駆け込み需要の程度を測る上で、9月の消費動向が注目されている。ここでは、公表の早い自動車販売と百貨店販売の結果を紹介する。駆け込み需要がみられないと言われていた今回の消費増税だが、最後の最後でそれなりの駆け込みが発生した模様である。
前回増税時との比較では小さいが、自動車でも一部に駆け込み
19 年9月の乗用車販売台数(普通・小型乗用車販売台数と軽乗用車販売台数の合計)は前年比+13.6%と高い伸びになった。8月の前年比+4.9%から伸びが大きく拡大し、季節調整値(筆者試算)でも8月が前月比+3.8%、9月が+2.7%と2ヶ月連続で高い伸びとなっている。新型車効果もあったようだが、駆け込み需要による押し上げも相応に影響したものと思われる。
これで7-9月期の乗用車販売台数(季節調整値)は前期比+3.2%と、4-6月期の+4.3%に続いて明確に増加、前年比でも+7.5%(4-6月期:+2.1%)と伸びを高めている。前回増税前の13 年10-12 月期(前期比+4.9%、前年比+20.3%)、14 年1-3月期(前期比+7.1%、前年比+20.9%)と比較すればかなり控えめであることは確かだが、今回も駆け込み需要は多少生じたとの評価になるだろう。
自動車については、政府が需要平準化策の一環として自動車関連税制の見直しを行っており、増税後の購入でも大きな不利にならないようになっている。ただし、増税前と後の購入でどちらが得になるかは環境基準や車体価格、利用年数等によってマチマチで、増税前の購入が有利になるケースもあった。そのため一部で駆け込み需要が発生したものと思われる。
百貨店では前回増税時に匹敵する大きな駆け込み
駆け込み需要がより明確に出たのが百貨店売上だ。10 月1日に、主要百貨店5社が9月の売上高(速報)を公表した。5社すべてが前年比で2割以上の増加となっており、駆け込み需要による押し上げが顕著だ。これを元に9月の全国百貨店売上高(全店ベース)を試算すると前年比+26%程度となり、8月の同+2.0%から急増する形になる。また、これに季節調整をかけたところ、9月の前月比は+25%と急増。7-9月期で見ても前期比+7.9%の大幅増になっている(4-6月期:+0.7%)。駆け込み需要がいかに大きなものだったかが確認できる。9月はジュエリーやラグジュアリーブランドなど高額品の売上が急増したほか、化粧品や衣料品等も売上を大きく伸ばした模様である。
ちなみに前回14年の消費税率引き上げ時は、14年3月の百貨店売上高(全店ベース)は前年比+25.2%、前月比+23.4%だった。盛り上がりに欠けるといわれた今回の駆け込み需要だが、高額品の多い百貨店に関しては、増税直前になって前回と同程度の大きな駆け込み需要が発生したようだ。
駆け込みとその反動は予想以上に大きくなる可能性が
このように、9月は特に百貨店において大きな駆け込み需要がみられているほか、自動車でも一部で駆け込み需要が顕在化したようだ。百貨店は高額品が多いという特徴があることから駆け込み需要は元々大きく出易いが、それでも予想以上の大きさだった。スーパーやコンビニといった食料品が中心の業態では、たばこを除いて駆け込みは生じにくいはずだが、この調子だと家電量販店やドラッグストアでも意外に駆け込み需要は大きくなるかもしれない。筆者は7-9月期の個人消費について前期比+0.3%を予想していたが、実際にはこれを上振れる可能性が高まっているようだ。一方、駆け込み需要が大きいことの裏返しで、その反動も当然大きくなるため、10-12月期の個人消費の落ち込みはこれまでの予想以上に大きくなるかもしれない。
なお、駆け込みとその反動については、均してしまえばニュートラルであり、本質的なものとは言い難い。本当に重要なのは、消費増税に伴う実質所得の抑制によってどれだけ個人消費が基調として下押しされるかである。その意味において重要になってくるのが11月以降の消費動向だ。増税による負担増の重石から戻りが弱い状況が続くのか、それともキャッシュレスポイント等の対策が功を奏して速やかに水準を戻していくのか。増税後の家計の消費行動については不透明感が非常に強く、予想は極めて難しい。予断を持たずに、今後公表される経済指標を確認していきたい。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