれば、さらに項目は増える。初心者でも契約は自己責任なので、しっかり内容を確認して契約しよう。

不動産の売買においては、「手付金」と呼ばれるお金を、契約締結時に買主が売主に支払うのが一般的だ。手付金は売買代金の一部であり、主に以下の3つの意味合いがある。

証約手付 契約締結を証明する(購入の意思表示)
解約手付 買主は放棄、売主は倍額返済をもって、契約を解除(解約)できる
違約手付 契約違反時、損害賠償とは別にペナルティとして没収される

特に解約手付の意味合いが強いが、解約は無制限に行うことができない。簡単に言うと、物件の引き渡し後や代金全額の受け取り後は解約できないことになっている。事情や考えは変わることもあるので、念のため覚えておこう。

契約責任は重く、簡単には解約できない

初心者が考える以上に、契約は極めて重いものだ。内容にもよるが、基本的に一方が一方的に解約することも、内容を変えることもできない。友人との約束とは違い、契約内容を無視したり、契約内容と異なることを行うと、裁判によって契約内容を強制的に実現されてしまう可能性もあるので十分注意しよう。

売主は、特に瑕疵担保責任に気をつけたい。瑕疵担保責任の瑕疵とは「隠れた欠陥」という意味で、簡単に言えば「購入時に買主が気づかなかった大きめの欠陥」のことだ。責任期間は主に3ヵ月~1年以内で、瑕疵が見つかると売主は補修・修理費用を負担するほか、損害賠償責任を負うこともある。

大地震などの天災によって物件引き渡しが困難になった時は、売主は無条件で契約を解約できる。買主の住宅ローン審査が通らなかった時は、買主は(特約を付けていれば)無条件で契約を解約できる。他にも一部の例外はあるが、「原則的に一度結んだ契約は解約できない」と心得ておこう。

不動産の状況によって注意点は増える

一口に不動産を売却するといっても、実際には様々な個別の事情が発生するものだ。たとえば、売却予定の不動産が相続した物件の場合や、一戸建ての場合などはさらに注意すべき点が増える。数え上げればキリがないが、代表的な事情くらいは知っておいたほうがいいだろう。

代表的な事情とその詳細は、以下のとおりだ。

相続した物件の場合

相続した物件の場合、「登記がされているかどうか」を入念にチェックしよう。不動産には直接名前を書けないため、登記の名義で持ち主を判断する。仮に遺産分割協議書などに、あなたに不動産を譲る旨が書いてあったとしても、それだけで登記の名義が変わるわけではないことを覚えておいてほしい。

名義変更の登記がされていないなら、その不動産は未だに故人の所有物と見なされるので、そのまま売却することはできない。取引先の不動産会社、または司法書士に相談し、早めに名義変更の手続き(所有権移転登記・相続登記)を依頼することをおすすめする。

住宅ローンが残っている場合

売却予定の物件に住宅ローンが残っている場合は、そもそも売却することができない。住宅ローンが残っているということは、物件には抵当権が付いているということであり、いつ銀行に取り上げられてもおかしくないからだ。そんな物件を買いたいと思う人など、いるはずがない。

抵当権は、住宅ローンを完済すれば抹消するための手続きを取れる。自己資金で完済するほか、例外的に「売却代金を住宅ローン返済に充てる」こともできる。これも例外的だが「買い替え(住み替え)ローンを使う」という選択肢もある。不動産会社と相談しながら、最適な方法を模索しよう。

共有名義の場合

物件が共有名義の場合、売却できないことがある。相続で得た場合や夫婦で購入した場合に共有名義になっていることがあるが、共有名義ということは「不動産は名義人全員のもの」ということだ。1人の名義人だけの意向で売却することはできないし、もちろん1人でも反対する人がいれば売却できない。

共有名義の場合は、まずは名義人全員の同意を(できれば書面で)得ることが重要だ。買主としても、後の無用なトラブルは避けたいと考えるはずなので、このプロセスは不可欠と言えるだろう。

どうしても買主が現れない場合

どうしても買主が見つからない場合は、仲介を依頼した不動産会社が買い取ってくれることがある。これを「買取保証」という。ただし、このサービスが利用できるかどうかは不動産会社や物件によるし、買い取ってくれる場合でも一般的には査定価格よりさらに割安な価格になる。とはいえ売り急ぐ理由がある時には頼れるサービスと言える。

不動産は個別に取引されるため、足元を見られることも多い。買主は少しでも割安で買いたいと考えているので、売り急がなければならない時は、たとえ相手がまっとうな人でも買い叩いてくると思って間違いない。このことを肝に銘じておこう。

初心者が不動産を売却する時というのは、往々にして「売却する理由(時間)が差し迫った時」であることが多い。時間が限られるほどに些細な困難も大きくなりやすく、大金が動くからこそ解決が困難になることも多いわけだ。

ほとんどの場合、不動産を売却する理由は「不動産以外のこと」だ。一般の人なら、基本的に「プライベートなこと」だろう。自身のライフプランを最優先に考え、それに合わせた無理のない売却計画を元に行動することをおすすめする。

最も気をつけたいのは契約時の確認

不動産売却で、初心者がもっとも気をつけたいのは「不動産会社との媒介契約」だろう。特に以下の3点は、入念に確認するようにしよう。

・自分の希望を聞き入れてくれるか
・仲介業務の内容は希望通りか
・仲介手数料はいくらか

初心者であればあるほど、結果は「味方になってくれる不動産会社の質(と力量)」に大きく左右される。力量は初心者にはわかりにくいかもしれないが、担当者の「人間的資質」は、社会人経験があれば多少なりとも感じ取れるのではないだろうか。

他者が原因でこうむる損の感じ方は、実際の金額以上に感情的な要素によるところが大きい。怠惰が原因なら少額でも憤りを感じるだろうが、必死に取り組んだ結果なら大金を失っても納得できるものだ。親身になってくれる不動産会社を探して味方につけ、納得した上で気持ち良く売却を終えてほしい。