シンカー: 欧米の長期金利はこの1週間で10~15BP程度反発した。こうした動きの背景には、米中貿易交渉の見通しが上向いたことや、英国の欧州連合(EU)離脱問題で合意点が見いだされることへの期待の高まりがある。これらが実を結ぶか否かは依然不透明であることから、デュレーション・ロングの投資スタンスをまだ維持していく必要があろう。金利にとって本当に重要なのは、経済指標の動向と、中央銀行がそれにどう対処するかであろう。欧州中央銀行(ECB)の現在のスタンスでは、ユーロ金利のボラティリティー売りに引き続き妥当性が感じられる。ただ、足元の不透明感を考慮して、長期金利上昇リスクをヘッジすることを必要な局面に来ているとみられる。いずれ、財政政策の動きも長期金利の方向性に強く影響してくるとみられる。長期の実質金利が高い状況であれば、財政緊縮スタンスは妥当だ。しかし、欧州では財政緊縮が所得再分配機能を阻害し、中間層への負担が増し、ポピュリズムが広がってしまった。日本では財政緊縮が国土強靭化の遅れにつながり、自然災害の脅威が増してしまった。米国では関税引き上げが企業心理を下押し、好調な家計部門の景気拡大への広がりを阻害している。現在のように、長期の実質金利が極めて低い状況であれば、財政拡大スタンスが妥当だ。各国の財政政策のスタンスが緊縮から緩和に転じていけば、低すぎる長期の実質金利の上方への修正が本格的に起こる可能性がある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●ムニューシン財務長官“合意がなければ12月追加関税実施へ”

ムニューシン米財務長官は昨日、その時までに合意に至っていなければ発動される可能性があるが、同意を望んでいると述べた。11日にはトランプ大統領が中国と米国産農産物の購入増加、知的財産権関連の措置、国外金融サービスの受け入れなどを含む部分合意に達したと発表している。報道によると中国は通商合意の詳細を詰めるためにさらなる協議を今月末にも持ちたいとしており、来月のAPEC首脳会議に合わせて署名を目指しているという。今回の部分合意によって米国は10月15日に予定していた関税引き上げを見送ったが、すでに実施された関税と12月関税についてはさらに協議を進める必要があるだろう。中国は一部譲歩したと言っても経済改革といった核心的利益に関わる分野では強硬姿勢を崩しておらず、大統領選挙を睨んでトランプ氏が支持層に対して協議進展のアピールを優先したとみられる。ただ、包括的な合意に至る可能性は引き続き低いままとは言っても、米中の緊張の和らぎが短期的に製造業を中心に好影響を与える可能性があるだろう。

グローバル・レポートの要約

●グローバル・ストラテジー(10/11): 超緩和的な金融政策には疑問

・ロンドン北方のハートフォードシャーにお住いのスザンヌさんは、英デイリー・テレグラフ紙のリチャード・マドリ―氏(RICHARD MADLEY)にアドバイスを求めて次のような手紙を書いた。「夫と私は50代後半で、いつも政治問題を多かれ少なかれ注目しています。ですがここ数年、私たちは2つの問題(ブレグジットと環境問題)で大きく見方が分かれるようになりました。 夫は教師で学年主任なのですが、相当混乱しています。彼は英国のEU離脱は間違いだったと怒りを交えて感じており、それについて話すと支離滅裂になります。気候変動に関してもそれは変わりません。彼は1日休みをとってエクスティンクション・リベリオン(人類絶滅への反抗行動)の路上封鎖に参加しました。テレビに映った彼はスローガンを唱えており、私が結婚してほぼ20年経つ男性にはほとんど見えませんでした。

・私はEU離脱に投票しましたが、私たちが2人ともEU残留に投票していれば私も全く気楽にいられたでしょう。また気候変動を解決しなくてはならないことは私もわかりますが、複数の橋を(抗議行動で)占拠できるとは信じられません。これを夫に言うと不機嫌になります。それは私も許容できますが、本当の問題は、こうした問題を議論するときに夫が泣き出すことです(特に、他の人がいるとき)。彼はそれが自説を強化すると考えているのではないか、と私は思います。彼は鼻声で謝りながら次の様に言います。“ すみません。でも、これについてはそうだと強く感じているだけなんです”…それが私には許せません。耳をつまんでしっかりしろと言いたくなります。古臭く聞こえることもわかっていますが、泣きじゃくり続ける男なんか興ざめです。何かアドバイスを頂ければ大変幸いです」 - 参照.

