設備投資の増加が続いている。11月14日に公表された7-9月期のGDP(1次速報)では、実質設備投資が前期比+0.9%と2四半期連続で増加、前年比でも+4.2%と高い伸びとなった。また、法人企業統計の結果等が反映されるGDP2次速報(12月9日公表)では設備投資のさらなる上方修正が見込まれており、事前の市場予想は前期比+1.8%となっている。根強い合理化・省力化投資需要に支えられて設備投資は増加傾向が持続しているとの評価でよいと思われる。

もっとも、足元の増加については、(1)消費税率引き上げ前の駆け込み需要、(2)軽減税率・キャッシュレス決済対応需要、(3)OSのサポート終了前のPC買い替え需要、といった要因によって一時的に押し上げられている可能性がある。仮にそうであれば、10-12月期以降には反動が生じる可能性があるだろう。設備投資が増加傾向にあること自体は否定しないが、足元の増加ペースについてはある程度割り引いてみる必要があると思われる。以下、これらの要因について解説する。

口論
(画像=PIXTA)

(1)消費税率引き上げ前の駆け込み需要

通常、消費税率の引き上げは、企業が設備投資を行うタイミングに影響しない。企業は、売り上げにかかる消費税(消費者などから受け取った消費税)から、仕入れや経費にかかった消費税を差し引いた差額を国や地方公共団体に納付する。この経費には設備投資も含まれるため、設備投資を行う際にかかった消費税は控除の対象となる。つまり、設備投資には実質的に消費税はかからないことになり、消費税率の水準が設備投資のコストに与える影響もニュートラルとなる。そのため、消費税率が引き上げられる場合でも、駆け込み需要は生じないはずである。

もっとも、簡易課税制度を選択する事業者や免税事業者については話が異なる。前述のとおり、消費税の納付税額は通常、「課税売上げに係る消費税額-課税仕入れ等に係る消費税額」として計算される。しかし、課税売上高が5000万円以下で、簡易課税制度の適用を受ける旨の届出書を事前に提出している事業者は、納税の際に控除する消費税額を、実際の仕入れや設備投資等から計算するのではなく、業種ごとに予め定められた「みなし仕入れ率」を売上高に乗じることで計算することが可能になる。これにより納税に関する事務負担が軽減できるという仕組みだ。

簡易課税制度を利用する事業者の場合、消費税率の引き上げが企業の損益に影響する。簡易課税制度を利用する場合、控除される消費税額は、実際に投資を行った額とは無関係に決まる(課税売上高に応じてみなし仕入れ額が決定)。そのため、消費税率が引き上げられて設備投資を行う際に支払う消費税額が増加すれば、その分が企業の負担増に直結することになる。結果的に、消費税率が引き上げられる前に設備投資を行うことが有利になるわけだ。

課税売上高が1000万円以下で、消費税の納税が免除されている免税事業者についても駆け込みで設備投資を行うことが有利になりうる。免税事業者は消費税の納税義務がないかわり、設備投資を行ったとしても還付を受けることができない。こちらも消費税率が上がればその分設備投資のコストが増えることになるため、駆け込みのインセンティブが生じる。

(2)軽減税率・キャッシュレス決済対応需要

今回の消費税率引き上げに際しては、軽減税率も同時に導入された。10%と8%という複数の税率に対応するための設備投資が必要になった企業も多くあったと思われる。たとえば、飲食料品の小売店等、軽減税率対象商品を取り扱う事業者が日々の売上をレジで記録している場合、複数税率対応レジへの買い替えや改修が必要となる場合がある。また、軽減税率対象品目の売上がない事業者であったとしても、対象品目の仕入れがある場合には標準税率と軽減税率とを区分して経理を行う必要があるため、経理システムの変更や改修が必要になる場合がある。そのほか、請求書管理システムや受注、発注システム等についても対応が必要になるケースがあるだろう。これらのシステムが元々複数税率に対応していれば問題はないが、対応していないものも多くあったとみられ、多くの事業者が設備投資を行う必要が生じたと考えられる。

