シンカー: 各国の中央銀行は金融政策のリスクと効果のバランスをとろうと苦心しているようだ。5Gを含めた新たな経済構造のヘゲモニー争奪の一つの動きとして米中の貿易紛争があると考えられる。米国政府が中国に圧力をかけ、中国の投資行動が抑制されて、ヘゲモニー争奪を有利にしようとしても、FEDの利上げが企業活動を抑制してしまえば思い通りにはいかなくなるリスクとなる。米国の企業の投資活動を活性化させるためにも、利下げの判断は不可避だったのだろう。新しいテクノロジーへの投資がいずれ生産性を上げ、利上げが遅れても、インフレが暴れだすリスクは小さいとみているとみられる。ユーロ圏は、1)企業貯蓄率のプラス化と2)ネットの資金需要の消滅という「日本化」の二つの条件が既に満たされてしまっている。残りの3)デフレ期待のロックインという条件がまだ満たされず「日本化」の完成は免れている。ECBが金融緩和姿勢に消極的であれば、インフレ期待が消滅してしまうリスクになる。デフレ期待がロックインしてから、金融緩和の拡大でそれをインフレ期待に戻そうとしても、かなり困難で時間がかかる。ECBは積極的な緩和姿勢を見せ、虎の子のインフレ期待を消滅させないようにすることが重要になっている。金融機関の構造改革の進展への期待が、マイナス金利政策の継続のリスクをまだある程度は抑制できると考えているのだろう。一方、日銀は、「ピア・プレッシャー」に負けて、マイナス金利政策を深堀りして追加的な金融緩和に踏み切れば、金融機関の収益基盤を更に破壊し、経営の悪化が信用サイクルを崩壊させてしまうリスクが大きくなってしまう。2%の物価目標に向かうモメンタムは強くはなく、グローバルな景気回復の動きも遅れているが、内需動向が堅調でありモメンタムは維持されているとまだ判断できる。日銀は、マイナス金利政策の深堀りなどの副作用が懸念されるものでリスクをとることはなく、マーケットが予想するより大胆にフォワードガイダンスを1年程度も長期化してリスクをとり、輸出と生産の回復を阻害するような円の先高感が生まれないようにするだろう。日銀は、FEDの利上げ見通しが生まれるとみられる2021年春頃までにも、辛抱強く緩和政策を維持することを示し、ビハインド・ザ・カーブになることで、円高圧力がいずれは円安圧力に転じる期待をマーケットに織り込ませようとするだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●FOMC見通し

FRB高官たちの景気見通しは、弊社に比べると強気である。しかし、10月30日(水曜)までの次回FOMCでは、3カ月で3回目となる利下げが実施されると見込まれる。とはいえ、(FRBの)景気見通しが比較的(弊社よりも)明るいことは、以下の2点を示している。まず、最近の利下げは予防的な政策として実施されたに過ぎないこと。2点目は、FRBが追加利下げをしばらく見送るとみられることだ。ただ弊社は、それは小休止にとどまるとみている。2020年春までには、経済指標が追加利下げを強いる内容になると弊社は考えている。経済面のエビデンス(経済指標)は依然として軟調だ。FRBは、現時点で自身が見込む景気トレンドに対応する、という意味では十分な利下げを実施したのかもしれない。しかしそうした見通しは、今週発表される雇用統計や製造業ISMを受け緩やかに変化する可能性がある。弊社も、続いている軟調さが景気拡大の赤信号にはならないとみているが、警戒信号ではある(とみる)。FRBのリスクに対する見方(警戒感)が強まるかも知れない。

グローバル・レポートの要約

●米国経済(10/28): FOMCプレビュー: 3回目の利下げが実施される

FRB高官たちの景気見通しは、弊社に比べると強気である。しかし、10月30日(水曜)までの次回FOMCでは、3カ月で3回目となる利下げが実施されると見込まれる。とはいえ、(FRBの)景気見通しが比較的(弊社よりも)明るいことは、以下の2点を示している。まず、最近の利下げは予防的な政策として実施されたに過ぎないこと。2点目は、FRBが追加利下げをしばらく見送るとみられることだ。ただ弊社は、それは小休止にとどまるとみている。2020年春までには、経済指標が追加利下げを強いる内容になると弊社は考えている。経済面のエビデンス(経済指標)は依然として軟調だ。FRBは、現時点で自身が見込む景気トレンドに対応する、という意味では十分な利下げを実施したのかもしれない。しかしそうした見通しは、今週発表される雇用統計や製造業ISMを受け緩やかに変化する可能性がある。弊社も、続いている軟調さが景気拡大の赤信号にはならないとみているが、警戒信号ではある(とみる)。FRBのリスクに対する見方(警戒感)が強まるかも知れない。

