要旨
○ 軽減税率と非課税品目を考慮すれば、2%Pt の税率引き上げでCPIコアは1.0%Pt 押し上げられる。
○ 一部の品目では、消費税率引き上げに際して経過措置がとられる。消費税率引き上げによって想定される1.0%Pt のCPIコア押し上げ分のうち、10 月分に反映されるのは0.8%Pt のみであり、残りの0.2%Pt の反映は11 月分に持ち越される。
○ キャッシュレスポイントは消費者物価指数には反映されない。即時還元であっても同様。
○ 外食では、フライドチキンとドーナツなど一部を除き、持ち帰り価格は調査対象外。店内価格のみで判断される。
10 月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられた。この消費増税は消費者物価指数にどう反映されるのか。①軽減税率、②非課税品目、③経過措置、④キャッシュレスポイント、⑤外食におけるテイクアウト、の5つのテーマについて解説を行う。
① 軽減税率 ~フライドチキンやドーナツも軽減税率扱い~
消費者物価指数においても、「酒類」や「外食」を除く「食料」や「新聞代」について軽減税率の対象として計算を行う。また、外食のなかでも、「学校給食」、「ピザパイ(配達)」のようにもともと軽減税率対象となっているものに加え、テイクアウト比率が高い「フライドチキン(外食)」、「ドーナツ(外食)」も軽減税率対象として取り扱うことになった。また、サプリメントや栄養機能食品などの「健康保持用摂取品」も食品扱いで軽減税率対象となる。これらの品目のウェイトを合計すると2158(1万分比)となる。また、生鮮食品を除いた場合のウェイトは1744 であり、CPIコアに占める割合は18.2%となる。
② 非課税品目 ~家賃や授業料、診療代などは非課税。外国パック旅行も非課税品目~
消費税法では、消費に負担を求める税としての性格から課税の対象としてなじまないものや社会政策的配慮から、課税しない非課税取引が定められている。消費者物価指数においてこれに該当する品目としては、家賃や授業料、保育料、診療代などが挙げられ、これらは消費増税の影響を受けない(もともと課税されていない)。そのほか、価格の対象となる役務の大部分が国内取引ではないことから、外国パック旅行も非課税品目となる。ここでは表2に挙げた品目を非課税品目と仮定した。これらのウェイトを合計すると2742であり、CPIコアに占める割合は28.6%となる。
この①の軽減税率対象品目と②の非課税品目以外の品目について、消費税率がこれまでの8%から10%へと引き上げられた。これを計算すると、消費増税によってCPIコアが1.0%ポイント押し上げられることになる。
③ 経過措置 ~一部の品目では増税分の反映が11月までずれ込む(0.2%Pt分)~
経過措置とは、消費税率引き上げのタイミングをまたぐ一部の取引において、消費税率引き上げ後にも旧税率が適用されることを言う1。具体的には、「電気代」「都市ガス代」「プロパンガス」「固定電話通信料」「携帯電話通信料」については「2019年10月は旧税率に基づく価格を採用し、11月から新税率に基づく価格を採用する」、「水道料」、「下水道料」については「条例の中で経過措置が定められている場合は、その期間において旧税率に基づく価格を採用する」とされている。つまり、10月分についてはこれらの品目の増税分は反映されない。これら7品目合計でCPIコアの10.6%を占め、2%Ptの増税によるCPIコアへの寄与度は0.2%Pt弱になる。したがって、消費税率引き上げによって想定される1.0%PtのCPIコア押し上げ分 のうち、10月分に反映されるのは0.8%Ptのみであり、残りの0.2%Pt分の反映は11月分に持ち越されることになる。
④ キャッシュレスポイント ~CPIには反映されない~
キャッシュレスポイントは消費者物価指数には反映されない。消費者物価指数が調査対象としているのは、あくまで販売価格である。ポイント還元によって実質値引き的な要素は加わるが、これによって販売価格が変化しているわけではないため、CPIには反映されないという理屈だ。もともと、キャッシュレスポイントが始まる前から、ポイントカード等によるポイント還元を行う小売店は多かったが、これについてもCPIには反映されてこなかった。総務省によると、キャッシュレスポイントについてもこの取扱いを行うとのことである。
難しいのは、一部コンビニエンスストア等で実施されている「即時還元」だ。たとえば、1000円の商品を購入した際、発生する20円(2%)のポイントを支払いに即時充当することで、実際の(キャッシュレス)支払額は980円となるケースである。実質的には20円の値引き販売ともいえるだろう。ただ、筆者が総務省に問い合わせたところ、この即時還元についても消費者物価指数には反映させないとの回答を得た。即時還元では、一度ポイントが付与され、そのポイントが会計時に使用される形をとる。この場合には会計上は商品価格に変更はないため、値引きとはみなさないということのようだ。色々意見はあるだろうが、消費者物価指数上はそうした取扱いがなされるとのことである。
⑤ 外食おけるテイクアウト ~一部を除いてテイクアウトは調査対象外。店内価格のみが対象~
最近話題になっている、イートインとテイクアウトの軽減税率適用問題についても、消費者物価における取扱いは決まっている。外食のうち、「ピザパイ(配達)」はそもそも配達なので軽減税率対象。「フライドチキン(外食)」、「ドーナツ(外食)」については店内での飲食分はそもそも調査対象から外され、持ち帰り分のみが調査対象となった。つまりこの二品目も軽減税率対象である。
この3品目と給食費を除いた外食については、すべて店内価格のみが調査対象とされ、持ち帰り分は調査対象から外された。9月分までは、店内飲食、持ち帰りの双方が調査対象となっていたが、軽減税率の取扱いを明確化するため、10月分からはフライドチキンとドーナツは持ち帰りのみ、その他の外食は店内のみが調査対象となった。
店内飲食と持ち帰りとの税率差問題に対して、外食各社は店内価格と持ち帰りの料金を統一するなどの対応を打ち出している。この場合、フライドチキンとドーナツの場合は持ち帰り価格、それ以外の外食は店内価格が消費者物価指数上は重要になる。たとえばフライドチキンの場合、持ち帰り価格を据え置き、店内分を実質値下げというケースであっても消費者物価指数上は価格に変化なしとの取扱いになる。一方、その他の外食では、持ち帰り分据え置き、店内実質値下げであれば、(税抜きでは)値下げ分のみが消費者物価指数に反映される。
なお、大手ハンバーガーチェーンでは、一部商品を値上げ、その他の商品価格を据え置くことで、全体しては税抜き価格の値上げにならない対応をしている。ただ、消費者物価指数における「ハンバーガー(外食)」はチーズバーガーが調査対象であるため、今回値上げ対象となっているチーズバーガー価格が調査されることで、ハンバーガーは増税分以上の値上げカウントになるだろう。
個別の企業によって対応は分かれているため、消費者物価指数に大きな影響を及ぼすものではないと思われるが、話のネタとして知っておいても良いだろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 主席エコノミスト 新家 義貴
1 詳しくはEconomic Trend「10月のCPIは下振れ?(消費税とCPI①)」をご参照ください。