要旨

● 政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月4日に開会となった臨時国会中に経済対策をまとめることが期待される。特に経済対策の規模については、今回の豪雨や台風19号の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。

● 直近の2018年4-6月期のGDPギャップ率は、内閣府の推計に基づけば+0.4%のプラスとなるが、民間エコノミストの経済成長率平均予測に基づいてGDPギャップ率を延伸すると、2021年1-3月期時点で▲0.9%のデフレギャップが生じることになる。このGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけで、5兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

● さらに国交省によれば、昨年の全国の水害被害額を約1.35兆円(うち西日本豪雨1.16兆円)と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は3.9兆円となっている。今回の住宅や浸水の被害規模等からすれば、すでに国土強靭化関係3か年緊急対策として今年度予算で1.3兆円強の予算を計上していることを加味しても、加えて5兆円規模の補正予算が必要となる。

● メニューは、豪雨対応以外にも、台風被害や地震関連対応に加え、被災地の耐久財買い替え対策等も含まれる可能性があるが、国土強靭化関連の歳出も追加される可能性がある。実際、民主党政権により事業が一旦中止となった後に建設事業再開となった八ッ場ダムは、今月1日に試験湛水が開始されたばかりだが、今回の台風19号により満水になり、被害の軽減に貢献した。

● 建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定しているため、東日本大震災からアベノミクスの初期段階に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。今後は東京五輪の建設特需の反動減が懸念されるが、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待される。

自然災害
(画像=PIXTA)

臨時国会中に打ち出される観測の経済対策

政府は自然災害の復旧作業に対応すべく、10月4日に開会となった臨時国会中に経済対策をまとめることが期待される。特に経済対策の規模については、台風19号の復旧・復興に対して、大型の補正予算が組まれることが予想される。

そこで以下では、まず必要な経済対策の規模から計測してみよう。 経済対策の規模を設定する際に一般的に参考にされるのが、潜在GDPと実際の実質GDPのかい離を示すGDPギャップ率である。直近の2018年のGDPギャップ率は、内閣府の推計によれば+0.4%とプラスを維持している。

しかし、直近の民間エコノミスト経済成長率平均予測(ESPフォーキャスト10月調査)に基づいてGDPギャップ率を延伸すると、2021年1-3月期時点で▲0.9%のデフレギャップが生じることになる。従って、このGDPギャップを解消するのに必要な規模の経済対策を前提とするだけで5兆円規模の追加の経済対策が必要になる。

自然災害で必要とされる補正予算額
(画像=第一生命経済研究所)

ただし、今回発生した台風、豪雨によって、巨額な資本ストックの被害が発生していることが予想される。実際、国土交通省によれば、西日本豪雨などがあった昨年の水害被害額を1.35兆円(うち西日本豪雨で1.16兆円)と試算しており、発生年度に打ち出された補正予算の規模は3.9兆円となっている。これに対し、総務省消防庁によれば、台風19 号に伴う住宅被害は全体で5.6万棟となり、2018年の西日本豪雨の5.1万棟を越えている。また国土交通省によると、今回の台風による浸水被害は2.5万haを超え、西日本豪雨の1.85万haを上回っている。こうした状況に基づけば、すでに国土強靭化関係3か年緊急対策として今年度予算で1.3兆円強の予算を計上しているが、これに加えて需給ギャップの解消に必要な需要創出額5兆円規模の補正予算が必要となる。

自然災害で必要とされる補正予算額
(画像=第一生命経済研究所)

つまり、今回の被害規模からすれば、国土強靭化関係の予算の上乗せを加味しても、災害の復旧・復興の費用に需要不足解消を加えることで、最低でも5兆円程度の規模が必要となろう。

メニューは2018年度の補正予算が参考

一方、経済対策のメニューについては、豪雨や台風、地震といった天変地異が相次いだ昨年度の補正予算が参考になろう。

具体的には、西日本豪雨が発生した2018年度において2回に分けて打ち出された補正予算が参考になろう。このメニューでは、第一次が災害からの復旧・復興予算、第二次では国土強靭化策が柱となった。

特に、一次補正の経済対策では2つの柱が掲げられ、一つ目の柱が「災害からの復旧・復興」であり、西日本豪雨や北海道胆振東部地震、台風21 号、大阪北部地震等への対応が挙げられていた。そして二つ目の柱が「学校の緊急重点安全確保対策」であり、エアコン設置など熱中症対策や倒壊の危険性のあるブロック塀対応、等が挙げられていた。

一方、二次補正の柱が「重要インフラの防災対策」であり、防災・減災・国土強靭化、TPPに備えた農林水産業強化、中小企業支援、等であった。

自然災害で必要とされる補正予算額
(画像=第一生命経済研究所)

五輪特需の反動減を緩和か

以上より、10月4日から開催されている臨時国会において、一刻も早く台風19号対応の補正が提出されることが期待される。具体的には、台風19 の復旧対応に加え、被災地の耐久財買い替え支援等の歳出も含まれることが期待される。

ただし、こうしたメニューだけでは事業規模は4兆円に届かない可能性もある。従って、実際に打ち出される補正予算については、災害対策に加えて安倍首相が予てから防災・減災の緊急対策を3年間で集中実施するとしている国土強靭化関連の歳出が上乗せされる可能性もあろう。実際、民主党政権により事業が一旦中止となった後に建設事業再開となった八ッ場ダムは、今月1日に試験湛水が開始されたばかりだが、今回の台風19号により満水になり被害の軽減に貢献した。こうしたことで、国土強靭化へのニーズがより高まることになろう。

なお、公共事業に関しては、建設業界の人手不足の深刻化により工事が予定通り進まないと懸念する向きもある。しかし、国土交通省の建設労働需給調査によれば、建設技能労働者の過不足率は2014年度以降急速に不足率が縮小して以降は安定している。従って、東日本大震災からアベノミクスの初期段階における補正予算に比べれば、GDPの押し上げ効果は顕在化しやすい可能性がある。

過去のオリンピック開催国のパターンを参考にすると、関連する建設投資は2019年度後半にピークアウトしている可能性があり、この反動減の部分を今年度補正予算における景気対策により緩和することが期待されよう。(提供:第一生命経済研究所

自然災害で必要とされる補正予算額
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 永濱 利廣