シンカー:7・9月にFEDが利下げに踏み切り、10年の米国長期実質金利は一時的にマイナスとなり、マーケットには悲観論を織り込んできた達成感が出てきたようだ。重荷になってきたIT関連財のグローバルな調整も進捗してきた。IMFなども、年後半から来年にかけてグローバル経済には持ち直す見通しをもっている。しかし、まだはっきりとした持ち直しの動きが確認できていない。よって、10年の米国長期実質金利は若干のプラスに戻った後、上昇トレンドがまだ形成されていない。持ち直しの動きが明確になるかは、各国の財政政策の緩和がカギを握っているようだ。財政政策の緩和は、総需要を拡大するとともに、悲観センチメントを後退させる力となるだろう。これまで債券市場は財政政策の緩和に対して警戒感がなさすぎたとみられる。グローバルに悲観センチメントが後退すれば、10年の米国長期実質金利が潜在成長率よりも圧倒的に低水準であることが維持できなくなる可能性がある。一方、各国の財政政策の緩和がなく、ブレグジットや地政学上のリスクなどでグローバルに悲観センチメントが強まれば、FEDの更なる利下げを織り込みながら、10年の米国長期実質金利が再びマイナスになる可能性もある。その方向性を決するとみられる各国の財政政策に注目だ。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●【BREXIT】議会閉会は違法と最高裁判所が判断

24日、英最高裁判所はBREXITの期限直前まで議会を閉会するとしたボリス・ジョンソン首相の決定は違法であり、無効だと判断した。議会は10月31日の離脱期限が迫る中、9月10日から10月14日まで閉会されることになっていた。違反判決は11人の判事の全員一致で、最高裁長官は、「女王に議会閉会を進言するという決定は、議会が憲法が定めた機能を果たす能力を阻止するもので違法である」としている。これを受けてバーコウ下院議長は議会を遅延なく招集しなければならないと述べた。判決を受けてジョンソン首相に対する圧力がさらに強まることは必至で、野党議員からは首相に対する辞任要求が相次いでいる。議会は25日に再び召集されることになっており、ジョンソン首相のEU離脱戦略に打撃となるとみられる。

グローバル・レポートの要約

●米国経済(9/19): 9月利下げを実施、追加利下げの必要性では分裂

FRBは見込み通りに利下げを実施したが、今後の着実な景気拡大と金利パスを予測している。弊社では、2019年中にあと1回「予防的な」利下げが行われるという見方を変えない。6月時点ではFOMC参加者の金利見通し中間値が、2019年中に利下げが無いと示唆していた。だが実際には、その後2回利下げが実施された。現在もFOMC参加者のうち7名は、2019年中にあと1回追加利下げがあると見込んでいる。

●英国経済(8/29):BoE政策会合…不確実性の長期化で成長率とインフレ率は低下する

本日(19日)のMPC(BOE~イングランド銀行~の政策決定委員会)では、当然ながら全会一致で政策据置きが決定された。MPCの意見は、経済の現状とブレグジットが経済に及ぼす影響を重視している。議事要旨の全体的なトーンは、前回会合よりソフトになっていた。(インフレとの関連でMPCが注目する)労働市場が転換点を迎えている可能性があると、MPCは認めていた。また外部環境が悪化している。【結論】弊社は、英国の政策金利がピークに達したという見方を維持する。最初の利下げは来年になるとみられる。

●債券市場(9/2):キャッシュ・アンド・キャリー

先々週から先週にかけて中央銀行の政策決定会合が相次いで開催され、債券市場ではフロントエンドの利回りが上方修正されたが、背景にはそれぞれ異なる理由が存在した。貿易紛争をめぐる緊張の緩和、物価統計のポジティブな内容、さらには株式相場の反発を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は当面、様子見のアプローチをとることが可能になった。しかし、最終的には景気後退リスクが大幅な金融緩和を迫る可能性がある。米国金利の短期的な予想は米連邦公開市場委員会(FOMC)のように割れているが、世界に広がるキャリー追求の流れが結局は利回りの低下につながる見通しだ。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司