2019年10月の増税の手前では、予想外に駆け込み需要の発生が小さかったことが、内閣府のGDP統計から判明した。2014年に比べて、耐久財・半耐久財ともに前期比の伸び率は小さい。これは政府の平準化対策の効果もあろう。株価の資産効果の効き方も前回とは違う。7-9月の消費が伸びなかったので、家計が極端な節約志向に変わることは考えにくい。

駆け込み需要
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意外に小さい山

11月14日に内閣府がGDP一次速報を発表した。全体の実質GDP前期比年率の伸びは0.2%で、民間最終消費支出も1.4%(4-6月は2.4%)と事前に考えられていたよりも、駆け込み買いが起きていない結果になっていた。この点は、少し前まで多くのエコノミストが「今回2019年9月までに駆け込み需要がそれなりに大きく起きた」という見方に傾いていたのを覆すものになった。

まず、2014年1-3月の民間最終消費支出の伸びと比べると、そのときの実質前期比年率は8.1%のプラスで、今回の1.4%よりも遥かに大きかった(図表1)。そして、2014年4-6月は△17.8%と著しい減少を経験している。山高ければ谷深しというのが2014年の教訓である。

第一生命経済研究所
(画像=第一生命経済研究所)

この教訓に基づくと、2019年10-12月の谷もそれほど大きくないのではないかと思わせる。少しテクニカルな話をすると、10-12月の消費はそれなりに落ちるだろう。なぜならば、消費税率が上がることで、GDPデフレータの前期比が10-12月に押し上げられるからだ。例えば、7-9月の名目・実質消費が+1%ほど前期比で上がって、10-12月の名目消費は同額の△1%ほど前期比で落ちるとしよう。このとき、10-12月のデフレータが+1%だったとすると、10-12月の実質消費は、前期比△2%となる(図表2)。実質消費は、7-9月は+1%だったところから、10-12月は△2%へと大きな落ち込みになる。これは、物価上昇により、テクニカルに実質値が大きく下がるからだ。

第一生命経済研究所
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従って、2020年2月に発表される次回2019年10-12月のGDPでは「やはり反動はそれなりに大きかった」と表面的なデータをみて語る人は少なくないだろう。

おそらく、エコノミストが今から注目するのは、この10-12月の物価であろう。物価は予想外に上がらず、10-12月のデフレータよりも小幅になるかもしれないと感じている。10月中旬の東京都区部の消費者物価(コア)は前年比が前月と同じ0.5%で横ばいであった。価格転嫁とともに値下げをする小売店が増えることで、物価上昇率の押し上げ幅は小さくなる。10-12月の実質消費は、デフレータが上がりにくい分だけ、前期比で減少しにくくなるという理屈である。

政府の各種対策は効いた

なぜ、駆け込み需要が思ったよりも小さな山だったのだろうか。その理由として、様々な仮説を考えることができる。7月の気温が低かったことや9月に台風15号が来たこともあるだろう。政府の平準化対策が有効だったという点も大きい。

エコノミストたちは、POSデータや百貨店売上の9月末までのデータをみて、事前には駆け込みがある程度は起きたと考えていた。しかし、マクロでみると、金額の大きな自動車では2014年ほどは駆け込みがないことがより明確にデータに反映されたのだろう。日用品などの金額の小さな物品では駆け込みがあっても、マクロの数字には寄与は乏しかった。

消費の細かい内訳では、実質の耐久財消費は前期比年率13.5%であるが、2014年1-3月のときは57.5%と桁違いに大きく伸びた(図表3)。実質の半耐久財は前期比年率が7.0%で、2014年1-3月の20.2%に比べてかなり小さい。このデータをみる限りは、駆け込み需要は日用品・衣料品などでもやはり規模は小さかったという見方になる。

第一生命経済研究所
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なお、住宅投資も、実質の前期比年率は3.5%で、2014年1-3月の7.4%よりはごく小さい。これも、政府の平準化対策が効いたとみてよい。

今後の消費

2019年の消費税率引き上げは、根強いトラウマによって2014年時のようにその後の消費停滞を引き起こすと警戒されてきた。その点、筆者は2014年のときは住宅・自動車といった大型支出によって家計は節約志向に陥ったとみていて、今回はそれが小さいと判断している。2014年のときは、日経平均株価が前年比6割も上昇して、その資産効果が働いたこともある。今回はそれがない。

こうした評価の一方で、2019年10-12月から2020年1-3月は消費を刺激する材料が乏しい。下向きの要因が小さくても、もう一方で上向きの要因もまた見つけにくいのが実情だ。雇用・賃金の押し上げや株価上昇への期待がどのくらい実現するかにかかっている。

小売店が割引によって販売数量を嵩上げしようとすると、その影響は後々に雇用・賃金を抑制することになる。今回は2014年以上にこちらの作用にも目配りが必要になる。

少し明るい見方を提示すると、増税前の7-9月に家計は、駆け込み買いにより、「使い過ぎ」に陥らなかったので、2020年4-6月、7-9月に期待される東京五輪需要が過度に押し下げられることはない。増税の後遺症が、東京五輪の効果によって相殺される可能性は高まったという見方もできる。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生