シンカー:マーケットでは景気後退懸念が続くなか、中央銀行が更なる追加緩和に踏み切るとの期待が依然として高い。ただ、中央銀行関係者からは金融政策の限界と財政政策の重要性を唱える声が続いている。金融政策の限界が意識される中、注目は財政政策にシフトしているようだが、政局では依然として先行き不透明感が強い。中央銀行関係者の間では、マーケットの期待に応えるだけの追加緩和は避けたいようであるが、同時に政局の不透明感が景気後退を招く前に「予防的」な金融緩和策は実施し、景気拡大モメンタムを維持したいようだ。ただ、財政拡大などほかの策を使う前に、副作用などマイナス面がより強くなる可能性がる追加的な金融緩和に踏み切ることには躊躇しているようだ。政局の不透明感が和らぐ兆候を見せ始めていることから、今後、各国政府は再度、財政拡大など景気刺激策の実施向けて動くかが注目だろう。政治の世界が再度硬直し、財政拡大に向けての動きが鈍化したり、実施した財政政策の景気刺激効果が限定的だと、中央銀行は更なる金融緩和に躊躇なく踏み切るだろう。中央銀行の様子見姿勢は足許では続くだろうが、景気減速気味の状態が続くと、追加緩和の可能性は一気に高まる可能性があると考える。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

来週の理事会で政策の変更は無いとみているが、9 月に階層化を導入した後に金利が上昇している理由が議論されると見込んでいる。また、各理事が、マイナス金利から除外される準備預金の階層を決定する乗数を調整する代わりに、市場見込みが修正された結果としてのイールドカーブ上昇を受入れる可能性がある。また、米国が 2020年後半にリセッション入りする可能性があり、その場合、ECB は 2020 年 6 月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時に APP(資産買入プログラム)を月 額 400 億ユーロ前後に増額するだろう。この時点で、新しい資産買入れプログラム や、住宅ローンを(使途の)対象にする TLTRO、及びイールドカーブ・コントロールも議論 される可能性があると考える。。

10月の日銀金融政策決定会合ではマイナス金利を含む現緩和政策の現状維持されるだろう。ただ、日銀は、9月の決定会合で、世界経済の景気減速懸念が強まるなか、海外経済の動向が国内の経済・物価動向に悪影響を与えないか警戒感を強めている。日銀の見通しに対して、グローバルに景気の持ち直しは遅れており、生産活動への下押しが続いていることも事実だ。10月の展望レポートで海外経済の持ち直しの大幅な遅れを指摘し、その遅れを理由にフォワードガイダンスを長期化するだろう。ただ、フォーワードガイダンスの長期化を除いて追加金融緩和には踏み込まないと考える。また、グローバルに景気の持ち直しが遅れていることは、マイナス金利政策の深堀りなどの副作用が懸念されるものでリスクをとるより、大胆にフォワードガイダンスを長期化し、輸出と生産の回復を阻害するような円の先高観が生まれないようにするだろう。フォワードガイダンスを、現在の2020年春頃から、夏の東京オリンピック後の一時的な景気下押し圧力の不確実性への備えを含めた表現である2021年春頃まで長期化するとみられる。

米国の中国からの輸入品に対する容赦ない関税引上げで中国経済に圧力がかかっていることや、信用伸び率が再び停滞する兆しが出ていることで、PBoCは幅広く金融緩和が実施すると見込んでいる。導入されたばかりのローンプライムレート・メカニズム(貸出金利を PBoC の 1 年物 MLF(中期貸出しファシリティ)金利に連動させる)の可能性が高いが、ほかの公開市場操作による利下げが実施される可能性がある。利下げは徐々に、かつ小幅に進められる見込みで、合計 50bp ほどになるだろう。

BOEはブレグジットを巡る不確実性が続く中、現利上げサイクルはピークに達し、来年には利下げに踏み切ることになるだろう。

ユーロ圏(ECB)

金融緩和策・政策金利(9月末時点:預金ファシリティ金利:-0.50%、リファイナンス金利:+0.00%、限界貸出金利:+0.25%)

予想:ECBは2020年6月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時にAPP(資産買入プログラム)を月額400億ユーロ前後に増額するだろう

9月の政策会合でECBはの政策理事会 で(現時点または下回る水準を、(コア)インフレ 見通しが(目標に)力強く近づくまで据置くとし、10bp の中銀預金金利引下げ、預金金利の階層化、TLTRO3 の条件改善、そして重要な ことに、期限を定めない資産買入れプログラム(APP、月額 200 億ユーロ)をECB の利上 げ開始直前までの継続を発表した内容は事前見込みよりハト派的な内容となった。来週の理事会で政策の変更は無いとみているが、9 月に階層化を導入した後に金利が上昇している理由が議論されると見込んでいる。また、各理事が、マイナス金利から除外される準備預金の階層を決定する乗数を調整する代わりに、市場見込みが修正された結果としてのイールドカーブ上昇を受入れる可能性がある。また、米国が 2020年後半にリセッション入りする可能性があり、その場合、ECB は 2020 年 6 月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時に APP(資産買入プログラム)を月 額 400 億ユーロ前後に増額するだろう。この時点で、新しい資産買入れプログラム や、住宅ローンを(使途の)対象にする TLTRO、及びイールドカーブ・コントロールも議論 される可能性があると考える。。

