識者プロフィール
「現代アートのチアリーダー」の異名を持つ。eAT金沢99総合プロデューサー、NPO法人芸術振興市民の会(CLA)理事長、公益財団法人現代芸術振興財団元ディレクター、2017年かけがわ茶エンナーレ総合プロデューサー、女子美術大学芸術学部非常勤講師など数多くの職務を担当。来年は「神宮の杜芸術祝祭2020」のプロジェクトを控える。「現代アート入門の入門」(光文社新書)など著書多数。
世界的なオークションで売買されるような著名アーティストは、分母全体からすればごくごく一部。大半の作家は、自らの芸術性を高めるべく活動を続ける一方で、活動を続けるための資金繰りに瀕している。ここでは、アートプロデューサーの山口裕美さんに、日本のアート界が抱える問題点や有望作家の“青田買い”の方法などについて話を聞いた。
ドイツと日本の違いに茫然。ある市民講座が活動のきっかけに
アートオークションでは、数億円、数十億円といった高額な落札のニュースが世間を賑わせる。一方で、そんなこととは関係なしに黙々と自らの芸術活動に勤しむアーティストたちが大勢いる。そのような国内のアーティストたちにスポットライトを当てるべく、自ら“現代アートのチアリーダー”と称し、アーティストたちを助ける活動をしているのがアートプロデューサーの山口裕美さんだ。
山口さんがアートの世界にどっぷりと浸かることになったきっかけは、1990年代当時、アートが盛んなことで知られていたドイツでの生活だった。
「当時のヨーロッパにはNPO(非営利団体)が運営するギャラリーがありました。そこにはアーティストのプロフィールや作品の写真などが載っているファイルがあり、気に入ったアーティストに連絡を取れたのです」(山口さん)
日本に帰国後、ドイツにあったようなNPOのギャラリーを探したが、日本にはそうしたギャラリーも、芸術系のNPOも存在していなかった。またもう一つ、山口さんが現在の活動を始めるきっかけとなったのが、ある市民講座の連続レクチャーに参加した経験だ。
「日本のアート界はどんなにひどい現状なのかを聞かされる、夢のないレクチャーでした。これを経験したことで『何かしなければ。私ができることを実行しよう』と思い立ったのです」(山口さん)
今も存在する「プライマリーマーケット」と「セカンダリーマーケット」
アーティストの作品が流通するマーケットには、プライマリーマーケットとセカンダリーマーケットの二種類がある。前者は、新しい作品をアーティスト本人や、またはその代理人であるギャラリーから購入するといった直接的な市場を表す。セカンダリーは、プライマリーで購入された作品が別の所有者に移動する「既存の作品市場」のことだ。
「プライマリーマーケットのギャラリーは、作家と直接やり取りをし、マネジメントを行います。さまざまなアドバイスをしながら二人三脚で良い作品を作り、発表し、販売するギャラリーです。一方、セカンダリーマーケットではアーティストがいないところで作品売買が行われるので、アーティストにお金が届きません。ただ、こちらもアーティストの作品が広く世の中で認知されるために大事なマーケットではあるのです」(山口さん)
山口さんは、オークションについても似たような問題を抱えていると指摘する。