「上位目的」に上がるとは?

ここでメタの視点に上がるとはどういうことかを説明します。メタの視点という言葉自体抽象度が高いのですが、そのうちの一つの側面が「上位目的を考える」ということです。要は一度「上に上がって」上位目的を考えることで別の手段が出てくるということです。

これを模式的に表現したのが次の図です。

メタ思考トレーニング,細谷功
(画像=THE21オンライン)

ここでは依頼主からの依頼や与えられた問題をWhatと表現しています。

まずは図の中心の、基準となる問題(What)が与えられたとして、ここから「上方向」への上位目的を問うWhy?の方向と、下位の具体化の方向、つまりアクションに向かう2通りのステップが考えられます。

下に向かうための疑問詞は、5W1HからWhyとWhatを引いた残りのWhen? Who? Where? How?及びHow ***?(How long?やHow much?など)です。

「Why?」と目的を問うことによって、他の問題(What)が導き出されるイメージをつかんでもらえましたでしょうか。

Why以外の疑問詞というのは基本的にはすべて「具体化」のための疑問詞です。これらは「与えられた問題をどのように解くか」のヒントは教えてくれますが、「そもそも問題は違うところにある」ことを教えてくれる可能性があるのはWhyという言葉だけなのです。

上位目的を考えることの二つの意味

このように上位目的を考える大きな目的、あるいはその効果は大きく二つあります。

先の「ドローンについて調べてほしい」という依頼の例で考えてみましょう。一つ目は先の解説の通り、真の目的を考えたらそもそもやるべきことは他にあると「そもそもの問題を定義しなおしてしまうこと」です。つまり新たな問題を発見するためです。

そしてもう一つの目的は、問題そのものはありきとしても、その問題の解決の仕方、例えばその中のどの部分が優先順位が高く、どの方向性に解決すべきかを示唆してくれるということです。

ドローンの問題でいけば、その調査の目的によって、どういう用途向けのことを重点的に調べるべきか、技術的なことを調べるべきなのか、ビジネスへの用途を考えるべきかといった点を教えてくれるのです。つまりHowのやり方を教えてくれるということになります。

塗り絵に例えれば、先の1番目の目的は、「そもそも塗るべきところはそこではない」ということで、こちらの2番目は「きれいな色の塗り方」を教えてくれるという違いです。

「土俵を変える」とは?

言い方を変えると、これらの違いは「与えられた問題を早くうまく解く」ことと、そもそもその問題が正しいかどうかを疑ってかかり、「本当に解くべき問題を定義し直す」ことの違いです。問題解決の前にある問題の発見とその明確な定義という「上流」にさかのぼって、そもそもの土俵を変えてしまうことがメタ思考としてのWhy型思考の産物です。

これは「戦略」と「戦術」の違いにも通じます。「戦略」というのはいわば「メタの作戦」のことで、そもそもどの土俵で戦うのか、いかに自分の得意な領域に勝負を持ち込むのかというものであるのに対して、「戦術」というのは決められた土俵の中でいかに勝つかの作戦という違いです。これらが上流と下流の違いになることも先の問題発見と問題解決の関係と一緒と言えます。

メタ思考トレーニング,細谷功
(画像=webサイトより)

メタ思考トレーニング
細谷功 発売日: 2016年05月18日
メタ思考とは、「物事を一つ上の視点から考える」こと。その重要性はしばしば語られますが、実践するのは容易ではありません。例えば自分自身を「幽体離脱して上から見る」こと(=メタ認知)は、自己成長のためには必須の姿勢であるとよく言われますが、実際にそれができている人はそう多くはないでしょう。

そこで本書では、メタ思考を実践するための二つの具体的な思考法(「Why型思考」と「アナロジー思考」)を紹介するとともに、それをトレーニングするための演習問題を多数用意しました。

……問題を解いていくうちに思考回路が変わり、考える力が飛躍的にアップする1冊!

細谷 功(ほそや・いさお)
ビジネスコンサルタント
1964年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、東芝を経て日本アーンスト&ヤングコンサルティング(現、㈱クニエ)入社。2012年より同社コンサルティングフェローに。ビジネスコンサルティングの傍ら、講演やセミナーを多数実施。『「Why型思考」が仕事を変える』『メタ思考トレーニング』(PHPビジネス新書)、『考える練習帳』(ダイヤモンド社)など著書多数。(『THE21オンライン』2019年09月10日 公開)

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