結果の概要:雇用者数は前月、市場予想を下回る、失業率は前月、市場予想に一致
9月6日、米国労働省(BLS)は8月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+13.0万人の増加(1)(前月改定値:+15.9万人)と、+16.4万人から下方修正された前月を下回り、市場予想の+16.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)も下回った(後掲図表2参照)。
失業率は3.7%(前月:3.7%、市場予想:3.7%)とこちらは前月、市場予想に一致した(後掲図表6参照)。労働参加率(2)は63.2%(前月:63.0%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(後掲図表5参照)。
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(1)季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
(2)労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。
結果の評価:労働需給は依然タイトなものの、雇用増加のペースは鈍化
8月の雇用増加数が10万人台前半に留まったほか、過去2ヵ月分が合計▲2.0万人下方修正された結果、過去3ヵ月の月間平均雇用増加数は15.6万人増、19年通年では15.8万人増となった。これは18年通年の22.3万人増からは低下したものの、当研究所の19年通年予想(10万人台半ばから後半)に概ね沿った水準である。ただし、8月まで2ヵ月連続で雇用の伸びが鈍化しているほか、8月が国勢調査に絡む臨時政府職員(+2.5万人)によって底上げされていることを考慮すると、足元は当研究所の想定を下回る雇用増加ペースとなっている。
家計調査は、失業率が3ヵ月連続で横這いとなったものの、労働参加率が3ヵ月連続で上昇しているため、労働需給の改善が持続していることを示す結果と言える。
一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.4%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と、前月、市場予想を上回った。また、前年同月比は+3.2%(前月改定値:+3.3%、市場予想:+3.0%)と、こちらは+3.2%から上方修正された前月値を下回ったものの、市場予想は上回った(図表1)。
このようにみると、8月は家計調査で労働参加率の改善が持続しているほか、賃金の伸びも堅調となるなど、労働需給がタイトである状況に変化がみられないものの、雇用者数は臨時政府職員などの特殊要因を除くと当研究所の想定以上に雇用増加ペースが鈍化していることを示した。このため、8月の雇用統計は、当研究所の来週FOMC会合での0.25%政策金利引き下げ見通しに影響を与える結果ではなかった。
事業所調査の詳細:民間サービス部門の伸びが鈍化
事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+8.4万人(前月:+13.3万人)と前月から伸びが大幅に鈍化し、3ヵ月ぶりに1桁台の伸びに留まった(図表2)。
民間サービス部門の中では、娯楽・宿泊が前月比+1.2万人(前月:▲0.7万人)と前月からプラスに転じたほか、専門・サービスも+3.7万人(前月:+3.6万人)と前月並みの伸びを維持した。一方、医療サービスが+2.4万人(前月:+2.9万人)と前月から伸びが鈍化したほか、小売業が▲1.1万人(前月:▲0.5万人)と7ヵ月連続の減少となった。
財生産部門は前月比+1.2万人(前月:▲0.2万人)となり、こちらは前月からプラスに転じた。製造業が+0.3万人(前月:+0.4万人)と前月並みの増加となったほか、建設業が+1.4万人(前月:▲0.2万人)と前月からプラスに転じて全体を押上げた。
政府部門は、前月比+3.4万人(前月:+2.8万人)と前月から伸びが加速した。内訳をみると、連邦政府が+2.8万人(前月:+0.2万人)と前月から伸びが加速した。これは前述のように国勢調査に絡む臨時政府職員の増加が大きい。一方、州・地方政府は+0.6万人(前月:+2.6万人)とこちらは前月から伸びが鈍化した。
前月(7月)と前々月(6月)の雇用増加数(改定値)は、前月が+15.9万人(改定前:+16.4万人)と▲0.5万人下方修正されたほか、前々月が+17.8万人(改定前:+19.3万人)と、こちらも▲1.5万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲2.0万人の下方修正となった(図表3)。
なお、BLSの公表に先立って9月5日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+19.5万人(前月改定値:+14.2万人、市場予想:+14.8万人)と、+15.6万人から下方修正された前月改定値を上回ったほか、市場予想も上回った。ADP統計は、8月の雇用統計で雇用者数を押上げた臨時政府職員を含まないため、雇用の伸びが鈍化した雇用統計とは対照的な結果と言えよう。
8月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が28.11ドル(前月:28.00ドル)となり、前月から+11セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.3時間)と前月から+0.1時間増加した。この結果、週当たり賃金は966.98ドル(前月:960.40ドル)と前月から増加した(図表4)。
家計調査の詳細:労働力人口は4ヵ月連続増加、労働参加率は3ヵ月連続で上昇
家計調査のうち、8月の労働力人口は前月対比で+57.1万人(前月:+37.0万人)と4ヵ月連続の増加となった。内訳を見ると、就業者数が+59.0万人(前月:+28.3万人)と大幅に増加した一方、失業者数が▲1.9万人(前月:+8.8万人)とこちらは4ヵ月ぶりに減少した。非労働力人口は▲36.4万人(前月:▲18.3万人)と、こちらも4ヵ月連続の減少となり、職探しのために労働市場に再参入する人数が増加していることを示した。
この結果、労働参加率は63.2%と3ヵ月連続の上昇となった(図表5)。また、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率も8月は82.6%(前月:82.0%)と前月から+0.6%ポイントの上昇となった。男女の内訳でも男性が89.0%(前月:88.9%)と前月から+0.1%ポイント上昇したほか、女性が76.3%(前月:75.3%)と+1.0%ポイントの上昇となった。
失業率は、前述のように3ヵ月連続で横這いとなったものの、労働力人口が4ヵ月連続増加、労働参加率も3ヵ月連続で上昇しており、家計調査は労働需給の改善が持続していることを示す結果と言えよう。
8月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は124.3万人(前月:116.6万人)と前月から+7.7万人増加した。また、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも20.6%(前月:19.2%)と、前月から+1.4%ポイント上昇した(図表7)。さらに、平均失業期間も22.1週(前月:19.6週)とこちらも前月から+0.5週の長期化となった。
最後に、周辺労働力人口(156.4万人)(3)や、経済的理由によるパートタイマー(438.1万人)も考慮した広義の失業率(U-6)(4)をみると、8月は7.2%(前月:7.0%)と前月から+0.2%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は3.5%ポイント(前月:3.3%ポイント)と、前月から+0.2%ポイント拡大した。
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(3)周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
(4)U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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