シンカー:中央銀行は夏から緩和的な政策スタンスを強め、不透明感の長期化による景気後退を避けようとしてきた。足許では米中通商協議の一部合意や英国のEU離脱協定案が可決されるなど、下方リスクは和らいできている。中央銀行関係者は実施した緩和策と不透明感の後退で景気拡大モメンタムが回復し、強まるか見極めようと、緩和策の強化を小休止させている。ただ、今までの不透明感が実体経済に既に悪影響を与えており、今後、景気拡大モメンタムが回復しないと、更なる緩和策の実施を強いられることなるだろう。年内に発表される経済指標の結果次第で、来年の金融政策の方向性が大きく変わる可能性があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

金融政策見通しの変要

10月のFOMCでFRBは今年3回目の利下げに踏み切った。今後入ってくるデータやグローバルなリスクに関する情報を受けて、FRBも見通し変更を強いられるだろうが、現時点では、FRBは自身の政策を適切とみている。12月と来年初めは金利政策を小休止させた後、経済指標などがより軟化していると、2020年春には利下げを再開するだろう。また、発表した米財務省短期証券の対象とした購入プログラムの詳細も明らかになっていない。10月のFOMCの議事要旨の中で、より深い識見が示されるかが注目だろう。

10月の理事会で政策の変更は無く、リスクについても引き続き警戒感を維持していることが確認された。米国が2020年後半にリセッション入りする可能性があり、その場合、ECBは2020年6月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時にAPP(資産買入プログラム)を月額400億ユーロ前後に増額するだろう。この時点で、新しい資産買入れプログラムや、住宅ローンを(使途の)対象にするTLTRO、及びイールドカーブ・コントロールも議論される可能性があると考える。また、新しく就任したラガルド新総裁は来年の戦略レビューでドラギ総裁下8年の政策に対する論争を解決することを強いられるだろう

10月の日銀金融政策決定会合では現緩和政策の現状維持が決定されたが、フォワードガイダンスは、「「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」へ変更された。海外経済の持ち直しの遅れなどを理由に、フォワードガイダンスの変更を決断した。メインシナリオとしては、実際には海外経済の持ち直しがいずれ進み、日銀が追加金融緩和に追い込まれることはないと予想する。2021年度には、設備投資サイクルの一段の上昇などで企業貯蓄率が正常なマイナスに転じ、総需要を追加的に破壊する力が一掃され、政府のデフレ脱却宣言とともに、日銀はまず長期金利の誘導目標を引き上げていくと考える。

PBoCは11月5日、1年物中期貸出ファシリティ(MLF)金利を5bp引下げて3.25%とした。小幅だったとはいえ、今サイクルはじめの利下げとも受け止めれる今回の動きには重要なメッセージを3点考えられる。しかし、このタイミングで利下げを実施した理由は、豚肉供給の不足が記録的な水準に達し、今後数カ月で総合CPI上昇率がさらに加速し、利下げのハードルが大幅に上がる前に金融緩和を1回挟み込むこんだとも考えられる。今後、米国と中国が「フェイズ1」合意に達して景況感が安定するならば、RRR(預金準備率)追加引下げは、2020年第1四半期1の遅くにCPI上昇率の減速トレンドが始まるまで小休止になるとみられる。

BOEはブレグジットを巡る不確実性が続く中、現利上げサイクルはピークに達し、来年には利下げに踏み切ることになるだろう。

米国(Fed)

●FFレート(10月末時点:1.50%-1.75%):

予想:12月と来年初めは金利政策を小休止

10月のFOMCでFRBは今年3回目の利下げに踏み切った。金利水準は、現在のFOMC参加者の経済見通しに照らすと適切とみられる。FOMC声明からは「景気拡大を維持するために適切に行動する」という表現が消えた。これにより、FRBが追加の政策アクションを考えていないことが、暗黙のうちに示されている。今後入ってくるデータやグローバルなリスクに関する情報を受けて、FRBも見通し変更を強いられるだろうが、現時点では、FRBは自身の政策を適切とみている。12月と来年初めは金利政策を小休止させた後、経済指標などがより軟化していると、2020年春には利下げを再開するだろう。その場合、景気サイクルの減速などが顕在化すると、2020年春から夏の早い時期(3-7月)に、合計で100bpの追加利下げが実施されると見込んでいる。

