シンカー: 英国では19日までに修正離脱案が否決されたことから、ジョンソン首相が議会が可決した法案に則り、意に反する形で離脱延期を要請することになった。従来の合意無き離脱でも期限内に離脱するとのスタンスを維持するのが難しくなっているようだ。米中貿易対立でも米国が輸出品目の規制強化や対米投資の規制強化などに踏み切る可能性が騒がれたが、直後に米中間で部分的合意に達するなど、対立強硬姿勢を軟化している。ポピュリスト的な政策や発言で支持層へのアピールを強めてきた政権が、強硬姿勢の長期化が実体経済に対する不透明感や警戒感となり、経済活動に悪影響を与えていることを意識し始めているようだ。従来スタンスを維持し景気後退を招くより、政策スタンスを変更してでも不透明感を払しょくし、景気拡大モメンタムの回復させ、その結果をもとに政権の維持する形にシフトしていると考えられる。今後、ポピュリスト的な政策が後退し、財政拡大など景気拡大モメンタムを更に強める政策が実施されると、リスク資産価格の更なる上昇が期待できるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●ブレグジットの新協定案採決先送り

19日に下院では離脱に関する法整備を終えるまでは離脱協定案を採決しないという議員案が可決され、ジョンソン首相は19日中にEUに離脱延期を要請することが法的に義務付けられた。これを受けてジョンソン氏はEUのトゥスク議長に向けて離脱期限の延期を求める手紙を送ったものの署名はせず、同時に離脱期限延期は間違いだとする署名付きの手紙も送っている。手紙を受け取ったトゥスク議長はEU各国首相と協議を行うとした。19日に予定されていた離脱協定案の採決は見送られ、21日か22日にも採決が行われるとみられる。ただ、DUPが新協定案に反対を唱える中、保守党は労働党員からのサポートも得る必要があり、協定案の可決は難易度が高いとみられる。ジョンソン首相は期限通りの離脱を引き続き唱えているが、期限延期の可能性は高まっている。期限が延長されれば延長期間のうちに総選挙が行われるとみられるが、政治的な膠着状態が解消されるかは不透明だ。

グローバル・レポートの要約

●アセット・アロケーション(10/11): 中国株式と、多くの形でみられる中国・米国間の経済面での緊張

多くの形でみられる、米国と中国の間の経済面での緊張:最近のニュースフローは、 米国と中国の間で現在みられる経済面での緊張が多方面にわたっていることを示している。(I) 10月6日には米国商務省が、中国の監視カメラ/AI企業の計8社を(米国製品の輸出が禁止される)エンティティ・リストに加えた(輸出規制強化を意味する)、(II) 同日に米国政府は、(米国市場に上場している)中国企業の上場廃止は検討していないと述べた、 (III) そして(7日から始まる)今週には、中国の劉鶴副首相(通商交渉担当)がワシントンを訪れる。一方で来週には、米国が中国から輸入する2,500億ドル相当の財に対する関税が引上げられる見込みである。

貿易から投資へ、さらに株式取引へ:幅広く言うと、米国と中国の2国間における経済面での緊張の高まりを、弊社は3段階で定義づけている。第一段階は関税紛争で、現在も進行中。第二段階は、中国の対米投資(CFIUS:対米外国投資委員会)や輸出管理(輸出管理法やエンティティ・リストを通じて)に拡大する。第三段階には、中国企業に対する米国の投資を規制する措置が含まれる可能性がある。これはまだ始まっていないが、弊社はこのリスクに対するヘッジを推奨してきた。

疑問視される市場の統合:中国株式に対するグローバル資金流入の主因になったのは、「余りにも規模が大きくて無視できない~” TOO BIG TO IGNORE “」という事情だ(オフショア市場(香港や米国)であれ、(市場アクセスの改善に伴い)オンショア市場であれ)。株式投資家にとって、規模は以下の2セクターで特に重要となってきた。即ち、消費(投資から消費へ経済のリバランシングが進むにつれて)とハイテク(中国企業だけが、時価総額の面で米国に比肩しうる存在)である。

テールリスクと…:こうしたテールリスクが視野に入っているが、弊社はアジア・グローバル株式ポートフォリオにおける中国株式のポジションを「オーバーウエイト」で維持する。その背景は、 (I) 米国財務省と大統領経済諮問委員会の両方が、中国企業の上昇廃止を最近になって否定した、(II) 何らかの株式取引制限は、米国市場の機能を大きく損ねる(米国上場の中国株式が強制的に上場廃止となる)、または実施が法的に難しくなる(米国投資家の、香港市場やオンショア上場株式への投資をどうすれば制限できるのだろうか)。

…非常にネガティブな結果:中国株式が全面的に厳しい扱いを受けた場合、下方リスクは大きくなる。(I) 中国は、企業のデレバレッジへの取組を支援するために株式市場を徐々に拡大させることが必要、(II) 海外(中国外)からの資金フロー(直近5年間でオンショア株式市場は年平均30%拡大、2,500億米ドルに)が崩壊、(III) 中国株式のリスクプレミアムは、過去5年間で低下してグローバル水準に近づいてきたが、再び上昇する。

「完全なデカップリング」のリスクをヘッジ:とはいえ弊社は、特定企業に的を絞ったアクションがとられる可能性の方が、現時点では高いと考えている。18カ月前に弊社は、貿易戦争の影響を受けるアジア株式(大半は中国株式)の推移を追うために、「SG 中国貿易戦争バスケット」指数の計算を開始した。弊社は範囲を広げて「SG 中国経済戦争バスケット」の計算を開始、以下5種類のリスクに左右される、海外上場中国株式の推移を追う。即ち、(I) 関税引上げ、(II) 輸出管理、(III) 株式取引制限、(IV) 米国ADR上場廃止、そして (V) (経済戦争の)銀行セクターへの拡大である。弊社作成の新バスケットは、11銘柄を含めるとともに、業種別に多角化されるように構築されている。同指数に含まれる銘柄はハイテク株が多いが、工業、運輸/海運、銀行も含まれる。

●債券市場(10/21):コイントス

英国の欧州連合(EU)離脱の行方は表か裏かを賭けるコイントスのようなものだが、今回はポジティブな結果が出るのではないかという微かな楽観ムードがある。我々は中期的には債券投資に建設的な姿勢を変えておらず、債券の反射的な売りには買い向かう方針である。国際通貨基金(IMF)は世界経済の見通しを再び下方修正した。貿易摩擦をめぐる持続的な不透明感や、世界の中央銀行による一段の金融緩和も、我々の投資判断を下支えしている。こうした状況を踏まえ、中期的にデュレーション・ロングの投資スタンスを維持していく。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司