中小企業にとって税務のスペシャリストである税理士は心強い存在だ。しかしすべての工程を任せると無駄なコストが発生してしまうこともある。少しでもコストを節約するために企業側も顧問料・報酬基準の仕組みを理解しておこう。

税理士の顧問料はいくら?相場を簡単にチェック

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(写真=PIXTA)

税理士に依頼したときに発生する顧問料は、事業主の形態や年商によってある程度の相場が決められている。具体的な計算方法を解説する前に、まずは顧問料の相場を簡単に見ていこう。

・法人が依頼した場合の顧問料
年商 顧問料の相場(月額)
1,000万円未満 1万円~
1,000万~3,000万円未満 1万5,000円~
3,000万~5,000万円未満 1万5,000円~
5,000万~1億円未満 2万円~
1億~3億円未満 3万円~
3億~5億円未満 3万5,000円~
5億~10億円未満 4万円~
10億円以上 5万円~
・個人事業主が依頼した場合の顧問料
年商 顧問料の相場(月額)
500万円未満 7万~8万円(※年額)
500万~1,000万円未満 1万円~
1,000万~3,000万円未満 1万5,000円~
3,000万~5,000万円未満 1万5,000円~
5,000万~1億円未満 2万円~
1億円以上 3万円~

上記の金額はあくまでも目安であり、実際の顧問料は税理士の業務量などによって変わってくる。例えば会社への訪問回数が多いほど顧問料は増加していき、記帳代行や申告代行も依頼するとなれば月額で5万円以上の費用がかかることも珍しくはない。したがって税理士の顧問料を少しでも抑えたいのであれば、その仕組みや内訳をきちんと理解しておくことが重要だ。

中小経営者や個人事業主はこれを機に税理士費用の基本を学んでいこう。

税理士の顧問料はなぜ変わる?2つの報酬基準を理解しよう

2001年に税理士法が改正されるまでは、すべての税理士に共通する報酬規定によって最高限度額が決められていた。しかし改正後はそれぞれの税理士が独自の報酬規定を設けているため、税理士の顧問料は依頼先によって大きく変わってくる。一般的な税理士事務所で報酬の基準とされているのは、「売上高」と「作業量」の2つだ。それぞれの報酬基準にどのような特徴があるのかについて以下で詳しく解説していこう。

1. 売上高による報酬基準

売上高を基準とした料金体系では、依頼人の売上高が増えるほど顧問料も高くなっていく。これは依頼人の売上高が増えると取引数・納税額が増加する影響で、税理士の作業量・責任も増大するケースが多いためだ。売上高を報酬基準とする方法は、税理士業界ではポピュラーなものとして認識されている。ただし採用されているケースが多いからといって顧問料が必ずしも適正金額になるとは限らない。

例えば依頼人の売上高が一時的に急上昇した場合を考えてみよう。この直後に報酬の見直しがあると売上高に応じて顧問料も急増し、依頼人の負担は大きいものになる。売上高の上昇がその後も続けば問題ないが、報酬を見直した直後に売上高が下がると依頼人は損をしてしまう可能性があるのだ。そのため売上高を報酬基準にしている税理士を選ぶ場合には、柔軟に報酬を見直してくれる税理士を探すことが望ましい。

2. 作業量による報酬基準

一般的な企業では、常に同じ売上高が続くわけではない。時期によって売上が多いときもあれば少ないときもあるので顧問税理士の業務量も時期ごとに変わってくる。また近年ではIT化が進んだ影響で、税理士がこなす一部の業務は簡略化されてきている。そのため依頼人の売上高が増えたからといって必ずしも税理士の業務量が増えるわけではない。

つまり売上高を基準に顧問料を決めると場合によっては見合わない金額になってしまう恐れがあるのだ。このような状況を防ぐために、なかには「作業量」を報酬基準にしている税理士も見られる。作業量を報酬基準とするケースでは、作業内容と金額が明記された見積書を作成することが多い。見積書から無駄な作業がわかれば、その作業を省くことでコストの節約を実現できる。

しかしこの報酬体系では一時的に作業量が急増したような場合にも、すべてのコストを支払わなければならない。さらにいつの間にかオプションが追加され顧問料が多額になってしまう可能性も考えられるため、コストの内訳は細かく確認する必要があるだろう。

メリット デメリット
・売上高による報酬基準 ・仕組みとしてわかりやすい ・時期によっては、作業量と報酬が見合わなくなる恐れがある
・発生したコストの内訳がわかりづらい
・作業量による報酬基準 ・作業内容と、各作業にかかったコストが明確にわかる
・不要な作業が明確になるため、無駄な作業を省きやすい
・一時的に作業量が増えた場合にも、料金が細かく計算されてしまう
・オプションの追加によって、顧問料が多額に上ってしまうことも

