シンカー: 債券市場の変動が大きくなってきた。これまでの米国の景気に対する悲観論が検証されつつあるのだろう。悲観論には三つの根拠があった。一つ目は、米中の貿易紛争が長引いて企業心理を冷やすことだ。二つ目は、逆イールドまで至ったイールドカーブのフラット化が将来の景気後退を予兆していると信じられたことだ。三つ目は、企業債務が膨張して調整が懸念されてきたことだ。一方、これらの根拠は楽観論にも転じやすい。5Gを含めた産業構造のヘゲモニーをめぐる米中の争いであれば、米国の企業心理を冷やし投資を抑制してしまうことは本末転倒で、企業活動が鈍化するリスクが高まれば、米国の圧力は弱まる可能性がある。イールドカーブはフラット化してきたが、長期実質金利は極限まで低下しており、緩和効果が持続しているとみることができる。そして、企業の債務の膨張が、株式からのライアビリティーのシフトでしかなく、企業貯蓄率は大きく低下していないことは、調整のリスクは小さく、株式市場にとっての追い風が続く可能性があることだ。債券市場はこれらの根拠を検証しながら、しばらく変動が大きい展開となるだろう

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・フォーカスの解説

●スペイン総選挙

日曜日に行われたスペイン総選挙の結果、350議席のうち、PSOE(社会労働党・左派)は120(-3)、PP(国民党・右派)は88(+22)、VOX(極右)は52(+28)、ポデモス(左派)は35(-7)、シウダダノス(中道)が10(-47)となった。中道のシウダダノスと左派ポデモスが大きく議席を減らす一方で、極右のVOXが躍進し第3党に。先月からカタルーニャ独立問題をめぐるデモなどが激化しており、独立運動に強硬姿勢を示すVOXが票を集めたようだ。PSOEは最大議席数を維持したものの、過半数である176議席には大きく及ばず、引き続き他党との協力の必要がある。今後可能性のある連立政権の組み合わせとしてはPSOE+ポデモス+MAS PAIS(中道左派、ポデモスから分裂)+地域政党による左派連立政権が考えられる。ただ、過半数には届かないため首相の信任投票においてERC、シウダダノス、もしくはPPが棄権する必要がある。1回目の信任投票では過半数(176議席)の賛成が必要だが、それが通らなかった場合の二回目の投票では単純過半数(不在票や棄権票を除く過半数)の賛成で信任されるため、2回目の投票でPSOE主導の少数政権が誕生する可能性があると言える。PSOE主導の政権が誕生した場合でも、地域政党に譲歩をする必要に迫られる可能性が高く、安定した政権が誕生する可能性は低いと言えるだろう。政治的な膠着感に解消の気配がない中、2020年度予算を年内に議会を通過させることができる可能性は極めて低く、再び2018年度の予算案がロールオーバーされることになるとみられる。

グローバル・レポートの要約

●中国経済(11/06): サプライズ利下げを実施、追加利下げは不透明

PBOCは本日(5日)、1年物MLF(中期貸出ファシリティ)金利を3.30%から3.25%に引下げた。これは予想外の動きだった。また厳密に言うと、これは今サイクルで最初の政策金利引下げだった。また小幅だったとはいえ、重要なメッセージを何点か発している。即ち、1) 中国の中央銀行は、経済全体のために必要となれば供給主導のインフレを甘受する可能性がある、2) 利下げは、政策波及効果の改善と信用状況緩和に等しく焦点を当てている、だが 3) PBOCには積極的に緩和を進める意欲は無い、の3点である。

●債券市場(11/11):得やすいものは失いやすい

最近の米中貿易戦争をめぐる良好な機運を背景に債券相場は急落した。古典的な楽観主義者の流儀に沿って、強弱が交錯する経済指標はバラ色に描かれようとしている。我々はそれをより懐疑的にみており、債券相場に対して中期的に強気な見方を堅持していく。しかし、タイミングがすべてだ。米中貿易協定が調印されるまで、アウトライトのデュレーション・ロングには慎重な姿勢を崩さず、ユーロ圏周縁国の国債をオーバーウエートするなど、コンディショナルまたはディフェンシブな投資戦略を選好する。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司