岸田康雄
岸田 康雄(きしだ・やすお)
国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定アナリスト)、一級ファイナンシャル・プランニング技能士、公認会計士、税理士、中小企業診断士。監査法人にて会計監査及び財務デュー・ディリジェンス業務に従事。その後、金融機関に在籍し、中小企業オーナーの相続対策から上場企業のM&Aまで、100件を超える事業承継と財産承継の実務に従事した。平成29年経済産業省中小企業庁「事業承継ガイドライン改訂小委員会」委員、日本公認会計士協会中小企業施策調査会「事業承継専門部会」委員、東京都中小企業診断士協会「事業承継支援研究会」代表幹事。

IPOとは、証券取引所において、設立してから初めて株式の売出しを行うことをいう。上場(IPO)を準備するためには、主幹事証券会社からの指導、公認会計士・監査法人による会計監査が必要となる。また、資本政策を慎重に検討しなければならない。ここでは、IPO準備のために何が必要となるか説明したい。

IPOとは?設立してから初めて株式を売出すこと

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(写真=zaozaa19/Shutterstock.com)

IPOとは、Initial Public Offering(イニシャル・パブリック・オファリング)のことであり、証券取引所の上場の際、設立してから初めて株式の売出しを行うことをいう。上場すれば、株式の売出しと同時に募集(新株発行)が行われることが一般的である。「上場」するほとんどの株式がIPOである。

IPOによる上場は、これまで非上場であった会社が、株式を初めて証券取引所で取引を開始させることだと言ってもよい。MBOなどで非上場化した会社が再上場する場合、それはIPOとは呼ばない。いったん非上場化した企業が再上場する事例は極めて少ないため、一般的にIPOのことが「上場」と呼ばれているようだ。

IPO に至るまでの準備プロセスとスケジュール

株式の上場(IPO)の方向性で、創業者の意向が固まったならば、監査法人による「ショート・レビュー」を受けることになる。これは、予備調査または短期調査と呼ばれるものであり、監査法人が、対象企業の現状を把握し、株式上場(IPO)を達成するために解決すべき課題を検出するとともに、対象企業にとって最適なスケジュールを決める作業のことをいう。最終的に、ショート・レビューの報告書が書面で報告されるため、対象企業のオーナーは、その内容を検討したうえで、株式を上場(IPO)すべきかどうか判断することとなる。

上場(IPO)するための準備作業は、主幹事証券会社、監査法人その他必要となる外部業者(有価証券届出書の印刷会社、株式事務委託をする証券代行会社、リーガルチェックする弁護士など)の選定から始まる。それら関与する専門家が決まれば、上場企業としてふさわしい社内管理体制や開示体制を整備する。

それと並行して、ベンチャーキャピタルなども交えて、最適な株主構成や資本政策を検討する。

最後に、上場(IPO)の申請書類を公認会計士に作成してもらい、証券取引所における審査を受ける。上場(IPO)が決まれば、IR(投資家向け広報)活動を開始し、一般投資家を募ることになる。

これらの準備作業は範囲が広く、オーナーや対象企業と専門家との緊密な連携が必要となるため、担当者の間の調整が多くなり、相当の時間が必要となる。したがって、スムーズに株式の上場(IPO)準備を行うためには、上場(IPO)をアドバイスした経験豊富な専門家が主導するプロジェクト・チームを強固に編成したほうがよい。

社会的存在になる意識改革

株式の上場(IPO)によって、対象企業のオーナーはキャピタルゲインなどの利益を得ることになるが、同時に、オーナーは上場企業の経営者としての責任を負担することになる。また、対象企業そのものは、社会的責任を負担することになる。

株式の上場(IPO)になる前に、オーナーおよび対象企業のメンバーは、対象企業が社会的存在(パブリックカンパニー)になり、その責任を果たさなければいけないことを認識しなければいけない。これまでのような、同族会社でなく、社会的な公器としての会社に変身するのである。このような意識改革を行うことが不可欠であろう。

その責任を果たすためには、コーポレート・ガバナンスの仕組みを構築することは不可欠である。組織体制を強固なものとするため、上場企業にふさわしい内部統制組織と、企業情報の適時開示体制を確立することが必要となる。

これらの組織体制の整備は、専門人材の確保など管理コストの増大を招くことになる。

このような内部統制組織の強化を、単にコスト増加要因として捉えるのではなく、企業経営のレベルアップ、組織を強固なものにする絶好のチャンスであると捉えるべきであろう。

プロジェクト・チームの編成

上場(IPO)準備を進めるためのプロジェクト・チームは、その対象企業の状況によって異なるが、一般的には、証券取引所への上場申請の直前期末から2年以上前には編成させるケースが多い。

上場申請の直前期には、内部統制組織が有効に整備および運用されていることが必要である。内部統制組織の整備は、直前期の期首の時点には完成させておき、直前期の事業年度1年間に有効に運用された実績をもって、上場審査の対象となる。

