大企業・製造業の業況IDは前回比△2ポイントの悪化と続落の格好になった。米中貿易戦争によって、未だ下げ止まりがみえない。今後は、10 月1日からの増税インパクトをもっと詳しくみて、10 月末の決定会合の判断を下すことになるだろう。
増税前の需要増があっても業況悪化
10 月1日に発表された日銀短観は、大企業・製造業が5となり、前回比△2ポイント悪化であった。2019 年になって、業況悪化は、3月前回比△7ポイント、6月同△5ポイント、9月同△2ポイントとペースダウンしている。とはいえ、10 月1日の消費税率引き上げを控えて、まだ下げ止まったとは言えない。
業種別にみると、電気機械が前回比+3ポイント改善した。生産統計でも確認されるように、電子部品・半導体は底入れの動きである。5Gへの移行が、裾野広く需要反転にも寄与しているだろう。業務用機械の改善は、レジスターなど消費税絡みの需要とみられる。反面、はん用機会、生産用機械は中国の設備投資需要の減退による打撃が大きい。中国経済悪化は、窯業、鉄鋼、非鉄など素材にも色濃い。自動車も中国での販売不振が響いているとみられる。やはり、米中貿易戦争がじりじりと製造業の業績を下押しする動きとなっている。
非製造業も、業況は前回比△2ポイントと悪化した。卸売が前回比△9、宿泊・飲食が同△8、電ガスが同△8ポイントと悪化が目立つ。日韓関係悪化が、インバウンド消費にも響いて、宿泊・飲食は悪いのだろう。
注目されるのは、非製造業の先行きDIである。大企業・非製造業は、先行きDIが△6ポイント悪化する予想である。中小・非製造業は、先行きDIが△9ポイントも悪化する予想だ。
今回、増税前の駆け込みは、中小・小売業の現状では+3ポイントの改善となっている。それでも、全体としてみて駆け込み需要が小さいことは、短観でも確認できる。とはいえ、「駆け込みが少ないから反動も小さい」と言えるほど企業は先行きを楽観していない。
需要悪化ないけれど様子をみたい
黒田総裁は、常々、需給ギャップがプラスであることを物価上昇の根拠として挙げる。大企業・製造業では、国内需給DIは前回比横ばい、非製造業は前回比+2ポイントの改善である。中小・非製造業も、国内需給は前回比+1ポイント改善した。おそらく、この状況では短観が早期緩和の決定打にならないだろう。
ただし、消費税率引き上げがこの環境を崩すリスクは十分にある。非製造業の仕入価格DIは、大企業で前回比△5ポイント下落、中小企業で同△4ポイント下落となっている。今のところ、需給ギャップはプラスだが、増税に反応して、値下げ圧力・デフレ圧力が強まるリスクはくすぶっている。筆者ならば、物価を巡る環境変化に対して、10 月末まで様子をもっと注意深くみたいと考える。日銀の政策委員たちもきっと同じ感覚を持っていることだろう。
売上・収益は下方修正
業況悪化は、収益環境の悪化を反映しているとも言える。大企業・製造業は、2019 年度の経常利益計画が△2.2%ポイントの下方修正となった。大企業・非製造業は、同計画が△3.4%ポイントの下方修正であった。そうした計画の下振れが、マインド悪化に響いているとみられる。
消費税に関連するところでは、大企業・非製造業の2019 年度下期計画は、売上が△0.5%ポイントの下方修正だった。一方で、中小企業・非製造業の下期計画は、売上が+0.3%ポイントの上方修正だった。こちらには、キャッシュレス決済ポイントへの期待もあるのだろう。
設備投資はやや鈍化
大企業の設備投資は、前回比で小幅の下方修正だったが、それでも2019 年度の製造業で前年比11.8%、非製造業で同3.6%と堅調であった。むしろ、中小企業の方が、毎回の上方修正ペースが製造・非製造ともに鈍いようにみえた。やはり、ここにきて消費税率の引き上げに少し戸惑っているのだろう。日銀の設備投資の見方を大きく修正するものではないと思うが、やはり増税による不確実性はいくらか影響している。
10 月の決定会合に向けて
日銀は、緩和含みのスタンスで10 月末の会合に臨む。今回の短観をみる限り、必ず緩和することへの決定打ではないとみる。黒田総裁は、会見で増税の影響は軽微だと切って捨てたが、実際はもっと慎重にみているはずだ。
当面は楽観せず、値下げ圧力がどのくらいCPIを押し下げているかをみるだろう。10 月29 日に発表される東京都区部のデータ(10 月中旬までの物価)など細かいところまで観察して、次回会合に備える。また、鍵を握るのは、政府の対策である。それと連携した緩和もあり得る。政府が対策を打つタイミングをみて、緩和カードを切ることもある。
次回10 月の緩和の可能性は、もっと増税の影響をみなくてはわからないが、今のところ50:50 くらいだと考えている。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生