トルコ軍がシリア北部へと侵攻したことが世界的に話題となっている。その北部にはクルド人が展開しているからだ。トルコにおいてクルド人はテロリストとして扱われ、トルコにおける少数民族問題として長年争点となってきた。トルコとクルド人の本格的な戦闘が生じているというわけなのだ。クルド人側も反撃を開始しており、この両者間の戦闘は泥沼化を否定できない。
これが大きな問題になっている一因が、この騒乱に米国による意思が介在している可能性があることだ。そもそもシリア近隣のクルド人勢力は2014年頃から米国から支援を受けてきた経緯がある。それは、イスラム国(IS)との戦いにクルド人を展開してきたためである。すなわち、クルド人問題が再燃することは、イスラム国(IS)の再活性化をもたらす可能性があるのだ。本稿はその可能性を検討する。
そもそもクルド人は中東の広域に分布しており、かつては国をもたない中で最大級の人口を誇る民族とされてきた。実際、トルコからシリア、イラクといった各地にわたって分布している。
それが大きく変化したのが、2017年9月25日(バグダッド時間)にイラク北部に、イラクからの独立に関する住民投票を行い可決されたためであった。元来クルド人は、国際法の観点では、国家樹立の意思さえ表明できれば国家の樹立も可能な立場にあった。そのため、これを受けてクルド人国家「クルディスタン」が樹立されることとなった。
他方で、このクルディスタンで注目しなければならないのが、その土地がイラクにおける主要油田・ガス田と重なっているという点である。この地域だけで450億バレルも原油埋蔵量があり、また5,700兆立方メートルの天然ガスを埋蔵しているという。そもそもこの近隣地域がイスラム国(IS)に占領されている間、イスラム国(IS)がトルコに原油を密輸出していたことが知られているほどなのだ。したがってこうしたクルド人を巻き込む問題が原油マーケットや天然ガス・マーケットに与える影響を考慮しなければならない。
それだけではない。こうしたトルコとの戦闘により、クルド人勢力がイスラム国(IS)の捕虜を収容している捕虜収容所の人員不足が生じる可能性を表明しているのだ。更にはこのタイミングで突如としてイスラム国(IS)の残党が欧州に逃亡している可能性をトランプ米大統領が表明したのである。そしてインドネシアにおいては大統領側近のウィラント政治・法務・治安担当調整大臣がイスラム国(IS)に参加しているとされるテロリストの襲撃を受けたのである。
再び、イスラム系過激派によるテロ事件がグローバルで発生する可能性に注意しなければならない。そしてこうした“演出”の先には原油・天然ガス・マーケットを注視すべきなのだ。
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。