加えて、今回の増税時にはキャッシュレス決済のポイント還元制度も導入された。この制度に参加するためのキャッシュレス決済端末を導入していなかった中小企業は多いとみられ、これも設備投資の増加につながった可能性があるだろう。

これらの設備投資は本来の意味での駆け込み需要とは異なるが、増税開始までに対応する必要があるという点で、広い意味では駆け込み需要といえなくもない。

なお、中小企業については、これらの複数税率対応レジの導入やシステム改修等にあたって補助金が存在し、レジ導入等の場合には最大で5分の4、受発注・請求書管理システムの改修等では4分の3の補助を受けることができた。また、キャッシュレス決済端末の導入にも政府支援が存在し、中小企業については負担なしで端末の導入が可能だった。これらの補助金の存在によって実際の企業負担額はある程度軽減されたと思われる。ただ、GDP統計上、補助金は資本移転となり、設備投資には補助金を考慮しない全額が計上される。たとえば、100万円でレジを購入、80万円の補助金が支給される場合、GDP上の設備投資額は100万円となる。

(3)OSサポート終了前のPC買い替え需要

電子情報技術産業協会(JEITA)によると、19年7-9月期の国内パソコン出荷台数は前年比+66.0%と急増した。前年比+35.5%と高い伸びだった4-6月期からさらに増加幅を大きく拡大させている。季節調整値(筆者試算)でみても、台数、金額とも18年11月頃から急増しており、極めて好調な推移が続いている。個人向け、法人向けとも好調とのことだが、特に法人需要の強さが著しい模様である。

この急増には、消費税率引き上げ前の駆け込み需要も影響していると思われるが、それよりも大きいのは、2020年1月に予定されているパソコンの基本ソフト(OS)の延長サポート終了を前にした、パソコンの切り替え需要だろう。実際、消費増税前の駆け込み需要が主因であれば10月は落ち込むはずだが、10月の出荷台数も前年比+62.2%(9月:+71.8%)と高い伸びが続き、季節調整値でもほぼ横ばいと高水準を維持している。OSのサポート終了の影響が大きいことのあらわれだろう。

ちなみに、たまたま前回の消費税率引き上げ(5%→8%)があった2014年4月にもOSの延長サポート終了があった。これに伴うパソコンの買い替え需要に消費税率引き上げ前の駆け込み需要もあいまって、当時のパソコン販売はやはり急増し、その後は急激に落ち込むという推移となっていた。

今回も同様の展開が予想される。サポート切れ前の19年12月~1月まではパソコン販売は法人向けの設備投資需要を中心に高水準を維持するとみられるものの、その後は大幅な落ち込みとなる可能性が高いだろう。

設備投資の下振れリスクを検証する
(画像=第一生命経済研究所)

先行き、設備投資の反動減に注意

このように、7-9月期までの設備投資はいくつかの特殊要因によって一時的に押し上げられている面があるとみられる。そのうち(1)と(2)については10-12月期に反動が生じる可能性がある。消費増税後の反動減といえば個人消費ばかりが注目されるが、設備投資にもそれが多少発生する可能性があることには注意が必要だ。足元では消費増税後の個人消費が予想以上の落ち込みをみせていることを示す経済指標が増えているが、これに加えて設備投資まで弱いとなると、10-12月期の成長率の落ち込みがかなり大きくなる可能性があるだろう。また、(3)については20年1-3月期以降の設備投資の下押しに効くことになる。

足元の好調さが強調されがちな設備投資ではあるが、先行きはこうした一時的な押し上げ要因の剥落・反動が生じる可能性があることに加え、企業業績が足元で悪化している点も気がかりだ。合理化・省力化投資や研究開発投資等は他の投資に比べて景気動向との連動性は大きくないとみられるが、それだけで業績悪化に伴う投資需要の減退を支えられるかどうかは未知数だ。設備投資が景気を支えるとの期待は裏切られる可能性があるだろう。(提供:第一生命経済研究所

(参考文献)
・星野卓也(2013)「設備投資と消費税の関係を整理する」第一生命経済研究所Economic Trends

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
主席エコノミスト 新家 義貴