シンカー:物価下落要因は、エネルギーや通信、消費税率引き上げ分を値下げでオフセットする動きなどのテクニカルなものが多く、上昇要因が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。これまで賃金抑制要因であった就業率の急激な上昇ペースは既に鈍り始めている。2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、就業率の上昇ペースの鈍化が人手不足感を更に強くし、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、堅調な消費需要を背景に、期待インフレ率の上昇とともないながら、1%を上回る水準に上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。マーケットは物価上昇が弱いという先入観があるが、2020年は想定以上の物価上昇ペースに注意が必要になるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

11月のコア消費者物価指数(除く生鮮食品)は前年同月比+0.5%と、10月の+0.4%から上昇幅が拡大した。

10月には消費税率が8%から10%へ引き上げられ、11月に遅れて影響が出る公共料金などが押し上げとなった。

消費税率引き上げに合わせたセールが終わり、堅調な内需とコストの上昇などを背景として、価格を持続的に引き下げる動きは抑制されているとみられる。

コアコア消費者物価指数(除く生鮮食品・エネルギー)も同+0.8%と、11月の同+0.7%から上昇幅が拡大した。

コアに対してコアコアの上昇幅が大きいのは、エネルギー価格の下押しがあったからだ。

しかし、原油価格は持ち直しており、エネルギー価格の前年同月比(11月同?2.1%)は10月(同?2.7%)に既に底を打ったとみられる。

コストの上昇などを反映して、菓子、外食、衣料、教養娯楽品などに価格引き上げの動きがみられる。

これまで賃金上昇があまり強くならなかったのは、女性や高齢者の就業率が急上昇し、労働供給が強かったからであるとみられる。

2018年12月に就業率の前年同期差は+1.9%とかなり高水準になっていた。

しかし、それ以降安定化し、2019年10月には+1.3%まで安定化してきている。

今後も前年同月比はプラスであるが縮小していくとみられ、企業の人手不足感と採用難に対する警戒感を更に強くするだろう。

失業率と就業率前年差によるコアコア消費者物価指数の推計では、失業率が2%程度(現在2.4%程度)で、就業率前年差1%程度(現在1.3%程度)で、上昇率は2%程度に達する可能性が示されている。

コアCPI(除く生鮮食品、エネルギー、前年比%、12MMA) = 6.27 ? 2.37 失業率(12MMA) + 0.20 失業率(12MMA )^2?0.29 (就業率の前年差、12MMA)^3; R2=0.91

物価下落要因は、エネルギーや通信(11月の交通・通信は前年同月比?0.5%) 、消費税率引き上げ分を値下げでオフセットする動きなどのテクニカルなものが多く、上昇要因が需要超過とコスト増の基調の動きのものが多くなってきている。

テクニカルな要因で物価上昇圧力は見えにくくなっているが、徐々に強さを増しているのは事実だろう。

2019年の物価上昇率がテクニカルな理由で弱ければ弱いほど、2020年は逆に強くなり、就業率の上昇ペースの鈍化が人手不足感を更に強くし、価格弾力性を考慮した企業の価格戦略も広がることもあり、堅調な消費需要を背景に、期待インフレ率の上昇とともないながら、1%を上回る水準に上昇率が加速していく可能性は十分にあると考える。

マーケットは物価上昇が弱いという先入観があるが、2020年は想定以上の物価上昇ペースに注意が必要になるだろう。

図)就業率

就業率
(画像=総務省、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司