生命保険文化センターによると、医療保険への加入率は88.5%にものぼる。日本人のほとんどの方が加入している医療保険だが、そもそも医療保険について正しく理解している人は多くはないだろう。今回は、医療保険の基本から医療保険の選び方まで詳しく説明する。

医療保険とは?

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(画像=PIXTA)

医療保険とは、病気や怪我になってしまい入院や手術、通院などをした時に保険金が下りる保険だ。そもそも、民間の医療保険は、公的医療保険の保障だけでは賄えない部分をサポートする商品として登場しており、必ず入らなければならないものでもない。メリット・デメリットを踏まえ、加入を検討したい。

医療保険のメリット

医療保険の主なメリットは3つある。

精神的な安心感

医療保険のメリットの1つ目は、医療保険に入っているという安心感を得ることが出来ることだ。

当然、病気や怪我をして入院をすると病気や怪我が治るかどうかが一番心配になる。しかし、病気や怪我になると思わぬ出費がかかり経済的な負担は大きい。つまり、安心して治療に専念するためには、お金が必要になるということだ。

その点、医療保険に入っておけば入院日額保障や手術した時に保険金が下りる、病気や怪我をしても保障がある精神的安心感は、医療保険の大きなメリットだろう。

保険料控除が利用出来る

医療保険は保険料控除が利用できるため、節税に繋がることもメリットの一つだ。

保険料控除とは、保険料の一部を課税所得から差し引くことが出来る制度である。保険料の一部を、課税所得から差し引くことが出来るので、当然ながら所得税や住民税の負担が少なくなる。

保険料控除には、「生命保険料控除」、「医療・介護保険料控除」、「個人年金保険料控除」の3種類があり、入っている保険の種類によって適用される保険料控除は違う。

保険料控除は、それぞれ年間支払った保険料のうち最大8万円までが対象になる。つまり生命保険料控除、医療・介護保険料控除、個人年金保険料控除をそれぞれ最大限使えば、年間24万円が所得控除の対象になるのだ。

まとまった貯蓄がなくても安心

自らにまとまった貯蓄がない場合も、医療保険があると安心だ。貯蓄がないと、大きな病気や怪我をした時、支払いに困ってしまうことがあるかもしれない。日本には、高額療養費制度という制度があるため、1か月にかかる医療費の自己負担額には上限があるものの、それだけでは心配という人も多いだろう。

万が一病気になった時の自己負担額に不安を抱えているなら、医療保険に加入するメリットが大きいと言えよう。

医療保険のデメリット

医療保険の主なデメリットは2つある。

高齢になるほど保険料負担が高くなることがある

医療保険のデメリットの1つ目は、更新型の医療保険だ。更新型の医療保険とは、一定年齢に達するたび保険料が高くなってしまう保険のことである。

年齢が高くなるほど入院する可能性は大きくなる。しかし更新型の医療保険では、高齢になればなるほど保険料の負担が大きくなってしまう。本当に医療保険が必要な年齢になった時に保険料が払えなくなってしまう可能性があるのだ。

現在は、保険料が一生変わらない終身型の医療保険が主流だ。しかし更新型の医療保険も存在する。更新型の医療保険には特に注意したい。

貯蓄が多い人には不要?

医療保険不要論を唱える人もいるが、それは、医療費は貯蓄でも十分補えることがあるからである。医療保険は掛け捨て型のタイプが多く、実際に受けられる給付金よりも支払った保険料の方がはるかに多いということも少なくない。医療保険の保険料を病気に備えて貯金をしておけば、病気になった時に貯金から医療費に充てることも可能だろう。また、公的医療保険には、1か月の医療費が一定額を越えると超えた部分に関しては戻ってくる高額療養費制度がある。

使うか使わないか分からない医療保険の保険料を払うよりも、貯金で医療費を用意しておいたほうが、経済的な合理性が高い場合は多々あるのだ。

公的医療保険の基礎知識

医療保険の加入を考えるにあたって、公的医療保険制度への理解は非常に重要だ。結論からいうと日本の公的医療保険制度は非常に充実している。よく理解し、医療保険加入の参考にしよう。

公的医療保険制度とは

日本は国民皆保険制度の国である。国民皆保険なんて当たり前と思われている方もいるかもしれない。しかし世界的にみると国民皆保険制度は決して当たり前ではないのだ。世界一の経済大国である、アメリカでさえ国民皆保険の制度はない。この時点で、日本はかなり恵まれているとも考えられるだろう。

