消費税率引き上げ、幼児教育無償化の影響を除けば、上昇率は鈍化

消費者物価
(画像=PIXTA)

総務省が11月22日に公表した消費者物価指数によると、19年10月の消費者物価(全国、生鮮食品を除く総合、以下コアCPI)は前年比0.4%(9月:同0.3%)となり、上昇率は前月から0.1ポイント拡大した。事前の市場予想(QUICK集計:0.4%、当社予想も0.4%)通りの結果であった。季節調整済・前月比では0.2%となった。生鮮食品及びエネルギーを除く総合(コアコアCPI)は前年比0.7%(9月:同0.5%)、総合は前年比0.2%(9月:同0.2%)であった。

コアCPI上昇率を寄与度分解すると、エネルギーが▲0.23%(9月:▲0.15%)、食料(生鮮食品を除く)が0.41%(9月:0.25%)、その他が0.21%(9月:0.20%)であった。

10月のコアCPI上昇率は消費税率引き上げ(8%→10%)によって0.8%ポイント押し上げられる(税率引き上げ分が課税品目全てにフル転嫁されると仮定)一方、幼児教育無償化によって▲0.6%ポイント押し下げられた。消費税率引き上げ及び幼児教育無償化分を除くコアCPI上昇率は0.2%となり、上昇率は前月から0.1ポイント縮小した。

消費者物価
(画像=ニッセイ基礎研究所)

価格転嫁率100%以上の品目割合は前回増税時を下回る

消費税率引き上げによる影響を細かくみると、消費者物価指数(全国のコアCPI)に占める非課税品目(1)の割合が30%弱、経過措置で新税率の適用が11月以降となる品目(2)の割合が10%程度、軽減税率の対象品目(3)の割合が20%弱であるため、10月に消費税率引き上げの影響を受けた品目の割合は40%強となる。この点を考慮すると、消費税率引き上げによりコアCPI上昇率の押し上げ幅は10月が0.8%ポイント、11月以降が1.0%ポイントとなる。

9月から10月にかけての上昇率の変化を課税品目(10月から新税率適用)、非課税品目、経過措置品目、軽減税率対象品目に分けてみると、課税品目の上昇率は9月の前年比0.3%から同1.7%となり、上昇率の拡大幅は消費税率引き上げ分(1.85%(=(1.10-1.08)÷1.08))を下回った。

消費者物価
(画像=ニッセイ基礎研究所)

一方、課税品目について、品目別の価格転嫁率を確認すると、転嫁率が150%以上の品目が18%(14年4月は18%)、100~150%の品目が36%(14年4月は42%)、50~100%の品目が21%(14年4月は26%)、50%未満の品目が25%(14年4月は14%)であった。半数以上(54%)の品目で上昇率の変化幅が消費税率引き上げ分と同じかそれ以上となったが、その割合は前回の消費増税時(61%)を下回った。

消費者物価
(画像=ニッセイ基礎研究所)

既往の原油安の影響でガソリン、灯油の上昇率が税抜き価格で下がったこと、家具・家事用品(9月:前年比2.7%→10月:同4.2%)、被服及び履物(9月:前年比0.0%→10月:同1.2%)で消費税率引き上げ分の価格転嫁が行われなかったことなどから、価格転嫁率100%未満の品目が前回の消費増税時よりも増えた。

前回の消費増税時には、政府は消費税の転嫁拒否や消費税分を値引きする等の宣伝・広告を禁止することによって、円滑な価格転嫁を促進することに軸足を置いていた。今回は税率引き上げの日に一律一斉に税込み価格の引き上げが行われないようにすることで、駆け込み需要と反動減を抑制することに重点を置いた。具体的には、「消費税還元セール」など消費税と直接関連した宣伝・広告は禁止する一方で、事業者の価格設定のタイミングや値引きセールなどの宣伝・広告自体を規制するものではないことを強調するなど、企業に柔軟な価格設定を認めていた。消費税率引き上げ時に税込み価格から税抜き価格に切り替えることなどで実質的に値上げをした品目も一部で見られたが、税込み価格を据え置くことなどで実質的に値下げした品目が前回増税時よりも多かった。

非課税品目(9月:前年比0.2%→10月:同▲1.6%)、経過措置品目(9月:前年比▲0.9%→10月:同▲1.4%)、軽減税率対象品目(9月:前年比1.3%→10月:同1.4%)は、消費税率引き上げの影響を受けていない。

非課税品目の上昇率が大きく低下したのは、幼児教育無償化対象の幼稚園保育料(公立)の価格がゼロとなったことに加え、幼稚園保育料(私立)が前年比▲95.0%、保育所保育料が前年比▲58.2%の大幅下落となったためである。幼児教育無償化によるコアCPI上昇率への寄与度は当初の想定通り▲0.6%ポイントであった。一方、火災・地震保険料の値上げ(9月:前年比0.4%→10月:同8.7%)が非課税品目の上昇率を押し上げた。

経過措置品目については、原油安の影響で電気代(9月:前年比0.4%→10月:同▲1.0%)、都市ガス代(9月:前年比▲0.3%→10月:同▲1.4%)の上昇率が下がったことが下落幅拡大に寄与した。

軽減税率対象品目のほとんどが食料(酒類、外食を除く)だが、10月の上昇率は前年比1.4%となり9月の同1.3%とほとんど変わらなかった。

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(1)非課税品目は家賃、診療代、授業料、教科書、介護料等
(2)経過措置の対象となる品目は電気代、都市ガス代、通信料(固定電話、携帯電話)等
(3)軽減税率対象品目は食料(酒類、外食を除く)、新聞代

コアCPI上昇率は当面ゼロ%台半ばの推移が続く見込み

19年10月のコアCPIは消費税率引き上げ、幼児教育無償化の影響を除けば、前月から上昇率が鈍化した。11月以降は経過措置の対象となっている品目に新税率が適用されることによってコアCPI上昇率は0.2%ポイント押し上げられる。一方、消費税の影響を除いたエネルギー価格の下落率が拡大すること、消費税率引き上げ後の個人消費の低迷が物価の押し下げ要因となる。消費税率引き上げ(1.0%ポイント)と幼児教育無償化(▲0.6%ポイント)の影響を含めたコアCPI上昇率は当面ゼロ%台半ばで推移することが予想される。

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斎藤太郎(さいとう たろう)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 経済調査室長・総合政策研究部兼任

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