中川崇
中川崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

中小企業の経理に役に立つ会計ソフトは何かを考えたことはあるだろうか。今、市場には何十もの会計ソフトが出回っているが、中小企業向きの会計ソフトにはどのようなものがあり、どのような特徴があるのかを比較する。

会計ソフトを比較する8つのポイント

会計ソフト,徹底比較
(写真=create jobs 51/Shutterstock.com)

会計ソフトは、中小企業ならではの事情を勘案して選ぶ必要がある。ここでは比較するポイントを何点か挙げる。

1. パッケージ型かクラウド型か

会計ソフトを比較するポイントのひとつは、ソフトのタイプだ。会計ソフトには、ソフトを購入して(あるいはダウンロードして)各会社のマシンにインストールする「パッケージ型」と、インターネットのサーバー上にある会計ソフトにアクセスして使う「クラウド型」がある。以下に、それぞれの特徴をまとめてみた。

【パッケージ型の特徴】
・料金は買い切りが多く、一度買ったら原則それ以上費用はかからない。
・ただし、バージョンアップのときなどに追加の費用が発生するケースがある(古いバージョンを覚悟してそのまま使えば追加の費用はかからない)。
・バージョンアップした場合、ソフトのインストールを再度行う必要がある。
・Windowsしか使えないなど、ソフトを使うパソコンの環境が限られる。
・インストールしたパソコンしか使えない。つまり、会計ソフトが入っているパソコンがあるところでしか使うことができない。裏を返せば、そのパソコンさえ守ればデータ流出の危険は低い。
・給与ソフトなど他のソフトとも連携はできるが、ソフトが限られる。
・性能はインストールしたパソコンに左右されることが多い。

【クラウド型の特徴】
・料金は月額または年額というケースが多く、使っても使わなくても定期的に費用が発生する。
・バージョンアップしても追加の費用はかからない。
・バージョンアップするときに、ソフトのインストールを行う手間がいらない。
・わずかな例外はあるものの、インターネットにアクセスする環境さえあれば、パソコンやタブレットに関係なく使うことができる。
・どのようなマシンからでも使うことができる。つまり、極端な話をすれば、世界中のどこからでも使用が可能である。裏を返せば、パッケージ型よりも流出リスクは高めになる。
・他のソフトと連携でき、そのバリエーションはパッケージ型よりも多い。
・性能が使うパソコンやタブレットに左右されにくい。

2. 他のソフトと連携できるか

会計ソフトはそれだけでも動かすことはできるが、給料ソフトや販売管理ソフトと連携させることによって、会計ソフトの入力を減少させることも可能だ。一人何役も果たす中小企業の総務担当、経理担当の皆様にとっては重要な機能である。一般的にはパッケージ型ソフトで連携できるソフトは少なく、クラウド型は多いという傾向にある。

3. 価格

中小企業にとって、購入する会計ソフトの比較の要件として挙げられるものが、価格である。安いものでは1万円台のものから、高いものとなると何十万円するものまである。高いものは機能が充実する傾向にあるが、その中小企業にとっては不要な機能も入っていることも多いため、その点も合わせて比較することが必要だ。

4. 経営管理機能

中小企業に限らず、会計ソフトを使う最低限の目的は決算書の作成にある。しかし、期中の経営に資するために、月次推移表、資金繰り表など、その他の書類が必要になることもある。会計ソフトを比較する際は、そのような視点で行うことが必要な場合もあるのだ。

5. 会計処理の入力

中小企業では、経理担当者の簿記スキルについて、必ず分かる人ばかりとは限らない。そのため、会計ソフトを比較する際には、経理担当者の簿記スキルがある人に対応して作られているのか、そうでない人であっても入力ができるようになっているのかを検討する必要がある。

6. 税理士の対応

中小企業の大半は、会計処理のチェックや税務申告を税理士にお願いしているかと思われる。しかし、どれほど自社に役立っている会計ソフトを導入していても、税理士が対応できていなければ、税理士か会計ソフトを変更することになる。税理士を決めていない場合、会計ソフトによっては対応している税理士の一覧を公表しているものもあるので、それをもとに税理士を探すのもひとつの方法だ。

7. サポートの充実

会計ソフトを比較する際に、サポートの充実は検討の対象となる。ソフトの使い方が分からなくなったときやトラブルに遭遇したときに、サポートは心強いものになる。サポートと一言で言っても、さまざまなものがある。例えば、サポートの種類は電話か、メールか、チャットかといったことが挙げられる。他にも画面を共有でき、手取り足取りサポートしてもらえるか、サポートは有料か無料か、また、いつサポートを受けられるのか、平日のみかあるいは土休日や夜遅くまで受け付けてもらえるのかという点も重要だ。