公的医療保険には種類がある

公的医療保険は、主に自営業の人が入る国民健康保険と主にサラリーマンの人が加入する健康保険(被用者保険)に分かれる。

国民健康保険と被用者保険は共通点も多いが、保険料の計算方法など一部違うところもある。今回は、国民健康保険、健康保険共通して受けることが出来る保障内容について説明をする。合わせて高齢者が加入する後期高齢者医療保険についても確認しよう。

公的医療保険で受けることの出来る主な保障

公的医療保険で主に受けることが出来る保障は、4つある。

① 医療費の助成
公的医療保険では、医療費にかかる大部分を助成してくれている。

医療費の自己負担割合は、最も負担する人で3割だ。つまり残りの7割は、公的保険が助成してくれているのだ。

年齢別・収入別の自己負担の割合は、以下のようになる

6歳(義務教育就学後)以上69歳:3割
70歳以上74歳以下:2割(70歳以上でも一定の所得がある場合は3割)
75歳以上:1割(75歳以上でも一定の所得がある場合は3割)

子供に対する保障は、国民健康保険や健康保険だけではない。未就学児以上でも多くの自治体では、子供の医療費の自己負担額は0にしているのが現状だ。東京の千代田区などは、15歳まで子供の医療費負担は0である。

このように、医療費の自己負担に対する公的医療保険制度は非常に充実しているのだ。

② 高額療養費制度
高額療養費制度とは、1か月の医療費が一定額を越えると超えた部分に関しては戻ってくる制度のことをいう。高額療養費制度があるおかげで、大きな病気や怪我をしても自己負担額は少なくて済むようになっている。

高額療養費制度は、年齢や所得によって自己負担の上限額が変動する。しかし、1か月にかかる医療費の上限額が決まっているので、安心して治療に専念できるのはメリットだろう。

③ 介護保険制度
公的医療保険制度では、介護の保障も提供している。現代の日本では、少子高齢化や家族形態の変化に伴い、介護の必要がある人を家族だけで支えるのは非常に困難になっている。

介護保険の対象になるのは、第1号被保険者(国民健康保険加入者)は、65歳以上となり、第2号被保険者(被用者保険加入者)は、40歳から65歳未満になる。

第1号被保険者は、要介護認定や要支援認定を受けた時で特段原因を問われることなく介護サービスを受けることが出来る。第2号被保険者に関しても、加齢に伴う特定の疾病が原因で認定を受けたときには、介護サービスを受けることができる。

今の時代、介護が必要になる可能性は高い。公的医療保険制度で介護の保障があることは大きな安心感につながる。

④ 出産一時金
出産一時金とは、子供が生まれると一人につき42万円の支給を受けることが出来る保障だ。双子の場合は84万円を受給することができる。

もちろん42万円ですべてを補えるわけではない。しかしあるとないのとでは大きく違うはずだ。何かとお金が必要な現役世代にとって、出産一時金は非常にありがたいものになるはずである。

医療保険に入るべき人

公的医療保険がこれだけ充実しているにも関わらず、民間の医療保険へ加入する必要はあるのか、疑問に思う人も多いだろう。結論からいうと、医療保険に加入すべきか否かは人によって異なる。しかし、ここでは参考までに、医療保険に入るべき人、不要な人の典型的なパターンを紹介しよう。

まずは、医療保険に入ったほうが良い方について説明をする。医療保険に入ったほうが良い人は主に3つのケースがある。

先進医療を受けたい人

医療保険に入ったほうがよい場合の1つ目は、先進医療を受けたい方だ。

先進医療とは、公的医療保険の対象外の最先端の医療になる。先進医療は、公的医療保険が効かないので全額自己負担になってしまう。先進医療の種類によっては自己負担額が、100万円を超えてしまうことも珍しくない。

高額な治療費がかかってしまう先進医療ではあるが、効果の高い治療法は非常に多い。 いざ自分が先進医療を受けられる病気になった場合は、先進医療を受けたいと考える方は多いはずだ。

そんな時に役立つのが民間の医療保険である。先進医療に対する保障は、特約としてオプションのように付けるパターンが多く、一般的には、月々数百円の負担で付けることができる。また、最近ではすでに基本プランに組み込んでいるところもあるようだ。

医療保険の先進医療特約の中には、先進医療を受けに行くための交通費も負担してくれる保険もある。先進医療は全国どこの病院でも扱っている治療法ではない。遠方の病院に先進医療を受けに行く場合、交通費も大きな負担になってしまうため、そこまで配慮してくれているのは頼もしい。

ちなみに、先進医療特約だけで加入することはできない。あくまで医療保険の特約になる。先進医療に興味がある方は、医療保険に加入することをおすすめする。

差額ベッド代が不安な人

病気や怪我で入院を余儀なくされたとき、大部屋か個室かを選べることが多い。もちろん、個室の場合は一泊の料金が高くなる。これを差額ベッド代といい、差額ベッド代は、公的医療保険の保障の対象外になっている。

