東京・目黒駅より徒歩7分、東京都庭園美術館は、都心とは思えない緑豊かな庭園の中にたたずみます。もともとは戦前にパリに遊学した朝香宮夫妻の邸宅として、実際に使用されていた建物です。当時最新の建築様式で建造され、内部はアール・デコと呼ばれる装飾様式で統一されています。

フランス直輸入のアール・デコ様式を今日まで正確にとどめ、昭和初期の東京における文化受容の様相をうかがい知ることができる貴重な歴史的建造物として、国の重要文化財に指定されています。

邸宅だったわりに外観は非常にシンプルですが、内部は至るところにアール・デコの装飾品が存在します。「アール・デコの塊」といえる建物は世界でも珍しいものです。その庭園美術館の楽しみ方を紹介します。

大衆向けに流行したアール・デコを格調高く採り入れた庭園美術館

東京都庭園美術館,アール・デコ装飾
(画像=PIXTA)

アール・デコとは装飾美術を意味し、1910年代から30年代にフランスを中心に流行した美術工芸の様式です。それ以前に流行したアール・ヌーヴォーは植物の蔦の絡まりなどを思わせる有機的な曲線が特徴で、装飾性が高く量産に向かないデザインなのに対し、アール・デコは単純・幾何学的なデザインで量産できるのが特徴です。自動車・飛行機や工業製品、近代的都市生活が生まれた時代の変化に伴って流行し、それが家具や建築に取り入れられました。

量産可能な工業製品のデザインから始まったアール・デコは大衆向けの様式でしたが、朝香宮邸においては日仏のデザイナーと技師が建築材料を厳選し、当時最先端の技術を駆使し、宮家にふさわしい格調高い独特のアール・デコ建築を創造しました。

幾何学的植物デザインが面白いアール・デコ装飾作品の数々

正面玄関の扉にあしらわれた女性像のガラスレリーフは、ガラス工芸家のルネ・ラリックが朝香宮邸のためにデザインした作品です。後光のような翼を広げた女性像が均等に4体並んだその作品は、一点もので、大きさからしても貴重な作品です。派手過ぎない上品な印象でまとめられた玄関は、庭園美術館の顔ともいえるでしょう。

展示室に進むと、まず目に入る白磁のオブジェ「香水塔」があります。宮邸時代に香水の香りを漂わせた館のシンボルです。美術館のロゴもこの香水塔をモチーフにしています。存在感のある香水塔に目がいきますが、モザイク柄の床、黒漆の柱に朱色の壁と香水塔を包むようなドーム状の白い天井があり材質、色共に華やかな空間にも注目です。当時この香水塔からどのような香りが漂っていたのでしょうか。想像しながら足を進めます。

さらに奥に進むと大客室と大食堂という部屋があります。ここは、この建物の中でもアール・デコの枠を集めたものであり、空間の雰囲気を楽しみながら細部にまで注目するとアール・デコ装飾の魅力を味わうことができるでしょう。大客室にラリックのシャンデリア「ブカレスト」があります。シャンデリアといっても、繊細に揺れるようなものではなく、分厚いガラスにギザギザとした幾何学的な植物のデザインに面白みがあります。暖炉の装飾や壁、天井、扉にも幾何学的な花が主なモチーフとして用いられています。

大客室が花のモチーフだったのに対して、隣の大食堂は至るところに食べ物のモチーフが使われています。照明はラリックの「パイナップルとザクロ」に始まり、ガラスの扉にも果物、ラジエーターカバーは魚介のモチーフです。他の部屋でも暖房機のカバーや、排水溝のデザインなどよく見ると凝っていてとても面白いです。細部のデザインにぜひ注目してみて下さい。

このように、建物全体が芸術作品といえる庭園美術館では、通常の美術館では注目しないような壁や扉、天井や床の細工や装飾の面白みに触れられるのが魅力です。年に一回行われる建物公開展では、ふだんは見られない部屋の公開や特別演出もありますし、内部の写真撮影も可能です(撮影不可のエリアもあり)。その開催期間を狙っての来館もおすすめです。

庭園だけの入場料なら大人200円とリーズナブルです。季節によって移り変わる庭の風景を楽しんでみてはいかがでしょうか。(提供:JPRIME


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