2019年7-9月期の実質GDP成長率は前年同期比2.4%増(1)と、前期の同2.3%増から上昇したが、Bloomberg調査の市場予想(同2.7%増)を下回る結果となった(図表1)。
実質GDPを需要項目別に見ると、主に投資と純輸出の改善が成長率上昇に繋がった。
民間消費は前年同期比4.2%増と、前期の同4.6%増から低下した。財別に見ると、自動車販売の落ち込んだ耐久財(1.8%増)をはじめ、非耐久財(3.4%増)と半耐久財(1.9%増)が減速した一方、サービス(6.4%増)が加速した。
政府消費は同1.8%増と、前期の同1.1%増から上昇した。
投資は同2.8%増と、前期の同1.9%増から上昇した。投資の内訳を見ると、まず民間投資は同2.4%増(前期:同2.1%増)と上昇した。民間設備投資(同3.1%増)が改善する一方、民間建設投資(同0.0%増)が停滞した。また公共投資は同3.7%増(前期:同1.4%減)と2期連続で上昇した。公共設備投資(同0.5%減)の落ち込みが和らいだほか、公共建設投資(同5.1%増)が堅調に拡大した。
純輸出は実質GDP成長率への寄与度が+4.3%ポイントと、前期の▲4.4%ポイントから大きく改善した。まず財・サービス輸出は同1.0%減(前期:同7.9%減)とマイナス幅が縮小した。うち財貨輸出が同0.3%減(前期:同5.8%減)、サービス輸出が同3.2%減(前期:同14.7%減)となり、それぞれマイナス幅が縮小した。また財・サービス輸入は同6.8%減(前期:同2.6%減)と低下した。
供給項目別に見ると、主にサービス業の改善が成長率上昇に繋がった(図表2)。
農林水産業は前年同期比1.5%増(前期:同1.3%減)と上昇した。主要農作物のうち、米やトウモロコシの収穫は干ばつや洪水の影響により低調だったが、キャッサバや野菜、天然ゴム、パーム油などが拡大した。また水産業(同2.8%減)が低迷した。
鉱工業は同0.3%減(前期:同1.1%増)と低下し、5年半ぶりのマイナスとなった。まず主力の製造業は同1.5%減(前期:同0.2%減)と、内外需の悪化を受けて2期連続のマイナスとなった。製造業の内訳を見ると、食料・飲料や繊維、家具などの軽工業(同2.9%増)が改善した一方、自動車やコンピューター・部品などの資本・技術関連産業(同2.7%減)と石油化学製品、ゴム・プラスチック製品などの素材関連(同4.1%減)がそれぞれ低迷した。また電気・ガス業が同1.9%増(前期:同7.3%増)と鈍化した一方、鉱業が同8.6%増(前期:同6.3%増)と上昇した。
全体の6割弱を占めるサービス業は同3.8%増(前期:同3.5%増)と小幅に上昇した。もっとも内訳を見ると、前期から伸び率の低下した業種が多かった。小売・卸売業が同5.6%増(前期:同5.9%増)、情報・通信業が同7.4%増(前期:同8.7%増)、不動産業が同2.6%増(前期:同3.1%増)、教育が同1.3%増(前期:同1.6%増)、建設業は同2.7%増(前期:同3.4%増)と低下した一方、ホテル・レストラン業が同6.6%増(前期:同3.7%増)、運輸・倉庫業が同2.5%増(前期:同2.3%増)、金融・保険業が同3.8%増(前期:同1.8%増)と上昇した。
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(1)11月18日、タイの国家経済社会開発委員会事務局(NESDB)が2019年7-9月期の国内総生産(GDP)を公表した。
7-9月期GDPの評価と先行きのポイント
タイ経済は昨年、輸出が鈍化するなかでも内需を中心に+3%台の成長が続いたが、今年に入ると成長率が+2%台まで低下し、4-6月期は約5年ぶりの低成長(前年比2.3%増)を記録した。7-9月期は3期ぶりに景気が回復したが、成長率は前年比2.4%増の小幅上昇となり、昨年の+4.1%成長は勿論、今年1-3月期の+2.8%成長をも下回り、緩慢な経済成長が続いていることが明らかとなった。
7-9月期の景気回復は観光業と公共投資の回復した影響が大きい。7-9月期の訪タイ外客数は前年比7.2%増(4-6月期:同1.4%増)と加速した(図表3)。前年同期にタイ南部プーケットにおけるボート転覆事故を受けて中国人観光客が急減していた反動や香港政情不安によって旅行先にタイが選ばれやすくなったこと、そして中国とインドなどに到着ビザの無料化措置が適用されたため、東アジア諸国やインドを中心にタイを訪れる外国人観光客が増えている。また政府のインフラプロジェクトが進展するなかで、公共投資が持ち直した。
一方、輸出の落ち込みは続いている。財貨輸出は7-9月期が前年比▲0.3%と3期連続のマイナスとなった。世界経済の減速や米中貿易戦争を背景に中国向けの電子製品をはじめとする中間財の輸出が落ち込んだほか、バーツ高に伴う輸出競争力の低下、国際価格の下支えを目的に実施した天然ゴムの輸出削減の影響が重なった。
こうした輸出低迷は輸出関連産業の業績悪化を通じて、民間部門に悪影響を及ぼしている。民間消費は+4%台の堅調な伸びを維持しているが、3期連続の減速となった。低インフレ環境や農業所得の増加、政府の福祉カード保有者への給付金などは消費を下支えているが、雇用者数の減少や月額平均給与の停滞、消費者信頼感の低下(図表4)、自動車買い替え需要のピークアウトなどから消費の勢いは徐々に失われてきている。また投資は4-6月期から回復したものの、2期連続で+2%台前半の成長に留まった。輸出低迷と自動車販売の減少、そして4月に導入した住宅ローン規制による不動産購入の減速など、投資に改善の兆しは見られない。
先行きのタイ経済は引き続き世界貿易の動向に左右されながら、政策対応で景気の下支えを図る展開となりそうだ。最近では米中貿易協議が「第1段階」の合意に向けて進みつつあるが、先行きは依然として不透明な状況である。もっとも、足元ではITサイクルが最悪期を脱しつつあり、今後の電子製品輸出が持ち直す期待もある。主力の電気・電子製品の輸出が底打ちすれば、製造業部門の落ち込みは和らぐだろう。
政府は4月に実施した総額218億バーツの消費刺激策に続き、8月には総額3,160億バーツ(約1兆1,000億円)の景気刺激策を決定している。他方、タイ中銀は8月と11月に金融緩和を決定し、政策金利を過去最低の1.25%まで引き下げている。こうした財政・金融両面の刺激策が景気下支えとして働くものと見込まれる。
一方、政権発足の遅れによって来年度予算の予算執行が年度開始の今年10月から来年1月に遅れる見通しである。また来年4月には米国による一般特恵関税制度(GSP)の一部停止やバーツ高の進行などの不安要素もあり、タイ経済の先行きには不透明感が残る。
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斉藤誠(さいとう まこと)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 准主任研究員
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