環境省によると、日本の象牙の売買が活発になっていることが分かりました。譲渡の際に国に登録される本数は2018年に2,600本に上り、2000年の35倍に達しています。一方で、保護団体の圧力も強く、日本の国内市場そのものへの批判があります。放射性炭素年代測定法など密輸や密猟の防止に向けた客観的な手法も導入される中、改めて象牙の利用法や規制の背景を見つめます。

そもそも象牙とは?

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(画像=MadeK/Shutterstock.com)

象牙とはそもそもどのようなものでしょうか。当然アフリカゾウやインドゾウなどの「牙」にあたる部分を言うのですが、これは人間で言えば前歯にあたる「切歯」が伸びたもので、生え替わることはなく生涯伸び続けます。アフリカゾウの雄の牙では3メートル以上、重さ100キログラム以上に達するものもあるそうです。ちなみに、ゾウの歯は人間と異なり上下あわせて4本しかありません。

ゾウの生息数と地域

近年特にアフリカゾウの保護が叫ばれていますが、どのくらい生息数が減少したのでしょうか。世界自然保護基金(WWF)によると、1979年には推定134万頭がいましたが、その後密猟で激減。ワシントン条約で1989年に国際的な商取引が禁止され一部地域では生息数が増える傾向もあるものの、国際自然保護連合(IUCN)の2016年の報告では推定45万1,000頭に減少しています。

2016年の地域別の生息数では、南部アフリカが29万3,000頭、東部アフリカが8万6,000頭と多く、国別ではボツワナ13万2,000頭、ジンバブエ8万3,000頭、タンザニア5万頭、ケニア2万3,000頭と続いています。

一方、インドゾウを含むアジアゾウの頭数は、やや古い2003年の推計値となりますが4万1,000~5万2,000頭で、国別ではインド2万6,000~3万1,000頭、ミャンマー4,000~5,000頭が多いです。ただし、アジアゾウは険しい地形の密林に生息しているため、正確な生息数の把握は困難だと指摘する声もあります。

古代から現代まで、象牙の利用法

日本では古くは正倉院宝物の中に、象牙を赤く染めた物差し「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」や鳥の形に加工した彫刻「撥鏤飛鳥形(ばちるのひちょうがた)」が存在し、奈良時代には象牙が伝来していたことが分かっています。時代を下り、安土桃山時代には茶道具、江戸時代には小物類を帯からつるして持ち歩くときに使う根付やくしなど日用品にも取り入れられました。現代では印鑑、楽器、工芸品などで利用され、生産量の8割が印鑑、1割が楽器の製造に使われているようです。

印鑑で象牙が珍重される理由は、材質に適度なやわらかさがあり、朱肉のつきが良く、また質感も美しい点が挙げられます。象牙はさまざまなグレードに分けられていて、象牙の中心部から中心層、中皮層、外皮層と分類され、芯に近いほど目が細かく耐久性に優れ、高級品として扱われます。特に象牙の中心の芯の部分を含む印鑑は「芯持ち象牙」と呼ばれ、希少性が高いそうです。

一方、楽器では三味線のばちや琴の爪に使われています。三味線のばちにはプラスチックなどの材料もありますが、象牙製は音色の響きが良いそうです。以前は高級ピアノの鍵盤にも利用されましたが、現在は国際的な商取引が禁止されています。

ゾウを巡る国際的な規制

アジアゾウはワシントン条約が発効した1975年から、絶滅の恐れがあり国際的な商取引が禁止される「附属書I」に掲載されました。一方、アフリカゾウも乱獲が問題視され、1989年に附属書Iに分類されました。しかし、ボツワナ、ナミビア、ジンバブエの3ヵ国の個体群は生息数が安定していると認められ、1997年に国際取引が許可制となる「附属書II」に緩和されました。2000年には南アフリカもこれに続きました。

ところが21世紀になってもアフリカゾウの密猟は続き、年間2万~3万頭が犠牲になっていると言われています。2016年のワシントン条約第17回締約国会議では、密猟を抑制するために、需要側の国々で密猟や違法取引につながる国内市場の閉鎖をすべきとの勧告決議が採択されました。

米国や中国などが国内市場を閉鎖することを決めた一方で、日本は国内市場の厳格化を進めることで市場そのものは存続させる方向で進んでいます。

日本の市場管理

日本では2017年、国内市場の管理強化などを目的に「種の保存法改正法」が成立しました。象牙製品の製造販売業が届出制から登録制になったほか、事業者が所有する全形を保持した象牙(全形象牙)の登録、象牙のカットピースの管理票作成などが義務化されました。違反した場合の罰則も強化され、懲役刑の新設や罰金引き上げが決まりました。

さらに環境省は2019年7月、全形象牙の登録時に放射性炭素年代測定法による年代測定の証明を求めることにしました。これにより、その象牙が、国際取引が認められていた時期に採取されたものかどうかが分かるようになります。

象牙市場の行方

こうした規制強化はゾウ密猟の歯止めに一定の効果を期待できそうですが、専門家の中には、密猟を減らすには国内市場を閉鎖し、象牙の経済価値をなくすことが必要だと主張する人もいます。日本はワシントン条約の締約国となって以来、1989年の取引禁止までに2006トンの全形象牙を輸入しましたが、そのうち登録が行われ国が把握しているのは365トンに過ぎません。

一方で、自然死したゾウや、獣害駆除で殺されたゾウから採取された象牙を有効活用すべきだとの声もあり、ジンバブエや南アフリカなどは国内市場の存続を求めています。実際、附属書IIに分類された4カ国からは1999年と2009年に50トンずつ、合計100トンの輸出が許可され、その収益はゾウの保護管理や地域社会の発展に利用されたそうです。なお、このときの輸出先は90トンが日本で、市場管理の厳格さが評価された結果でした。

象牙の利用法の進展は他の生物由来の材料と同様に、人類が育んできた文化の一部と言えます。一方で、ゾウ生息数の減少や維持も人類が直面している課題です。さらには生息地の人々の暮らしに与える影響も考慮すべき重要な要素です。さまざまな立場を超えてどのような着地点が見出せるのか、今後も世界からの注目が集まります。(提供:JPRIME


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