つまり、入院の際、個室などを希望する場合は、その費用は自己負担額になってしまうのだ。もちろん潤沢な貯蓄があれば貯蓄から費用を負担すれば問題はない。しかし、貯蓄がない場合や貯蓄が少ない場合、差額ベッド代は大きな経済的負担になってしまう。

その点、医療保険は入院日額保障があるものが一般的なので、保険金を差額ベッド代に充てることが出来るのだ。

今後の日本の公的医療保険制度に不安がある人

日本の公的医療保険制度は非常に充実しているというのは前述の通りである。しかし、今後も現在と同水準の保障が確保されるかどうかは分からない。

現在、日本の社会保障費用は30兆円を超え、医療部分も10兆円を超えている。少子高齢化が進んでいく将来はどうなってしまうのだろうか。今後の公的医療保険制度に不安があるなら、民間の医療保険を検討する価値は大いにあるのだ。

医療保険に入らなくてもいい人

医療保険に入らない方がよい人は主に2つのケースがある。

潤沢な貯蓄がある人

十分な貯蓄がある場合は、医療保険に加入する必要は無い。もし病気や怪我で入院や手術をした場合は、貯蓄を取り崩して医療費に充てればいいからだ。

しかしこのケースの場合も、先進医療特約については例外的に検討する必要はある。なぜなら先進医療を受ける場合は非常に高額になるからだ。基本プランは掛け捨て型のお手頃な医療保険に加入し、先進医療特約をつけておくというのも一考だろう。

公的医療保険制度で十分と考えている人

医療保険に入らなくてもいい場合の2つ目は、公的医療保険制度で十分と考える場合だ。

先程説明した通り日本の公的医療保険制度は非常に充実している。もともと先進医療を受けるつもりもなく、入院しても個室などを希望するつもりもない人や、保険料を負担してまで更に民間の医療保険に入る必要はないと考える人には、民間の医療保険は必要ないといえるだろう。

医療保険の選び方 3つのポイント

医療保険は、多くの会社から多数の商品が販売されている。そのため、情報が多すぎて何をどう選んでいいのか悩んでしまう人も多い。ここからは、今まで説明してきたことを踏まえ、医療保険に加入したい人におすすめする医療保険のポイントについて説明しよう。

民間の医療保険を検討する際は、主に次の3点に気をつけて欲しい。1点目は、先進医療特約が付いているかどうか、2点目は、保険料が一生涯変わらない終身タイプの保険か、3点目は、告知条件だ。

先進医療特約が付いているかどうか

先程の章で説明をしたので詳細は省くが、高額な自己負担が強いられる可能性のある先進医療を受けることに備えて先進医療特約は付けておくことが無難だろう。

先進医療特約の保険料は月々数百円だ。せっかく医療保険に入るのであれば、先進医療特約は付けるべきだと思う。

保険料が一生涯変わらない終身タイプの保険か

もし医療保険にこれから加入するのであれば、保険料が一生涯変わらないタイプの医療保険をおすすめする。

一定年齢になると保険料が更新されてしまう「更新型の医療保険」では、本当に医療保険が必要なときに保険料が高額になってしまい利用出来ない可能性があるからだ。

保険に加入する時は、遠い未来の自分に対しても配慮する必要があると言えるだろう。

告知条件

告知条件については、特段健康状態に問題がなければ全く気にする必要はない。しかし、持病があるなど身体の状態に不安がある場合は注意しよう。

ひと昔前の医療保険は、身体の状態に不安があればそもそも加入出来ない保険が主流だった。

現在では、身体の状態が不安な方でも加入出来る医療保険も増えてきた。しかし、身体の状態に不安があっても加入できる医療保険は、保険料が高額になってしまったり、現在持っている病気を起因とする新たな病気に関しては保障されないことが多い。

いくら医療保険に加入したいからといって、必要な時に最適な保障を受けることが出来なければ意味はない。また、保障内容対比保険料が高額の場合は、医療保険で準備せず、貯蓄しておいた方が良いと言える。

医療保険が必要か否かはその人次第

医療保険は、病気や怪我をして入院や手術をした時に非常に役に立つものであることは間違いない。しかし、日本の公的医療保険制度は非常に充実しており、更に民間の医療保険に加入する必要があるかどうかはその人の考え方に大きく左右される。

まずは日本の公的医療保険制度を知り、万が一の時に自分がどうしたいかをイメージすることが大切だ。そして、各保険会社の保障内容や保険料を比較しながら、最適な保険を選んでいきたい。