内部統制に問題の多い会社は、内部統制組織の整備の準備期間に長めに確保するためにも、株式上場(IPO)することが決まったら、可能なかぎり早い時期にプロジェクト・チームを編成し、その整備に着手すべきであろう。

プロジェクト・チームは、オーナー社長または中心的役割を果たす取締役が最高責任者となり、チームを編成する。リーダーは、主幹事証券会社や監査法人との対応窓口となり、チームの各メンバーを指揮命令し、上場準備の進捗管理を行う責任者となる。会社の事業内容を熟知していることはもちろん、経理に精通した優秀な人材を選任しなければいけない。通常は、経営企画部長や経理部長が兼任することが多いようであるが、外部から公認会計士を雇入れ、上場(IPO)準備の専任担当者として配置するケースもある。

上場(IPO)準備のプロジェクト・チームのメンバーは、上場申請書類の作成など実務作業を担当するため、パソコン操作など事務処理能力の高い人材を選任することが必要となる。

主幹事証券の選定

株式の上場(IPO)において、最も重要な役割を果たすのが、主幹事証券会社である。証券会社の中でも株式の引受けを担当する投資銀行部門がそれを担当する。

主幹事証券会社の役割は、上場の準備の開始するときから、上場に成功した後まで、対象企業の資金調達に係るアドバイスを行うことである。また、証券取引所の審査に通るように客観的・中立的な立場から、対象企業の新株発行を指導することもある。

上場(IPO)の準備に着手すると、主幹事証券会社の営業担当者から、上場までのスケジュール感、中期経営計画・事業計画の立案、資本政策の策定、内部統制組織の整備に係る指導を受けることになる。その中でも、事業計画は、将来収益力を評価する材料となるものであり、上場時(IPO)の公募価格の決定に影響するため、公認会計士等の専門家も交えて、上場(IPO)の決定する前から指導を受けておく必要がある。

内部統制組織が整備され、上場(IPO)の申請書類が完成する時期になると、主幹事証券会社の公開引受部門から、証券取引所による審査に通るための方法について指導を受けることになる。

これら主幹事証券会社による指導に関して、対象企業はコンサルティング契約を締結し、約2年間を費やして、上場(IPO)の準備を進めることになる。

公開引受部門の指導が完了すると、証券取引所の上場審査を受ける直前に、主幹事証券会社の審査部門が最終的なチェックを行う。

上場(IPO)に成功するために主幹事証券会社が果たす役割は大きく、主幹事証券会社のアドバイス無しで上場することは不可能であろう。上場後に株式をどれだけ販売することができるか、主幹事証券会社のリテール営業力とともに、上場準備をアドバイスする経験と実績を考慮して、主幹事証券会社を選択すべきであろう。

上場(IPO)準備のための監査法人による指導

株式を上場(IPO)させるためには、証券取引所の規則に従って、上場申請書類に含まれる財務諸表等について、金融商品取引法に準ずる公認会計士監査を受けなければならない。それゆえ、監査対象となる期間、すなわち、上場申請直前期以前の2年間よりも前に、監査法人と監査契約を締結する必要がある。

株式を上場(IPO)させようと考えたならば、早い段階から監査法人の公認会計士に相談すべきである。株式上場(IPO)させた実績とアドバイス経験が豊富な監査法人を選択すべきであろう。

監査法人による様々な指導と助言

監査法人の役割は、会計監査を実施することである。監査対象となる財務諸表等の作成において、最新の企業会計基準の適用と、適正な会計報告が求められるが、対象企業がそのように適正な財務諸表等を作成することができる人員と組織を設置することについて指導・助言を実施することも監査法人の役割となる。加えて、内部統制報告制度(J-SOX)に係る内部統制組織の整備が必要になるため、内部統制組織の整備はもちろん、その適切な運用方法について指導・助言を実施することも監査法人の役割となる。

上場審査基準としての監査法人の会計監査とは?

株式上場に際して、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に準ずる公認会計士監査が必要とされている。

この監査の対象となる財務諸表等は、投資家の投資意思決定に有用な情報を提供することが目的である。財務諸表等は、企業会計基準、連結財務諸表規則及び財務諸表等規則に準拠して作成および報告する必要がある。未上場企業であれば、大会社であっても、会社法の規則に準拠して計算書類等を作成および報告しているかもしれないが、上場した後は、金融商品取引法にも準拠しなければいけない。

IPO準備のための資本政策 資本政策とは何か?