8. 資金調達

中小企業の目から見て、資金調達に役に立つかという点は、最近の会計ソフトにおける比較の重要な要素のひとつだ。会計ソフトの中には、会計ソフトの情報をネット上で提供することで、融資審査に必要な決算書の情報を提供しているものもある。それにより、融資審査の負担を減らし、資金調達をより手軽にできるようにしているものもあるのだ。資金需要がある中小企業は、その観点から会計ソフトを比較することも十分価値がある。

これから、具体的に比較の参考となるように、有名な会計ソフトを紹介する。

会計ソフトその1. 弥生

数多くある会計ソフトにおいて、断トツで有名なのがこの「弥生」である。弥生はパッケージ版、クラウド版の両方あるが、ここではパッケージ版について紹介する。

弥生の特徴としてまず挙げられるのが、日本の会計ソフトの中で大きなシェアを誇っていることだ。これは、弥生自身が「20年連続売上実績NO.1」としていることからも分かるだろう。対応している税理士が多く、税理士を探すのがやさしいことを意味している。

価格面

機能やプランによって価格は異なるが、スタンダード版の39,800円からプロフェッショナル版の92,000円まで用意されている(メーカー直販価格・税抜)。また、2年目からはソフトを買わなくても「あんしん保守サポート」に入れば、スタンダード版の場合は27,200円からプロフェッショナル版の場合は36,100円から支払うことによって、ソフトウエアのアップデートを受けることができる。

会計処理の入力

入力方法は、手入力、自動入力(別途料金が必要になることもある)の2つが用意されている。手入力は仕訳を直接入力する、現金出納帳等の帳簿から入力するなどの方法を選択することが可能だ。また、初心者向けにはあらかじめ用意された仕訳事例から検索して入力できる仕訳アドバイザー機能も付いている。

経営管理機能

弥生では資金繰りに関して、支払や回収の予定を見る回収/支払予定表、将来の資金管理をシミュレートする未来資金管理、手形管理の機能が用意されている。また、プロフェッショナル版で提供される機能ではあるが、5期比較財務諸表(スタンダード版では残高試算表レベルとなるが2期比較が可能)、比率分析といった経営分析を行うことも可能である。

サポート面

「あんしん保守サポート」と銘打った手厚いサポートを備えているのも、弥生の特徴のひとつだ。会計ソフトそのものについては、電話、メールでのサポートはもちろんのこと、画面共有をした上でのサポートも用意されている。この他にも、認定のインストラクターが直接会社に訪問して操作指導を行うことも実施している(一部プランのみ無料で、その他のプランは有料)。相談内容も操作方法のみならず、仕訳の切り方といった経理の方法に応じている。

会計ソフトに関しては、ソフトの操作面以外でもデータバックアップサービスが用意されている。これはデータを外部に保存しておき、パソコンの故障、災害による損害などがあってもデータの消滅を免れるようにしている。

資金需要

弥生では子会社のアルトアを通じて、弥生データを利用した融資を行っている。これは、弥生のデータを同社に送るだけで、融資審査を行うものだ。審査はオンラインだけで完結するため、書類作成の手間が省けるという利点があり、資金需要のある中小企業にとっては有用なものである。

会計ソフトその2. 会計らくだ

パッケージソフトの中で比較的廉価で知られているのが、BSLシステム研究所の「会計らくだ」。価格が安い反面、機能は最低限のものになっており、他の会計ソフトでは可能なものができないことも多い。

価格

価格は12,000円と、他のソフトに比べてかなり安価である。なお、年間保守サービスに加入すれば、年間9,000円から1万円の価格でアップデート版が入手できる。

サポート面

操作のサポートについては、電話、FAX、メールで提供している。また、そのようなサポートを受けても使えないときは「挫折買取サービス」と称した返金サービスを実施している。

会計処理の入力

会計入力は、仕訳または帳簿の手入力に限られる。銀行口座やクレジットカードとの連携は行っていない。

経営管理機能

経営管理に資する帳票類は残高試算表、推移残高試算表のみで、月次推移表などは用意されていない。

会計ソフトその3. マネーフォワードクラウド会計

クラウド型会計ソフトの有名なものとして、弥生のクラウド版の他に「マネーフォワード会計」「freee」がある。まず、ここではマネーフォワード会計について説明する。

マネーフォワード会計は、クラウド会計としては2番目のシェアを誇る。

価格面

マネーフォワードの価格は、月払い3,980円、年払い35,760円のスモールビジネスプランと、月払い5,980円、年払い59,760円のビジネスプランの2つがある。なお、この価格は会計ソフトであるマネーフォワード会計のみならず、クラウド請求書(請求書ソフト)、クラウド経費(経費精算ソフト)、クラウド給与(給与計算ソフト)クラウドマイナンバー(マイナンバー管理ソフト)をも加えた価格である。すなわち、会計ソフト単体の価格ではないため、給与計算や経費精算も一緒に行いたい場合は他のソフトよりも安価で済む。