上の表は、ここまで解説した報酬基準のメリット・デメリットをまとめたものだ。字面からは同じような報酬基準に見えるかもしれないが、実際には特徴が大きく異なるため注意しておこう。

顧問料にはどんな費用が含まれる?不要な業務を削ることが節約に

上記では2つの報酬基準を解説したが、いずれの報酬基準でも不要な業務を削ることが重要なポイントだ。この工程を怠ると無駄なコストが毎月発生してしまう恐れがあるので「何にどれくらいのコストがかかっているのか?」は常に意識しておくべき点といえる。顧問料は細かく見ればさまざまな料金に分けられるため、以下ではその内訳を詳しく見ていこう。

1. 訪問にかかる費用

会社への訪問は、顧問税理士が行う代表的な定期業務だ。訪問では節税や経営に関するアドバイスや、会計ソフトの使い方のレクチャーなどが行われている。訪問にかかる費用も税理士ごとに異なるが、1回あたりの相場は5,000~1万円ほど。あまり高額ではないと感じるかもしれないが、注意しておきたいのは契約によって訪問回数が異なる点である。

例えば1回あたりの訪問料を5,000円と仮定した場合、訪問頻度によって費用は以下のように変わってくる。

訪問頻度 訪問にかかる費用(年間)
・毎月 6万円(5,000円×12ヵ月)
・半年に1回 1万円(5,000円×2ヵ月)
・1年に1回 5,000円

特に訪問が1年間に複数回行われる場合は、費用が大きな負担になる恐れがあるので要注意だ。意義のある訪問であれば問題ないが、もし訪問がなくても特に問題がない場合は、その点を顧問税理士に相談してみると良いだろう。

2. 記帳代行にかかる費用

記帳代行とは、会社の伝票や領収書を税理士に渡し日々の記帳業務を代わりにこなしてもらうこと。記帳代行の相場は一般的な中小企業で月額5,000~1万円ほどであり、基本的には作業量によって金額が決められている。会社の業務量を減らせるため、記帳代行は非常に便利なサービスだろう。しかし年間で6万~12万円のコストが発生する点は、多くの企業が軽視できないはずだ。記帳業務を行う人材を確保すれば、もちろんこのコストを一気に削減できる。

3. 決算申告(確定申告)にかかる費用

決算申告(※個人事業主では確定申告)も、税理士が行う代表的な業務といえる。決算申告は1年に1回しか行われない業務だが、法人税の申請書は作成に手間がかかり、さまざまなデータの参照や計算が必要になるため、費用が高額に上ることもある。あくまでも目安だが、決算申告にかかる費用の相場は12万~18万円ほどだ。会社の売上高が大きいほど、さらに費用も膨らんでいく。

もちろん決算申告を自社で行えばこの費用を削減できるが、申請書の作成はハードルが高く税務申告ソフトを購入する負担もやや大きい。そのため決算申告にかかる必要については無理に削るべきではないだろう。

4. 年末調整にかかる費用

決算申告と同じく年末調整も1年に1回行われる業務だ。具体的には記入済みの各種申請書の確認や、税額の計算などが業務内容に含まれる。従業員が増えるほど業務量も増大するため、年末調整にかかる費用は従業員数によって変わってくる。仮に従業員数を10人とした場合の相場は、年間で2万円ほどだ。それ以上は従業員1人につき、1,000円ほど加算されるケースが一般的。従業員が増えるほど費用も上がっていく点は、しっかりと把握しておこう。

5. 給与計算にかかる費用

なかには毎月の勤怠データを税理士に渡し、給与明細を作成してもらう企業もある。一般的にはこの場合の費用も従業員数で決められており、その相場は1人あたり1,000円ほど。ちなみに給与計算を毎月依頼する場合には、勤怠データをすみやかに提出する必要があるため注意しておきたい。ここまで顧問料の内訳を解説してきたが、どの費用が顧問料に含まれるかについては、実はケースによって異なる。

例えば年末調整にかかる費用が顧問料に含まれている場合もあるが、依頼先によっては上記のすべての費用が別料金になっている可能性もあるだろう。また上記の中でも「決算申告にかかる費用」については、月額顧問料の4~6ヵ月分に設定されていることも多い。つまり実際の料金体系や金額は税理士ごとに大きく異なるため、依頼先のシステムをきちんと確認しておくことが重要だ。

税理士の顧問料を抑えるための3つのポイント

税理士の顧問料の基本を理解したら、次はいよいよ節約するためのポイントを見ていこう。無駄な作業を省くことも大きな節約につながるが、実はほかにもさまざまな方法で顧問料は抑えられる。少しでも会社の負担を減らすために、できるだけ多くの対策を講じることが重要だ。