●バランスシート縮小(7月末時点:約4.067兆ドル)

予想:短期証券の買入発表後、バランスシート拡大の詳細に注目

連邦税を支払い期限を前にMMFなどから納税のための現金が引き出されたことや、国債入札の決済が重なったことで短期金融市場の資金がひっ迫し、短期金利が過度に上昇した。これを受け、Fedは正常化を促すための資金供給を10月末まで行うとし、短期金利市場の正常化を図った。FRBその後、同じような混乱が再発しないよう、今後、当局はバランスシート拡大を再開することを表明し、還期限が短い、米財務省短期証券(Tビル)の対象とした購入プログラムを発表した。FRBは2020年第2四半期(Q2)までTビル(短期割引国債)を購入すると述べていているが、米国債買入れやや常設レポファシリティ(SRF)に関してさらなる識見が示されていない。また、短期利付債を購入する可能性などの詳細も明らかになっていない。10月のFOMCの議事要旨の中で、より深い識見が示されるかも知れない。

ユーロ圏(ECB)

●金融緩和策・政策金利(10月末時点:預金ファシリティ金利:-0.50%、リファイナンス金利:+0.00%、限界貸出金利:+0.25%)

予想:ECBは2020年6月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時にAPP(資産買入プログラム)を月額400億ユーロ前後に増額するだろう

9月の政策会合でECBはの政策理事会で(現時点または下回る水準を、(コア)インフレ見通しが(目標に)力強く近づくまで据置くとし、10bpの中銀預金金利引下げ、預金金利の階層化、TLTRO3の条件改善、そして重要なことに、期限を定めない資産買入れプログラム(APP、月額200億ユーロ)をECBの利上げ開始直前までの継続を発表した内容は事前見込みよりハト派的な内容となった。10月の理事会で政策の変更は無く、リスクについても引き続き警戒感を維持していることが確認された。また、9月に階層化を導入した後に金利が上昇している理由が議論されたようだ。各理事が、マイナス金利から除外される準備預金の階層を決定する乗数を調整する代わりに、市場見込みが修正された結果としてのイールドカーブ上昇を受入れる可能性がある。また、米国が2020年後半にリセッション入りする可能性があり、その場合、ECBは2020年6月に追加利下げ(20bp)を実施し、同時にAPP(資産買入プログラム)を月額400億ユーロ前後に増額するだろう。この時点で、新しい資産買入れプログラムや、住宅ローンを(使途の)対象にするTLTRO、及びイールドカーブ・コントロールも議論される可能性があると考える。

●ラガルド新総裁(11月1日に就任)

予想:来年の戦略レビューでドラギ総裁の8年の政策に対する論争を解決することを強いられるだろう

ドラギ総裁はユーロを救済したと評価されるが、同氏の政策に対する論争はくすぶるとみられる。ラガルド新総裁は、来年の戦略レビューでそれを解決することを強いられるだろう。インフレ期待が記録的に低いことが、ドラギ氏の遺産に重くのしかかっている。ECBを近代的な中央銀行に変化させたり危機と戦うという面では目覚ましい仕事を成し遂げたと考えている。しかしECBは、構造的な逆風が吹くという環境下で、インフレやインフレ期待をコントロールする能力を過大評価していたとも考えている。狭い目標に余りにも焦点を当てており、ECBのアクティビスト化や非対称的な政策対応につながるほかに、財政安定リスクが横に押しのけられているとも考えられる。こうしたアクティビスト的アプローチで、他の政策分野への圧力も弱まっているが、ドラギ総裁退任でそうした日々は去ったとみられ、ECBは新総裁のもとでじゃぱ政策余地が比較的少ない中で)主要目的でるの物価安定の実現に再び焦点を当てることが必要になろう。

日本(日銀)

●誘導目標(10月末時点:長期金利(10年JGB)利回りを0.0%を中心に±0.2pp内で誘導)

