今、不動産投資をスタートするなら何を基準に行動すべきなのか、不動産投資のプロに伺う本特集。第3回は不動産投資を成功させるための具体的な方策を探る。
ファイナンシャルアドバイザーであり、30歳にして6棟・70室を所有する投資家でもある八木エミリーさんは銀行融資を引き出すために、秘策ともいえるユニークな方法を試したという。一方、富裕層を対象とした資産配分・運用設計の最適化などに詳しい世古口俊介さんのような人にアドバイスを求めるという方法もある。自分自身で道を切り拓くか、専門家にプランニングを依頼するか……いずれの場合も、押さえておくべき共通したポイントがあるようだ。(聞き手・大岡雅弘 / 写真・森口新太郎)
1982年10月生まれ。大学卒業後、2005年4月に日興コーディアル証券(現・SMBC日興証券)に新卒で入社し、プライベート・バンキング本部にて富裕層向けの証券営業に従事。その後、三菱UFJメリルリンチPB証券(現・三菱UFJモルガンスタンレーPB証券)を経て2009年8月、クレディ・スイス銀行(クレディ・スイス証券)プライベート・バンキング本部の立ち上げに参画。同社同部門のプライベートバンカーとして、最年少でヴァイス・プレジデントに昇格、2016年5月に退職。2016年10月に株式会社ウェルス・パートナーを設立し、代表に就任。保有資産数百億円以上の富裕層、未上場・上場企業の創業家の資産保全・管理、相続・事業承継対策、資本政策・M&Aなどの企業価値向上対策、ファミリーオフィスサービス提供に従事。
1989年生まれ、愛知県西尾市出身。東京都在住。野村證券株式会社入社後、史上最年少で社外向けセミナー講師に抜擢。顧客向けセミナーを定期的に行う。2014年より個人で不動産投資の勉強を始め、翌年に初めて不動産購入。現在、6棟・70室を所有。投資総額6億強。家賃収入5000万強。「日本には金融を学ぶ場がなく、何も知らないまま大人になってしまう。日本のファイナンシャルリテラシーを高めたい!」という思いから、2018年1月より株や不動産を含む、お金や投資全般が学べるオンラインサロン「em会」を立ち上げ、主に20~30代の若者を対象としたセミナーを開催。絶大な支持を得ている。
銀行融資を引き出すために書いた「手紙」
――不動産投資のために銀行からの融資を受ける場合、資産が多く年収も高ければ銀行側の対応も違ってくると考えられます。しかし、そうでなければハードルは高くなってしまいますよね。八木さんが初めて融資を受けたときは、どのようなアプローチをしたのでしょうか?
八木: 私が不動産投資を始めようとしていた2015年は今より融資が受けやすい状況でした。ただ、それでも最初はとても苦労しましたよ。女性であることもハンデだったと思います。銀行一行を開拓するのに、50行くらい足を運びました。
世古口: 飛び込みで銀行を回られたんですか?
八木: はい。金融の営業と同じで、ローラー作戦です(笑)。銀行の支店名を全部リストに書き出して、一行一行電話してアポを取りました。でも、そもそもアポも取れないんですよ。
初めて融資が下りたところも、何とか営業担当の方に会っていただいたのですが、最初は「融資しない」と言われていたんです。でも絶対に諦めたくなかったので、手紙を書いて持って行きました。
世古口: どんな手紙を?
八木: 融資が承認されるかどうかを決めるときには支店内で稟議書を回しますよね。その稟議書って、要は作文なんです。だから営業担当者の作文能力で是非を左右されてしまうところがあると思ったんです。
世古口: 確かにそうかもしれません(笑)。
八木: それは困るなと思って、A4の便箋5枚くらいの手紙を書きました。なぜ私が不動産投資をしようと考えているのか、そのためにどんな準備をしているか、自分のストーリーや将来のビジョンを書いて担当の方にプレゼンテーションもして、「これを稟議書にまとめてください」と渡したんです。
その結果、「1.9%の金利ならいいよ」という回答をいただきました。それでも十分だったのですが、その後、融資担当の方や支店長の方と面談することになって。改めて30分くらいのプレゼンテーションをしたんです。そこでは自分の生い立ちから投資の目的、今後のプランまで話しました。そのおかげか、0.55%まで下げていただけたんですよ。
世古口: それはすごい。最初の融資で0.55%はかなり良い条件です。
信頼できるアドバイザーが見つかれば近道になる
世古口: 不動産投資に関する知識はどうやって身につけていったんですか?
