シンカー:日銀はイールドカーブの低下圧力を強めない形での現状緩和政策へのコミットメントを強化するためにフォワードガイダンスの長期化に踏み切ったと考えらえる。緩和バイアスの明確化は黒田総裁や政策委員の必要であれば躊躇なく措置を講じるとの発言と同義だ。過度な金利低下が長期化による政策の副作用の悪化を避けるためにも、国債買入額減額などを続けるだろう。一方で海外では中央銀行は不透明化の長期化による経済活動の停滞を避けるためにもハト派的な政策を強めている。政治の世界では、従来ポピュリスト的なスタンスを維持し景気後退を招くより、政策スタンスを変更してでも不透明感を払しょくし、景気拡大モメンタムの回復させ、その結果をもとに政権の維持する形にシフトし始めていると考えられる。ただ、ポピュリズム的な政策が再燃するかは中央銀行の政策対応の度合い次第だと思われる。日銀は追加緩和期待などをもとに更なる金利低下などに対しては減額などで対応するスタンスを維持していることから、過度な金利低下に向かうハードルは引き続き高いが、日銀のオペ調整で金利が大幅に上昇することもないと考える。グローバルに金利が低位安定すればするほど、円債の魅力は高まり、金利上昇・イールドカーブのスティープ化へのハードルは高まることになるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

●企業の投資拡大発表は株価上昇の前兆シグナルとなる可能性があるだろう

グローバルに不透明感が長期化するなか、堅調な内需環境が維持されていることで、海外の影響に対する耐性が強まっている。企業決算も国内向け企業の収益性は持ち耐えていることが確認できる。企業は警戒感を維持しているが、堅調な内需環境が続く中、人手不足を補うためでなく、家計の消費需要は企業の設備投資需要をより大きく獲得するために製品・サービスの開発や生産性の強化などの投資を積極化しているようだ。民間設備投資のGDP対比は16%を超え、バブル期以来の水準まで上昇している。バブル期以降のデレバレッジやコストカットによるコスト削減による収益維持ではなく、積極的な投資を続け、その結果による収益拡大に転じ始めているようだ。今後、企業の投資拡大発表は株価上昇の前兆シグナルとなる可能性があるだろう。

●日銀のフォワードガイダンスの無期限化はイールドカーブを更にフラット化を避けながらの緩和政策の強化だろう

日銀はイールドカーブの低下圧力を強めない形での現状緩和政策へのコミットメントを強化するためにフォワードガイダンスの長期化に踏み切ったと考えらえる。マーケットではマイナス金利や緩和政策の長期化によるイールドカーブのフラット化の副作用も意識されている。マイナス金利の深堀などはマーケットの副作用に対する意識を強め、緩和効果を弱める可能性があるだろう。グローバルに金融政策が緩和的に転じたことで、金利低下圧力は強まっているが、為替動向はインフレ目標達成への動きを阻害するほどの過度な円高には振れていない。日銀の緩和バイアスの明確化は黒田総裁や政策委員の必要であれば躊躇なく措置を講じるとの発言と同義だ。過度な金利低下が長期化による政策の副作用の悪化を避けるためにも、国債買入額減額などを続けるだろう。グローバルに経済状況が好転し、マーケット主導の金利上昇圧力が強まらない限り、日銀はより少ない措置で金利を誘導し続けようとするだろう。

●中央銀行の政策対応のやりすぎは不透明感の再燃につながるだろう

ポピュリスト的な政策や発言で支持層へのアピールを強めてきた政権が、強硬姿勢の長期化が実体経済に対する不透明感や警戒感となり、経済活動に悪影響を与えていることを意識し始めているようだ。中央銀行は不透明化の長期化による経済活動の停滞を避けるためにもハト派的な政策を強めている。一方で政治の世界では、従来ポピュリスト的なスタンスを維持し景気後退を招くより、政策スタンスを変更してでも不透明感を払しょくし、景気拡大モメンタムの回復させ、その結果をもとに政権の維持する形にシフトし始めていると考えられる。ただ、金融緩和効果が強く、景気後退の可能性が低下すると、政治の世界ではポピュリスト的な誇張が再燃する可能性があるだろう。今後、マーケットの警戒感が維持され続けると、ポピュリスト的な強硬政策が後退し、財政拡大など景気拡大モメンタムを更に強める政策が実施されると、リスク資産価格の更なる上昇しグローバルに債券利回りは上昇してくるだろう。一方で、中央銀行の保険的な政策対応の効果が強すぎ、景気拡大が加速すると、景気減速に対する警戒感が弱まり、ポピュリスト的な政策の再燃が不透明な状況を強め、更なる金利低下を招く可能性もあるだろう。

●欧米の政策対応は円債の魅力を更に強めることになるだろう

為替ヘッジ後の円債利回りは引き続き、欧米債に比べ高いレベルを推移している。FRBが短期金融市場の安定化を図るために、資産買入を再開したことで、ドルの需要超過の状態が弱まり、ベーシスもタイト化した。Fedがドルの資金供給を拡大させることで、為替ヘッジコストは下がるだろう。しかし、日銀に比べ欧米の中央銀行は既に利下げなど追加緩和措置に踏み切っていることで欧米債利回り低下加速させている。結果、為替ヘッジ後の利回りで比べると円債の魅力は高い状態が続いている。欧米債利回りが今後更に低下すると、内外の投資家の円債需要は更に拡大し、国内債券市場への資金流入は加速すると思われる。黒田総裁は日銀の追加緩和期待などをもとに更なる金利低下などに対しては減額などで対応するスタンスを維持していることから、過度な金利低下に向かうハードルは引き続き高いが、資金に流入が続く限り、日銀のオペ調整で金利が大幅に上昇することはないだろう。グローバルに金利が低位安定すればするほど、円債の魅力は高まり、金利上昇・イールドカーブのスティープ化へのハードルは高まると考える。

図)マーケットはFed利下げ幅より多きい緩和効果を織り込んでいる

マーケットはFed利下げ幅より多きい緩和効果を織り込んでいる
(画像=Bloomberg、SG)

図)為替ヘッジ後の米独債のプレミアは消滅している

為替ヘッジ後の米独債のプレミアは消滅している
(画像=Bloomberg、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司