予想:フォワードガイダンスの無期限化で辛抱強く現行の緩和政策を実行し、2021年まで政策は変更されないだろう。

10月の日銀金融政策決定会合では現緩和政策の現状維持が決定されたが、フォワードガイダンスは、「「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れに注意が必要な間、現在の長短金利の水準、または、それを下回る水準で推移することを想定している」へ変更された。日銀は、9月の決定会合で、世界経済の景気減速懸念が強まるなか、海外経済の動向が国内の経済・物価動向に悪影響を与えないか警戒感を強めていた。10月の決定会合で日銀は、「海外経済の減速の動きが続き、その下振れリスクが高まりつつあるとみられるもとで、「物価安定の目標」に向けたモメンタムが損なわれる惧れについて、より注意が必要な情勢になりつつある」と判断した。そして、「海外経済については、成長ペースの持ち直し時期がこれまでの想定よりも遅れるとみられる」と判断した。海外経済の持ち直しの遅れなどを理由に、フォワードガイダンスの変更を決断した。メインシナリオとしては、実際には海外経済の持ち直しがいずれ進み、日銀が追加金融緩和に追い込まれることはないと予想する。2021年度には、設備投資サイクルの一段の上昇などで企業貯蓄率が正常なマイナスに転じ、総需要を追加的に破壊する力が一掃され、政府のデフレ脱却宣言とともに、日銀はまず長期金利の誘導目標を引き上げていくと考える。

需要超過の領域に入りながら景気が引き続き上向いていることを示す「拡大」という景気判断を維持するもとで、本格的な追加金融緩和は難しかったとみられる。更に、グローバルに景気・マーケット動向の不透明感が強かった2019年前半の潜在成長率を上回る実質GDP成長率は、ほとんどが内需の拡大の寄与であったことは、内需の弱さからくる円高体質から日本経済が脱していることを示すのかもしれない。内需に対する自信は、FEDとECBの金融緩和に伴う円高のリスクに対する政策委員の恐怖心を軽減しているだろう。日銀は、「海外経済の減速の国内需要への影響は、限定的なものにとどまると見込まれる」と判断している。リスクシナリオとして、この判断が、国内需要の下振れのリスクが大きくなっていると変更された場合、フォワードガイダンスに示唆される追加金融緩和が実施されるとみられる。

●マイナス金利政策(10月末時点:当座預金のマイナス金利適用残高(約25兆円)に-0.1%のマイナス金利を適用)

予想:2%の物価上昇を達成する2022年に解除

日銀は長期金利の誘導目標を徐々に引上げ、長期国債の買入額は減少していく。日銀は2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2022年となろう。

中国(PBOC)

●政策金利(10月末時点:預金準備率(RRR):13.50%、7日間リバースレポレート目標:2.55%)

予想:景況感が安定するならば、RRR(預金準備率)追加引下げは、2020年第1四半期1の遅くにCPI上昇率の減速トレンドが始まるまで小休止になるとみられる

PBoCは11月5日、1年物中期貸出ファシリティ(MLF)金利を5bp引下げて3.25%とした。これはPBoCが設定する金利であり、政策金利引下げと見なすことができる。小幅だったとはいえ、今サイクルはじめの利下げとも受け止めれる今回の動きには重要なメッセージを3点考えられる。1)中国の中央銀行は、経済全体のために必要になれば供給主導のインフレを甘受する可能性がある、2)利下げは、政策波及効果の改善と信用状況緩和に等しく焦点を当てている、3)PBoCには積極的に緩和を進める意欲は無い。しかし、このタイミングで利下げを実施した理由が他にあるかも知れない。それは、豚肉供給の不足が記録的な水準に達し、今後数カ月で総合CPI上昇率がさらに加速し、利下げのハードルが大幅に上がる前に金融緩和を1回挟み込むこんだと考えられる。一方で、米国と中国が「フェイズ1」合意に達して景況感が安定するならば、RRR(預金準備率)追加引下げは、2020年第1四半期1の遅くにCPI上昇率の減速トレンドが始まるまで小休止になるとみられる。

英国(BOE)

●政策金利(10月末時点:0.75%)

予想:ブレギジットの不透明感が続く中、英国の政策金利はピークを迎え、来年には利下げに踏み切るだろう

BoEは、9月の政策会合で詮索の現状維持を全会一致で決定した。政策委員会は経済の現状とブレグジットが経済に及ぼす影響を重視しているようだ。また、議事要旨の全体的なトーンは、前回会合よりソフトになっていた。インフレとの関連で注目されている労働市場が転換点を迎えている可能性があるとも認める中、外部環境が悪化している。この状況を踏まえ、英国の政策金利がピークに達したという見方を維持し、最初の利下げは来年になるだろう

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司