資本政策とは、会社のとって必要な資金調達を実現するための方法をいう。株式上場(IPO)を目指す会社の資本政策は、上場後の株式の流動性を考えながら、低コストの資金調達と、最適な株主構成を実現するために、適正な株式発行価額や株式数を決定する。

資本政策を決めるには、上場時の望ましい株主構成にするための募集株式(発行株式)の割当や、株式移動の方法、その実施時期を検討する。

資本政策の立案のために検討すべき事項は、以下のように、事業計画と安定株主対策である。

第一に、事業計画と必要資金である。事業計画を実現するために、どれだけの資金が必要となるかを考え、会社の運転資金や設備投資資金などを調達する方法を検討する。また、創業者である大株主の相続対策、福利厚生に役に立つ役員・従業員の持株会を決定する。

第二に、 安定株主対策を検討する。資本政策は、外部株主からの資金調達を行うことであるから、既存株主の議決権割合にどのような影響を与えるかを検討しなければならない。オーナーの議決権割合が低下することになっても、その支配権を維持するための安定株主比率を、いかに維持していくかがポイントとなる。

資本政策を立案する時点における株主は、以下の人たちであろう。

  • オーナー(創業家)およびその親族
  • 役員
  • 従業員および従業員持株会
  • 金融機関
  • 取引先
  • ベンチャーキャピタル

オーナーとその親族に加えて役員・従業員を含めた株主の議決権割合が過半数であることが、支配権を維持するために必要となる。

株式発行による資本政策を実施するには?

資本政策の方法として中心となるものは、株式の譲渡、株主割当増資、第三者割当増資である。

まず、株式の譲渡は、オーナーの親族間など、個人間で株式を移転するときに用いる方法である。親族間であれば、株式は無償で譲渡することもあるだろう(贈与)。

ただし、特別利害関係者が、上場の直前事業年度末の2年前の日から上場日の前日までの期間において、株式の移動を行っている場合には、移動の状況を有価証券届出書に開示しなければならない。

次に、株主割当増資とは、既存株主に対して、その持株比率に応じて新株を割当てる方法である。結果として、既存株主の議決権割合は変化させずに、資本金と発行済株式数を増加させることができる。ベンチャーキャピタルからの資金調達の手段として用いられることが多い。

そして、第三者割当増資とは、既存株主、外部株主を問わず特定の者(50名未満)に対して、募集株式の割当てを行う方法である。特に有利な払込金額で発行する場合には、株主総会の特別決議が必要となる。

なお、オーナーの支配権維持の手段、相続税対策や事業承継対策の手段として、オーナーの資産管理会社を設立することがある。この資産管理会社は、オーナー個人の株式や個人財産を所有するために設立される法人である。

資産管理会社は、オーナー個人および親族の議決権を集約化すること、親族の株式が外部へ流出することを防ぐこと、加えて、相続税法の財産評価を引き下げることに、その役割がある。

ただし、金融商品取引法の開示制度により、原則として親会社等の会社情報を開示することが義務付けられているため、資産管理会社の財務諸表等を開示させられることもある。

新株引受権による資本政策を実施するには?

資本政策の基本は新株発行であるが、これ以外にも、新株予約権を使った資金調達の方法もある。

新株予約権とは、一定期間内において、予め決められた発行価額で、その会社の株式の交付を受けることができる権利をいう。資本政策の立案において、新株予約権は、特定の者に付与して、その持株割合を高める方法として用いられることがある。また、会社の役員や従業員に対するインセンティブとして付与されることもある。これをストックオプション制度という。

新株予約権付社債とは、新株予約権が付された社債である。資本政策の立案において、会社にとっては、社債による資金調達ができることに加えて、新株予約権が行使されるまで発行済株式総数が増加しないため、オーナーの支配権に対する影響を与えずに済ませることができる。また、社債を引受けた者にとっては、社債の利息を受け取るだけでなく、新株引受権を行使する際に、市場株価が発行価額よりも高くなっていれば、売却益を獲得することができる。

資本政策において株式の流動性を調整するには?

資本政策を立案するプロセスにおいて、株式の流動性を調整したいと思うときがある。すなわち、発行済み株式数が多すぎるときは株数を減らし、少なすぎるときは株数を増やしたいと考えることだ。その際、株式分割や株式併合が検討されることになる。

株式分割とは、既存の株式を細分化して、株式数を増加させることである。既存株主に対して無償で新株の割当て行う。それゆえ、株式分割を実施した後も、個々の株主の持株比率、純資産額ともに変動させずに、発行済株式総数と個々の株主の持株数を増やすことができる。つまり、株式の流動性を高めることが可能となるのだ。

株式分割は、上場後の株価が高すぎると想定される際、上場前の発行済株式総数を増やし、株価を下げる手段として活用されるものである。

これに対して、株式併合とは、複数の株式を合体させて、発行済株式数を減少させることである。株式分割と真逆の効果が生じる調整方法である。

株式併合には既存株主の資金負担がなく、株式併合した後も、個々の株主の持株比率、純資産額ともに変動させず、個々の株主の持株数を減らすことができる。資本政策上、株式の流動性・適正な株価水準確保のために実施されることがあります。つまり、あまりにも安くなった株価を高めることが可能となるのだ。

ただし、株式併合によって1株未満の端数が生ずるときは、その生じた端数を現金で精算しなければならない。また、単元未満の株式には議決権がなくなってしまう。このように既存株主の利益に影響を与えるため、株式併合を行うには、株主総会の特別決議が必要となる。

文・岸田康雄(税理士)

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