・スザンヌさんがそれを悪いと思われるならば、筆者の妻のことを思いやって頂きたい。彼女は過去10年間、先進国中央銀行の政策が破滅的だという、筆者の悲嘆の叫び声に耐えてきた。公平に言ってROWAN(私の妻)は少なくとも、スザンヌさんの状況を知っている。 我々がドレスナー・クラインオート社で共に働いていたとき、彼女は報道対応幹部だった。2004年初めに、私がカップリング・パーティに参加した経験が記事に載ったが(参照)、好奇心の強い(困惑した)記者による、その後についての問い合わせを彼女は処理した。私は、彼女とデートしながらグローバル経済の最新状況(彼女もそれについて話をしたいという確信があった)を長時間伝えられるのではないかと考えた。だが3本のボトルが空いたあと私は、スザンヌさんの「取り乱した」夫氏のように、悲嘆を込め叫んでいた。 特に、ROWANがタクシーから私を家の前で押し出した時にも ! その後15年ほど、彼女は様々な形で「もう終わりが近い」という私の叫びを聞いてきた。しかし現在は、私が妻に言ってきたように、本当に間もなく「終わりを迎えようと」している。特に、米国CEOの信頼感(景況感)が壊滅的に低下しており、過去のリセッションに見合う水準に達した。

●フランス経済(10/10):2020年予算案…長期的な財政課題が明らかに

フランスの2020年予算案は、次のような内容になっている。1) 2019年の財政赤字がGDP比3%を超えたことは、(特殊要因による)一時的なものと確認される、2) 中立的財政スタンスの下で同2.2%の財政赤字が目標、3) 政策上の重点を企業から家計に移す動きが続く。この予算案は現実的な想定に基づいており、2020年中頃に米国がリセッション入りするという弊社見込みも共有しているとみられる。2020年財政赤字の弊社予測(GDP比2.3%)も政府予測に近い水準だ。さらに、政府の債券利回り想定は非常に保守的となっている(10年物フランス国債利回りが、現在のマイナス0.25%から2020年遅くには0.7%に上昇していると想定)。景気減速が実現するか社会的な緊張が弱まらない場合でも、これによって財政面で望ましい余裕が生まれる可能性がある。

●イタリア経済(10/8):2020年予算…追加要素は今後出ない可能性も

イタリア政府は最新の経済財政文書(最新DEF:ECONOMIC AND FINANCIAL DOCUMENT)を発表、10月中頃が提出期限となる予算案のガイドラインを示した。この文書では、計画していたVAT(付加価値税)引上げの撤回と、新しい策が無いことが確認された。2020年の財政赤字は2019年と同じ2.2%になる見込みだ。ただ弊社は、税収と公的セクターの効率性改善に関する想定が楽観的とみられることから、この数字には上方リスクがあると考えている。

●英国経済(10/11):8月GDPはQ3の力強い回復を示唆、だがQ4は再び減速へ

8月データの内訳をみると、製造業と鉱工業生産は、弱い(ともに前月比-0.7%、-0.6%) とはいえサーベイが示す水準は依然として大きく上回っている。今後数カ月の弊社見通しは引続き暗く、同セクターはQ3もQ2と同じくマイナス成長になる(テクニカルリセッションになる)可能性が少しある。建設はサーベイが示す水準よりも遥かに強く、経済上の背景も(筆者には疑わしいが)筆者の暗い見通しを引続き打ち負かすと示している。サービス業はカギを握る存在だ。5、6、7月といずれも前期比横ばいから大幅上方修正され、成長率は順に0.1%、0.2%、0.3%となった。とはいえ8月は横ばいとなり、9月も改善する理由はほとんど見当たらない。このように全体的には弱い内容で、(月次)GDPが9月も前月比マイナス0.1%になると示唆している。

●債券市場(10/15):間違いなく「本物

欧米の長期金利はこの1週間で10~15BP程度反発した。こうした動きの背景には、米中貿易交渉の見通しが上向いたことや、英国の欧州連合(EU)離脱問題で合意点が見いだされることへの期待の高まりがある。これらが実を結ぶか否かは依然不透明であることから、デュレーション・ロングの投資スタンスを維持していく。しかし、金利にとって本当に重要なのは、経済指標の動向と、中央銀行がそれにどう対処するかであろう。欧州中央銀行(ECB)の現在のスタンスでは、ユーロ金利のボラティリティー売りに引き続き妥当性が感じられる。ただ、足元の不透明感を考慮して、目先の長期金利上昇リスクをヘッジすることを勧めたい。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司