八木: 不動産投資を始めようと思い立ってから1年くらいかけて勉強しました。その間に本を100冊は読みましたし、土日を全部使って不動産投資関連のセミナーにも通いまくりました。
世古口: 普通はなかなかそこまでできませんよね。実際には本業が忙しくて、勉強のためだけに時間を割くのは難しいという人が多いんじゃないでしょうか。
八木: 私もそう思います。その場合は信頼できるアドバイザーを見つけて相談したほうが早いでしょうね。私も今、25歳のときに戻ったとしたら、もっと効率的なやり方を選ぶかもしれません。例えば投資家として成功している先輩など「あの人みたいになりたい」と思うような人に相談したら、実践的で有用なアドバイスをもらえる気がします。
――誰に相談すれば良いのかわからないという人も多いのではないでしょうか。身近に投資家やアドバイザーがいれば別ですが、いない場合は税理士に相談するべきなのか、それとも不動産会社にアドバイスを受けるべきなのか……。
世古口: 税理士でも良いのですが、税理士の方は税金の圧縮には詳しくても、不動産投資にはそれほど詳しくないケースが多いでしょうね。物件の良し悪しを聞いても、よほど不動産に詳しい税理士さんじゃないとわからないと思います。不動産会社も、不動産のことしか教えてくれないというケースが大半でしょう。
――世古口さんは以前、証券会社で富裕層を対象とした資産管理や相続対策を行う、プライベート・バンクというサービスに携わっていらっしゃいました。
世古口: そうです。その頃はプライベート・バンクと言いながら、やはり銀行や証券の提案をメインにしていました。けれどお客様によっては、不動産投資のほうがマッチするというケースも多々あります。自分が特定の資産クラスを扱っているがゆえにアドバイスできる内容に制限があることに、悔しい思いも抱いていました。
資産をお持ちの方にとって本当に大事なのは、その資産配分と資産運用設計の最適化です。資産配分というのは、株、債券、ヘッジファンド、国内不動産、海外不動産、借入をそれぞれ何割にするかという、いわゆるアセットアロケーションですね。
しかし、これをしっかりと提案している会社は少ないというのが僕の実感でした。あらゆる会社が特定の資産クラスに特化しているがゆえに、お客様の資産ポートフォリオが歪んでしまっているという問題意識が念頭にあったからこそ、完全にフラットな立ち位置からご提案ができる会社を作りたいと思い2016年に独立したんです。
八木: 世古口さんのような方に相談すればかなり近道ができますよね。私も今は教える立場にもなりたいと思ってセミナーなどの講師をやり始めました。私自身も最初から的確なアドバイスを受けていれば、勉強に費やした1年をかなり短縮できていたはずだと思います。
プロは資産に関する分析と、目的・目標の共有から始める
――お二人のようなプロに相談すると、どのようなアドバイスを受けられるのかも知りたいところです。たとえば世古口さんが富裕層の方に資産運用について相談されたときにはどんな手順で、何から決めていくのでしょうか?
世古口: まずその方の資産背景をお聞きします。そして年収、年齢、家族構成、目標リターン、どこまでリスクを取れるかというリスク許容度、それから家族がいる場合は誰に何を相続していくかといった資産承継に関するお考えです。それから10年後、20年後にどうなっていたいかという目標を明確にし共有した上で、最適な資産配分と資産運用設計を分析し、ご提案することになります。
分析と提案にかかる時間はその方の資産状況によって変わります。たとえば会社を売却してキャッシュが5億円ある、という方はわかりやすいですね。キャッシュだけならプランも立てやすいからです。けれど不動産をたくさんお持ちで、さらに海外にもあるとか、母親が田舎に土地を持っているとか、仮想通貨も所有しているとか……こういうことになると複雑です。資産分析も行うので、提案までに1ヵ月から2ヵ月かかることもあります。
全体の資産配分を決めたら、具体的にどんな資産を購入するか決めていきます。不動産への投資は1億円にして、区分を3000万円、3000万円、4000万円購入しましょう、といった具合ですね。
――やはりそういう青写真を作ってくれる人がいると心強いですね。八木さんの場合は収益物件を購入して家賃収入を得るのがメインとなると思うのですが、その場合の手順のポイントはどこにあるのでしょうか?
八木: 世古口さんもおっしゃっていましたが、自身の現状を分析した上で、将来の目的や目標を決めることだと思います。その点は変わらないですね。ゴールが決まると、そのためにどんな投資が必要か、どんな物件が適しているのかということに一つひとつ落とし込んでいけるはずです。私自身そうやって資産を増やしていきましたし、目的や目標を決めることは本当にマストですね。ゴールが違えば手段も違うということです。
(#4へ続く)