日本(日銀)

誘導目標(9月末時点:長期金利(10年JGB)利回りを0.0%を中心に±0.2pp内で誘導)

予想:2021年まで政策は変更されないだろうが、10月の会合でフォワードガイダンスが「2021年春ごろまで」延長されるだろう。

10月の日銀金融政策決定会合ではマイナス金利を含む現緩和政策の現状維持されるだろう。ただ、日銀は、9月の決定会合で、世界経済の景気減速懸念が強まるなか、海外経済の動向が国内の経済・物価動向に悪影響を与えないか警戒感を強めている。10月の展望レポートで海外経済の持ち直しの大幅な遅れを指摘し、その遅れを理由にフォワードガイダンスを長期化するだろう。「政策金利については、海外経済の動向や消費税率引き上げの影響を含めた経済・物価の不確実性を踏まえ、当分の間、少なくとも 2020 年春頃まで、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持することを想定している」というフォワードガイダンスは、2021年春頃まで延長されるだろう。日銀は、FEDの利上げ見通しが生まれるとみられる2021年初になっても、辛抱強く緩和政策を維持することを示し、ビハインド・ザ・カーブになることで、円高圧力がいずれは円安圧力に転じる期待をマーケットに織り込ませようとするだろう。また、

フォーワードガイダンスの長期化を除いて追加金融緩和には踏み込まないと考える。日本経済が内需を中心にアベノミクス前と比較して海外景気のFEDの利下げがあったとしても予防的なものであり、それ以降の景気モメンタムを改善させ、円高圧力は一時的と予想できること、減速に対して著しく頑強になってきているとの判断、日銀がフォワードガイダンスで早期出口論を封じながら現行の金融緩和を継続していれば、自動的に緩和効果が強くなっていくメカニズムが存在することを理由に追加緩和の必要性はないと判断するだろう。グローバルに景気の持ち直しが遅れていることは、マイナス金利政策の深堀りなどの副作用が懸念されるものでリスクをとるより、大胆にフォワードガイダンスを長期化し、輸出と生産の回復を阻害するような円の先高観が生まれないようにするだろう。ただ、日銀はテクニカルに円高を受け入れるだろうが、ドル・円で100円を下回る加速度的な円高がグローバルな景気見通しの著しい悪化とともに起これば、2%への物価目標へのモメンタムが維持できないと判断し、日銀は追加金融緩和に踏み切る可能性はあるが、メインシナリオではない。

マイナス金利政策(9月末時点:当座預金のマイナス金利適用残高(約25兆円)に?0.1%のマイナス金利を適用)

予想:2%の物価上昇を達成する2022年に解除

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2022年となろう。

中国(PBOC)

政策金利(9月末時点:預金準備率(RRR):13.50%、7日間リバースレポレート目標:2.55%)

予想:ツールは定かではないが、徐々に、かつ小幅に進められる見込みで、合計 50bp の利下げに踏み切るだろう

米国の中国からの輸入品に対する容赦ない関税引上げで中国経済に圧力がかかっていることや、信用伸び率が再び停滞する兆しが出ていることで、PBoCは幅広く金融緩和が実施すると見込んでいる。世界の他地域で金融緩和が実施されていることで、これはある程度実行しやすくなっている。経済全体の借入コストの舵取りを行う際のツールとなる最有力候補は、導入されたばかりのローンプライムレート・メカニズムだが、他の公開市場操作における金利も引下げられる可能性がある。利下げは徐々に、かつ小幅に進められる見込みで、合計 50bp ほどになるだろう。また 2018 年や今年 1 月のような、預金準備率(RRR)のさらなる引下げも予想される。

英国(BOE)

政策金利(9月末時点:0.75%)

予想:ブレギジットの不透明感が続く中、英国の政策金利はピークを迎え、来年には利下げに踏み切るだろう

BoEは、9月の政策会合で詮索の現状維持を全会一致で決定した。政策委員会は経済の現状とブレグジットが経済に及ぼす 影響を重視しているようだ。また、議事要旨の全体的なトーンは、前回会合よりソフトになっていた。イ ンフレとの関連で注目されている労働市場が転換点を迎えている可能性があるとも認める中、外部環境が悪化している。この状況を踏まえ、英国の政策金利がピークに達したという見方を維持し、最初の利下げは来年になるだろう

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司