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(画像=anek.soowannaphoom/Shutterstock.com)

去る14日(リヤド事件)、サウジアラビアの石油生産プラントが攻撃を受けた。この攻撃の結果、サウジアラムコ社が保有する脱硫設備がダメージを受け、サウジアラビアの石油生産量の約半分―それはグローバル規模での原油生産量の約5パーセントに相当する―が供給困難となり、原油マーケットが高騰したのは言うまでもない。

(図表1 ドローン攻撃を受けたとされるサウジアラムコ社の石油関係施設の衛星写真)

ドローン攻撃を受けたとされるサウジアラムコ社の石油関係施設の衛星写真
(出典:New York Post)

この事件について犯人もさることながら、攻撃タイミングも非常に重要であるということをまずは指摘したい。なぜならばサウジアラムコ社が上場に向けた動きを8月に改めて公表したばかりだったからである。生産設備が大いに被害を受けたものの、サウジアラビアは早急な復旧が可能と言及しており、実際、月末にも再生産が可能なのだという。原油価格の高騰により、結果t系に上場に向けた追い風が吹いているというわけだ。

他方で、誰が犯人なのかを無視するわけにもいかない。それについてはたとえば事件の直後にはイランが支援しているとされるイエメンのフーシ派が犯行声明を出した。他方でイラク勢に在るイラン勢の基地から発進したドローンが今次事件の犯人であるとのリーク報道もされているのであり、いずれにせよイラン犯人説が取りざたされているのである。その結果、イランは米国から追加の経済制裁を受ける結果となった。

そもそも米イラン関係を巡っては先月のG7サミットにおいてマクロン仏大統領がザリーフ・イラン外務大臣を同サミット会期中に会場であったビアフラに招待しており、フランスが米イラン関係の改善に努めてきたという経緯があった。去る23日(米東部時間)からの国連気候行動サミットにおいてイランを巡る環境について「何か」が生じる旨、その直前にマクロン仏大統領が言明していたのである。

ではマクロン仏大統領が言及した様な変化が生じたのかといえば、大きな行動が無かったかのように見えるのだ。しいて言えば、16歳の環境活動家が政治家を非難する演説を行なったこと位である。

(図表2 国連気候行動サミットで怒りを込めた演説を行なったグレタ・トゥーンベリ)

国連気候行動サミットで怒りを込めた演説を行なったグレタ・トゥーンベリ
(出典:みんなの仮想通貨)

しかし原油から天然ガスへの移行という大きな変化が生じたのだと考えると非常に合点が行くのである。

米国がシェール・ガスの増産を始めてきたのは周知の事実であるが、他方でここ数か月の間にトランプ政権や連邦議会の間で焦点となってきた事項の一つがアラスカ州の(ガス田)開発だったのである。BPがアラスカ州におけるガス田事業からの撤退を一昨月(8月)に表明したが、それを買収したのも米国だったのである。米国からしてみれば、原油マーケット、更には天然ガス・マーケットの高騰という「濡れ手に粟」がこの事件での利益なのである。

フランスにしても、有力な石油メジャーである仏トタルが米国の液化天然ガス(LNG)事業への多額の投資を行なってきたのであり、またパリ協定の推進を図ることが可能であるという2つの面で利益のある話なのだ。

それだけではない。今回のサミットに向けて、実はロシアが公式にパリ協定へ参加したのである。ロシアの主力輸出製品の一つが天然ガスであることは言うまでもなく、今回の事態はサウジアラビアへの武器輸出を拡大し得るという意味でも歓迎すべき事態なのだ。

また米国と共にイランへの非難を行なってきたイスラエルにとっても望ましい結果であった。なぜならば、事件の直後(17日(テル・アヴィヴ事件))に総選挙を控えていたのであり、イランの脅威を“喧伝”できることは収賄容疑で劣勢に晒されていた強硬派であるネタニヤフ首相にとっては望ましい事態であった上、そもそも天然ガス輸入国から輸出国へと一転させ得るだけの膨大な埋蔵量をもつ海底ガス田を開発中であるイスラエルからすれば、国家全体として見ても望ましい事態なのである。

他方で、今回の攻撃で最も被害を受けたと言えるイランは、実は世界有数の天然ガス埋蔵国でもあるのだ。これらを併せてみると、産油国・産ガス国が有力な競合であるイランを抑えて商品(コモディティー)マーケットの高騰を“演出”してきたのだと考えることで全てに合点が行くのである(なおイランにとってもトルコがイラン産原油や天然ガスの輸入継続を表明しているため、必ずとも損ばかりではないことを付言しておく)。

とはいえこうした事態はエネルギー輸入国である我が国にとってみれば歓迎できない事態であることは言うまでもない。ただし天然ガス・マーケットが活性化すればするほど、(東)アジア・マーケットからしてみれば米露が販路拡大に向けて反目し合うわけである。我々に今できるのは、知恵を絞ってそうした米露を上手くとりなして可能な限り安価にエネルギーを輸入することである。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。