【ポイント1】スポット契約を検討する

税理士との契約には、大きく「顧問契約」と「スポット契約」の2種類がある。本記事では顧問契約について詳しく解説してきたが、少しでも費用を浮かせたいのであればスポット契約も検討することが必要だ。

契約の種類 概要
・顧問契約 特定の税理士に対して、継続的に業務を依頼するための契約。年単位で契約することが多く、毎月のコストが発生する。
・スポット契約 決算申告や年末調整など、特定のタイミングで業務を依頼するための契約。契約をした時期にしかコストが発生しないため、料金を毎月支払う必要がない。

例えばほかの業務を代行してもらう必要がなく決算申告のサポートのみを必要としている場合は、スポット契約のほうが費用を節約できる可能性があるだろう。したがって現時点で税理士に依頼するべきかどうか悩んでいる経営者は、「依頼する業務としない業務」をきちんと把握しておくことがポイントになる。

ただし顧問契約にはさまざまなメリットがあるため、安易にスポット契約を選ぶべきではない。以下は、顧問契約とスポット契約のメリット・デメリットをまとめたものだ。

メリット デメリット
・顧問契約 ・経営や税務に関するアドバイスを受けられる
・経営状況をこまめに共有することで、節税につながりやすい ・経営に専念できる ・金融機関など、対外的な信用性が上がる
・急な税務調査にも対応可能
・コストが毎月発生する
・不要な作業を省いていない場合、無駄なコストが発生することも
・スポット契約 ・必要な作業のみを依頼することで、コストを削減できる可能性がある
・業務の内容に応じて、依頼先を変えられる
・業務単体のコストで見れば、顧問契約より割高になる可能性がある
・日常的な情報共有がなくなるので、顧問契約のようなアドバイスを受けられない

契約形態はコスト面だけではなく上記のメリット・デメリットを細かく比較したうえで慎重に検討していこう。

【ポイント2】複数の税理士事務所に見積もりをとってもらう

前述で解説した通り契約形態が同じであっても税理士によって報酬体系は異なる。そのため時間的に余裕がある場合には、複数の税理士事務所から見積もりをとってもらうことが大切だ。見積もりの内容を比較すれば、どの税理士事務所のコストが安いのかをひと目で把握できる。ただし実際に依頼する業務があいまいになっている状態では、コストを細かく比較することが難しいため注意しておこう。

【ポイント3】会計ソフトやツールの導入を検討する

近年ではIT化が一気に進んできており、会計業務などを専用のソフト・ツールでこなしている企業も珍しくない。ほかにもさまざまなソフト・ツールがあり、これらのものを上手に使いこなせば税理士に依頼する業務を減らすことが可能だ。つまり会計ソフトやツールには導入コストがかかるものの、長い目で見ればコスト削減につながる可能性がある。

ただし自社に最適なものを見つける必要があるうえに、すべての企業が使いこなせるわけではない。会計ソフトやツールを使いこなすには、ある程度の知識やスキルが必要になる。そのため使いこなせる人材がいるかを事前に確認したうえで、導入を検討することが大切だ。

【ポイント4】相手が専門家だからと言って、提案されるままに話を進めない

なかには相手が専門家であるために過信して提案されるままに契約を結んでしまう経営者もいるだろう。しかし税理士にとっては商売の一つなので、すべての提案をそのまま受け入れると無駄なコストが発生してしまう恐れがある。ここまで何回か解説してきたが、やはり「依頼する業務・依頼しない業務の明確化」は非常に重要なポイントだ。

この点を把握していなければ、こちらから依頼内容やプランを提案することができない。特に顧問契約では期間が長期間に及ぶため、依頼人自身も契約内容をしっかりと理解する必要がある。専門家だからといってすべての工程を任せずに依頼をする企業側も積極的に理解・検討することを心がけよう。

無駄なコストを省くためにも、特に顧問契約は慎重に検討を

税理士の顧問料には大きく2つの報酬基準があり、ある程度の相場が決められている。ただし現在では独自に報酬規定が設けられているため、実際に負担する金額はケースごとに大きく変わってくる。そのため依頼をする企業側もその仕組みをきちんと理解し、顧問料の内訳を細かく確認することが重要だ。この工程を省くと、いつの間にか不要な作業を依頼してしまい無駄なコストが発生することにつながりかねない。

特に顧問契約は毎月コストが発生し、さらに契約期間が長期に及ぶ可能性が高いため、より慎重に検討を進める必要があるだろう。今回解説した内容を参考にしながらコストを抑えるための工夫にぜひ取り組んでみてほしい。 中小企業にとって税務のスペシャリストである税理士は心強い存在だ。しかしすべての工程を任せると無駄なコストが発生してしまうこともある。少しでもコストを節約するために企業側も顧問料・報酬基準の仕組みを理解しておこう。

文・THE ONWER編集部

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