中露,ベラルーシ
(画像=motioncenter/Shutterstock.com)

歴史を振り返ると、これまで友好関係を築いてきた二国が急遽その関係を一転させるということがままある。直近で言うならば米国とブラジルの関係がある。過去には綿花の輸出入を巡り世界貿易機関(WTO)で対立を“演出”したこともあり農畜産業ではとかく利害が衝突しがちな両国であるが、現在のボルソナロ・ブラジル大統領とはトランプ米大統領は蜜月を“演出”してきた。それがトランプ政権は去る2日(米東部時間)に突如として鉄鋼とアルミニウムに対して制裁関税を課した。

(図表1 去る3月の共同会見でのトランプ米大統領(左)とボルソナロ大統領(右))

去る3月の共同会見でのトランプ米大統領(左)とボルソナロ大統領(右)
(出典:PBS New Hour)

米国とブラジルはともに大豆や綿花の輸出においてグローバル・マーケットにおけるシェアが大きいのであり、両国が対立を深めれば深める程、そうした商品(コモディティー)マーケットに影響を与えるのは言うまでもない。

これと同様に、ある意味ではこうした例よりもグローバルに大きな変化をもたらした事例が在る。それがロシアと中国の関係である。BRICSや上海協力機構などでは両国が参加し協同してグローバル・ガバナンスに関わっている。今では米国に対して中露というのはひとまとめにして考えられていることもあるのであり、実際対米という意味では利害が一致するということは言うまでもない。しかし古典的な地政学での有名な命題が示すとおり、隣接する大国は永遠に敵対し続けるのである。

第二次世界大戦以後、中国共産党はスターリン率いるソ連からの支援を受けて国共内戦を乗り越えてきた。ソ連と中国は必ずしも関係が良かったわけではない。たとえば朝鮮戦争においてスターリンが毛沢東を一種利用していたとする研究もある。無論、毛沢東もそうした事情を理解していたのであり、表では手を握っているものその裏では互いに蹴りあうような関係だったのである。

(図表2 毛沢東とスターリン)

毛沢東とスターリン
(出典:Wilson Center)

それが表面化したのが1950年代後半だった。それまで中ソを礼賛していた我が国の左翼陣営もこれで大きく分裂することとなったし、世界的にも大きな影響を及ぼしたのだった。そうした中で大きく翻弄されるのが両国の隣国である。この意味で注目すべきなのがベラルーシである。白ロシアとも呼ばれ、ロシア人から「ほとんど我々」と呼ばれるベラルーシであるが、ここにきて奇妙な動きを見せている。

ベラルーシはロシアとの間で1999年にベラルーシ・ロシア連合国家創設条約を締結し、連合をつくることに合意してきた。これまではむしろロシアの方が及び腰であった。それが去る8日(モスクワ時間)のソチにおけるサミットでは同年に条約締結に関わったルカシェンコ大統領自身が逆に創設の推進を否定した。それに対してベラルーシは中国の国営電力事業者である中国電力建設がアストラヴェツ原子力発電所で発電した電力の送電事業に参画することを許可したのだった。その上、同事業に対して中国輸出入銀行からの融資も受けることになっているのだ。このようにベラルーシが中露の間でにわかに動いているのであり、そこに両国関係の揺れ動きが生じている可能性を憂慮すべきなのだ。

問題はそれだけではない。この3国が大きく影響力を持つマーケットがある。それがカリウムである。カリウムは肥料として最も重要な成分の1つであり、また鉱山や潜水艦、宇宙船において酸素供給システムで利用されるものであり、資源的価値は大きい。他方でカリウムはグローバルに偏在していることが知られており、その生産割合は2013年ベースでは最も多いのがカナダの27パーセントであるが、次いでロシアの17パーセント、ベラルーシが15パーセント、そして中国が13パーセントを占めているのだ。

(図表3 国別カリウム生産量の推移)

そうした三国が微妙な関係を“演出”しているというのはカリウム・マーケットに大きな関係をもたらす可能性があるのである。実際、ロシアとベラルーシのカリウム企業は分離を“演出”してきたのだった。グローバルでの変動が一資源に、そして我が国の企業にも影響し得るのである。そうした関係性にも注意していくべきだ。

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA)
元キャリア外交官である原田武夫が2007年に設立登記(本社:東京・丸の内)。グローバル・マクロ(国際的な資金循環)と地政学リスクの分析をベースとした予測分析シナリオを定量分析と定性分析による独自の手法で作成・公表している。それに基づく調査分析レポートはトムソン・ロイターで配信され、国内外の有力機関投資家等から定評を得ている。「パックス・ジャポニカ」の実現を掲げた独立系シンクタンクとしての活動の他、国内外有力企業に対する経営コンサルティングや社会貢献活動にも積極的に取り組んでいる。

大和田克 (おおわだ・すぐる)
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー。2014年早稲田大学基幹理工学研究科数学応用数理専攻修士課程修了。同年4月に2017年3月まで株式会社みずほフィナンシャルグループにて勤務。同期間中、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーに出向。2017年より現職。