●英国経済(10/28): 首相は、離脱協定案の通過が消えるリスクを負う

ボリス・ジョンソン英国首相は、月曜日(28日)に、12月12日の総選挙実施を目指して解散動議(票決は火曜日)を提出する。だが同首相はこれを、離脱協定案の議論を11月6日までに完了させるという(修正提出する)日程に議員が合意することと、「リンクさせる」だろう(※…解散動議が可決されると、11月6月までは討論する時間を確保する)。後者の日付(11月6日)が重要なのは、議会任期固定法の下で12月12日の総選挙が可能になる、最も遅い日付であるからだ。

●欧州経済(10/25):ECB理事会:ドラギ総裁との「最高のお別れ」が今回は焦点に

ドラギ総裁には最後となる ECB理事会後の記者会見は、8年間にわたるECBの政策の長所と短所を思慮深く楽しく議論する機会となった。ドラギ総裁は誠実かつ自信を持ち、またいつものように愉快に、質の高いスタッフに支えられて一貫して諦めることなく責務を追求してきた、理事会の道筋に対する誇りを示した。これが、ドラギ総裁の厳しいまでの努力と一致することは明らかで、そうした努力の結果、金融政策は非常にアクティブかつ予防的なスタイルとなった。これが長期的に成功する戦略かどうかを語れるのは、時間の経過だけである。緩和政策のあいだに政策余地を確保する時間があれば、我々はドラギ氏の遺産について、もっと自信を持てていただろう。ドラギ氏はECBに、次に何をなすべきかという明確な課題は残さなかったが、EMU(欧州通貨同盟)を進展させる方法についてのアドバイスを、将来にドラギ氏から聞くことがあってもおかしくない。ドラギ総裁としては、景気変動に抵抗できる財政余力が、依然としてECB中央に欠ける部分だっただろう。しかし、今後の政治的な統合から、そうした望みを解き放つことは難しいかもしれない。ECBの政策レビューが進むと共に、超低金利環境に適した金融政策戦略についてドラギ氏の見解も聞いてみたい。

●債券市場(10/21):宙ぶらりんの状態

欧州中央銀行(ECB)の金融政策は9月の理事会で確定しており、ドラギ総裁との別れは何事もなく通り過ぎた。公的部門資産購入プログラム(PSPP)が非常に緩やかなペースで資産買い入れを再開するため、金利が抑制された新しい世界において、投資家は宙ぶらりんの状態に置かれる。すべての視線が10月29~30日の米連邦公開市場委員会(FOMC)に集中する見通しだ。今回のFOMCは「タカ派的な」利下げを決定し、次回12月会合での利下げ休止を示唆する可能性がある。

●EM LOOKING GLASS(10/21):ポーランド訪問記 ? 安定が続く

10月9日に筆者たちはポーランドを訪れ、中央銀行(NBP)、財務省、政策シンクタンクの各代表者や、市場参加者の方々とお会いした。本レポートでは、それを通じて得られた重要な情報や弊社の見解を、要約して示したい。GDP成長率は2019年前半も引き続き堅調だったが、ベース効果と外部状況の悪化により徐々に減速するとみられる。だが内需は引続き力強いと見込まれる。労働市場のタイトさと福祉の強化に後押しされる。総合インフレ率は2019年遅くに再び加速する。2020年第4四半期(Q1)の前年同期比3.5%かそれを上回る水準がピークになる。コアインフレ率も、単位労働コスト上昇と内需の強さを背景に、加速が続くとみられる。政府の財政政策は福祉の確立に焦点を当ててきたが、2020年財政は均衡させる計画になっている。市場は、政府収入の縮小か社会的支出の増加を図る追加計画が出ないかどうかを、強く注視するとみられる。金融政策は、少なくとも2020年末までは変更されないと弊社は想定している。NBP(中央銀行)は、外的リスクが積上がる中で、今後見込まれるインフレ加速の後を見越すことになるだろう。今後数四半期でGDP成長率が(外的ショックが大きくなり)前期比0.5%未満に減速するならば、MPC(金融政策委員会)が金融政策緩和を検討し始めると弊社はみている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司