サポート面

メール、電話、チャットでの問い合わせが可能。ただし、電話、チャットは平日のみ。

会計処理の入力

インターネット上にある銀行やカードの取引明細を取得して仕訳を自動生成することが可能。入力に際しては、仕訳を意識した入力が必要だ。ただ、会計初心者に向けて簡単入力という入力補助機能が用意されている。

経営管理機能

残高試算表の機能の他に、月次推移表を作成することができる。また、前期との数値の比較できる帳票も出力可能だ。また、他にもキャシュフローの状況、費用や収益の内訳、得意先別の売掛金、買掛金の管理、財務指標の出力(ただし、これはβ版)の状況を知ることができる。

税理士との連携

マネーフォワードのサイトには、公認メンバーとして同社と提携している税理士等のリストがサイト上で公表されており、対応できる税理士を検索することができる。また、このサイトから直接問い合わせることも可能である。

資金需要

マネーフォワードでは「マネーフォワードクラウド資金調達」という、資金調達のためのプラットフォームが用意されている。これはWeb上でマネーフォワードのデータを連携させることによって、金融機関に直接出向かなくとも、融資を受けることができるというものだ。なお、提携先は福井銀行、福岡銀行、GMOイプシロン株式会社がある。

会計ソフトその4. freee

最後に挙げるのは、クラウド会計ソフト3強の一角を占める「freee」。クラウド会計のシェアは弥生オンライン版、マネーフォワード会計に次ぐ第3位である。

価格面

freeeの価格は多様なものが用意されているが、中小企業が使うであろうプランは以下のとおりだ。最低限の機能を使うことを目的としたミニマムプランは月払い2,380円または年払い23,760円、経営の効率化をも図れるベーシックプランは月払い4,780円または年払い47,760円となっている。

サポート面

メール、電話、チャットでの問い合わせが可能。電話、チャットは平日のみ。ただし、プランによって制限があり、電話での問い合わせはベーシックプランに限られる。この他にもサポートページがあり、こちらはプランに関係なく利用が可能。

会計処理の入力

マネーフォワードと同じく、インターネット上にある銀行やカードの取引明細を取得して仕訳を自動生成することもできるが、freeeでは生成した仕訳を即座に登録することも可能である。例えば、銀行のATM使用料、振込手数料などの決まった取引について、仕訳を切ることを意識せずに取引を登録することもできるのだ。

また、レシートなどをスキャナやスマートフォンで取り込んで画像解析することによって、会計処理の入力の手間を省くことができる機能も備えている。他にも、freeeで請求書を作成して、そこから会計処理の入力を行うことも可能である。このように、freeeでは自動的に会計処理を入力することに主眼を置いているため、簿記の知識がない人でも容易に入力が行える。一方で、仕訳を意識しなくてもいい構造は、簿記の知識がある人にとっては取っつきにくさもある。

多様な連携機能

freeeは連携するための機能を広く公開しており、数多くのソフトやインターネットサービスと連携できる。また、既存のソフトやインターネットサービスに物足りない場合は、Salesforce、kintone、Googleスプレッドシートなどを使うことも可能だ。自作のソフトウエアやインターネットサービスとfreeeを連携することで、事業の効率化を図ることができる。

経営管理機能

経営に資する資料として、前期比較の残高試算表、月次推移表をすべてのプランで出力できる。また、ベーシックプランからとなるが、取引先別の収益、費用の分析を行うことも可能だ。

税理士との連携

マネーフォワードクラウド会計と同じく、「freee認定アドバイザー」として税理士と連携している。freee認定アドバイザーの氏名などは同社のサイトで公表され、自分で検索ができる。また、税理士を斡旋する機能も付いており、freeeに税理士を紹介してもらうことも可能だ。

資金需要

まず、融資についてfreeeでは横浜銀行やジャパンネットバンクと提携したローンがある。freeeのデータを銀行に送ると審査が行われ、融資書類の提出作業を軽減することができるのだ。また、freeeのアカウントを通じて、ファクタリングのサービスの提供も行っている。freeeに登録した財務データ、売掛債権データをもとに、資金調達方法に悩む中小企業向けに資金繰り改善ナビを用意しているのだ。これは、freee内のデータと連携させることによって、freee側からおすすめの資金調達方法を提案して、申し込みができるものである。

会計ソフトはそれぞれの特徴を知って自社に合うものを

今回は著名な会計ソフト4つを、それぞれの特徴に焦点をあてて比較した。多様な会計ソフトが出ているため、選ぶ際には自社の特性や希望する使い方にあったものを厳選しよう。税理士や公認会計士に相談するのも手だろう。

文・中川崇(税理士)

(提供:THE OWNER