金融政策の概要:予想通り、政策金利を据え置き、5会合ぶりに全会一致の決定

12月米FOMC
(画像=PIXTA)

米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が12月10-11日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利を据え置いた。

今回発表された声明文では、景気の現状判断、景気見通しに関する表現変更はなかった。一方、金融政策ガイダンス部分では「経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率を支えるために現行の金融政策スタンスが適切」とし、政策金利の当面の据え置き方針を示した。

金融政策決定は、19年5月以来5会合ぶりに全会一致での決定となった。

FOMC参加者の経済見通しは、前回(9月)から失業率が小幅に上方修正(失業率は低下)されたほかは、見通しが据え置かれた。また、政策金利の見通し(中央値)は、20年が政策金利の据え置き、21年と22年はそれぞれ1回の利上げ予想となった。長期見通しは前回から変更なしであった。

金融政策の評価:継続的で大幅な物価上昇がない限り、政策金利の据え置き方針を示唆

政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。今回発表されたFOMC参加者の政策金利見通しで20年の政策金利の据え置きが示されたことも当研究所の予想通りであった。

パウエル議長の記者会見では、足元のインフレ率がFRBの物価目標を下回っているほか、20年のFOMC参加者の物価見通しが目標を下回っていることを受けて、追加緩和の必要性を問う質問が出た。これに対し、同議長は今年実施した3回の利下げの効果が出るのに時間がかかることや、足元の金融政策が幾分緩和的であることを挙げ、当面は政策金利を据え置く方針を示した。

一方、次の政策金利の引き上げの条件として継続的で大幅な物価上昇が必要との見方を示したため、当面の大幅なインフレ上昇が見込まれていない中では、政策金利の据え置きが長期化する可能性が高いとみられる。

当研究所は、金融政策は今後もトランプ大統領の通商政策に左右されると考える。米中通商交渉での部分合意や12月15日に予定されている追加関税が見送られる可能性が高まるなど、現状は通商政策に対する不透明感は払拭される方向にあり、FRBが追加緩和に追い込まれる可能性は低いと考える。当研究所は、米中貿易戦争がエスカレートしない前提で20年は政策金利が据え置かれると予想する。次の政策金利変更は、21年に入ってからの利上げだろう。

声明の概要

●金融政策の方針

  • 委員会はFF金利の目標レンジを1.5%-1.75%に据え置くことを決定した(今回追加)

●フォワードガイダンス

  • 委員会は、経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率を支えるために現行の金融政策スタンスが適切であると判断している(今回追加)。
  • 委員会はFF金利の目標レンジの適切な経路を評価しつつ、今後入手する情報が海外経済や抑制されたインフレ圧力を含む経済見通しに及ぼす影響について引き続き注視してゆく(「海外経済と抑制されたインフレ圧力を含む」”including global developments and muted inflation pressures“の表現を追加)
  • これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)

●景気判断

  • 労働市場は引き続き力強く、経済活動は緩やかなペースで拡大してきた(変更なし)
  • 最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(変更なし)
  • 家計支出は力強いペースで伸びたものの、民間設備投資と輸出は弱いままである。(変更なし)
  • 前年比でみたインフレの総合指標、および、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は低下し、2%を下回っている(変更なし)
  • 市場が織り込む物価見通しは低位に留まっており、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(変更なし)

●景気見通し

  • この行動が経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率が今後最も可能性の高い結果だという委員会の判断を支えるが、こうした見方への不透明感は続いている(今回削除)

会見の主なポイント(要旨)

記者会見の主な内容は以下の通り。

●パウエル議長の冒頭発言

  • 過去3回の会合で0.75%政策金利を引き下げた後、我々は本日、政策金利の据え置きを決定した。
  • 世界動向や継続的なリスクにもかかわらず、我々の経済見通しは良好である。
  • 家計部門は堅調なほか、緩和的な金融政策と金融市場もあって、景気は緩やかに拡大している。
  • 低位安定しているインフレは間違いなく良いことだが、持続的に物価目標を下回り続ける場合には、長期的な期待インフレ率が低下し、実際のインフレ率をさらに低下させるという不健全な力学につながりかねない。
  • 同様に金利も低下し、実効的な下限金利近づく。その結果、将来の景気後退時に経済を支えるための金利低下余地が縮小し、米国の家計や企業の経済的成果は悪化することになる。
  • 我々は現在の金融政策スタンスが、経済活動の持続的拡大、力強い労働市場、委員会の2%で対称的な目標に近いインフレ率を支えると考える。今後の経済動向がこの見通しと概ね整合的である限り、現在の金融政策スタンスは適切であると考えられる。
  • 12月に発表した計画に沿って、財務省短期証券を購入しているほか、買いオペを実施している。これらの技術的なオペレーションは潤沢な準備水準を維持し、金融政策の実施に影響を与える可能性のある金融市場からの圧力に対処することを目的としている。

●主な質疑応答

  • (3年間失業率が長期均衡水準を下回っている一方、インフレが加速しないのはどうしてか)Fedがインフレをコントロールするに従って、失業率とインフレの関係は非常に弱くなった、しかし、依然として関係性はある。このため、我々はインフレ率を引き上げるために、金融政策を幾分緩和的に保つ必要があると考えている。
  • (声明文から「経済をとりまく不透明感」との文言が削除されたが、どうして削除したのか)声明文に、注視していく項目として「海外経済や抑制されたインフレ圧力」との文言を追加したためだ。
  • (ドット・プロットは対話手段として有効と考えているのか、中止したり、変更しようとしているのか)正しく理解される場合には便利だが、それは難しい問題だった。正しく理解されるとは、ドット・プロットが委員個人の考えを示しているに過ぎず、我々が会合でこれを議論することはないし、それに関するどのような合意もないことだ。
  • (米中部分合意やUSMCA批准の可能性について)特定の貿易政策についてコメントしたり、批判したり、評価することはしない。これは我々の役割ではない。しかし、貿易政策の不確実性の一部が取り除かれるならば、それは経済にとってプラスである。

FOMC参加者の見通し

FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。前回(9月)見通しとの比較では、失業率が19年から22年にかけて上方修正(失業率は低下)されたほか、長期見通しについても上方修正された。また、インフレは前回同様、20年もFRBの物価目標である2.0%を下回る予想となっており、当面インフレ上昇圧力が限定的と予想されていることが分かる。

12月米FOMC
(画像=ニッセイ基礎研究所)

政策金利の見通し(中央値)は、前述の通り、19年、20年末が1.625%(前回:1.875%)と前回から▲0.25%ポイント下方修正されて、FF金利が現在の水準から据え置かれるとの見通しが示された(図表2)。

12月米FOMC
(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、20年のドット・チャートは、前回予想では予測者17名のうち、中央値予想が2名、現状からの利上げ予想7名、同利下げ予想8名と利上げ、利下げで見方が大幅に分れていたが、今回予想では0.25%ポイントの利上げが4名に対して政策金利の据え置きが13名とかなり見通しが収斂された。

一方、21年末が1.875%(前回:2.125%)、22年末が2.125%(前回:2.375%)と前回からこちらも▲0.25%ポイント下方修正されたほか、21年、22年ともに年1回の利上げ予想となった。長期見通しの2.5%は前回から変更がなかった。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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