ブラジルに対する欧米勢からの批判が止まない。アマゾン川流域の開発を拡大させてきたボルソナロ政権に対して、特に同地域の保全ファンドに資金を提供してきたドイツやノルウェーによる同国への批判は強いと考えるのが自然である。

ブラジル・リスク,中国
(画像=Aleks_Shutter/Shutterstock.com)

もっとも株価ベースで見ると、アマゾンの火災問題で国際的な非難を一斉に浴びた9月下旬から10月初頭からは回復しているかのように見える。

(図表1 ブラジルの直近3か月における株価推移)

ブラジルの直近3か月における株価推移
(出典:Yahoo!ファイナンス)

では、ブラジル・リスクは終わったのか?本稿はブラジルを巡る将来の展開可能性を展望する。

ボルソナロ政権が“炎上”したのは、前述したアマゾンの火災問題であった。ブラジルの経済協力開発機構(OECD)入りを米国としては依然として支持する旨、同大統領の盟友とも言えるトランプ米大統領は明言しているものの、米国自身もこれまでのようにブラジルへの積極的な支持を一旦控え一呼吸置いているのが実態である。

そうした中で筆者が気にしているのが、ブラジルの中国への接近である。元来から両国関係が深いのは言うまでもないのだが、ここにきてブラジルが中国資本の導入を嗜好しているのだ。その端的な例が今回で2回目の開催となる中国国際輸出入展におけるブラジル側の発言である。セルジオ・セゴヴィア国家輸出振興庁長官がブラジルへの投資、特にインフラ建設への投資を呼びかけたのである。「一帯一路政策」とも親和性のあるこの発言に注目するのは、実は昨日(10日(ブラジリア時間))から15日までブラジリアにおいて第11回BRICSサミットが開催中であり、習近平国家主席がブラジルを訪問中であるからだ。すなわち、ブラジルと中国で新たな協力関係を築く可能性が想定されるという訳だ。

しかし、だからブラジルは安全だと言いたいわけではない。筆者はむしろ逆を考えている。それはアルゼンチンの直近の動向との類似性を考えるとむしろ波乱の発生を考えた方が自然だからだ。

(図表2 先月(10月)のアルゼンチン大統領選で勝利したフェルナンデス候補)

先月(10月)のアルゼンチン大統領選で勝利したフェルナンデス候補
(出典:The Telegraph)

アルゼンチンが8月にも国際通貨基金(IMF)からの借入金及び短期債の返済についてリスケを検討している旨“喧伝”され(後者は後に撤回したが)、S&Pら国際的な格付機関がノッチを下げたのは記憶に新しい。そうした中でアルゼンチンが接近してきたのが中国だったのである。他方で、他国に押されあまり注目を集めていないが、アルゼンチンが債務返済に向けた措置として開発を進めてきたのが天然資源なのである。それでも結局は経済の自由化を推進するマクリ政権は結局先月(10月)27日(ブエノスアイレス時間)の大統領選で敗退し、ペロニストと呼ばれるアルゼンチン固有の社会主義に似た思想を持つフェルナンデス候補が新大統領になることが決まった。

こうした一連の顛末が、ブラジルの辿る足跡に非常に類似しているというのが卑見であり、だから筆者はブラジル・リスクに注目しているのだ。ブラジルも重債務に苦しんでおり、ボルソナロ政権は改めて財政改革案を提出した。ここで注目すべきなのが、その一環として国営電力企業であるエレクトロブラスの民営化を行うとした点だ。しかし、去る6日(ブラジリア時間)の同国の領海内にある海底油田の開発入札において、欧米企業の入札が皆無で、ペトロブラスと中国企業が一部の鉱区を落札したのみの“不発”に終わったのであり、実はブラジルは他の売却に失敗しつつあるのだ。

そもそも筆者はブラジルにおいて個人的にキャピタル・フライトが生じる可能性を去る6月から危惧してきた。それは、米系仮想通貨業者であり、XRPを発行しているリップルが南米進出のためにブラジルで同月から事業を開始しているからである。XRPは国際送金に特化した仮想通貨である。同社が進出するのは、その地域で同通貨の需要が拡大すると見込んでいるのだと考えるのが自然だが、では南米でそうした仮想通貨の需要がなぜ生まれるのか。それは南米での現地通貨価値の下落、すなわち“デフォルト(国家債務不履行)”リスクが増大することがその一因だと考えると自然なのだ。

無論、ブラジルは大国であり、そう簡単に“デフォルト(国家債務不履行)”するはずがない。むしろそのリスクが“喧伝”されることによるマーケットでのヴォラティリティー増大に注意すべきなのだ。米中首脳会談からの影響すら受け得る中南米の動向から目が離せない。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。