要旨

● 今年の補正予算のテーマは①経済対策と②税収の下振れ。①については公共投資や中小企業支援などに計4兆円強が充てられる。規模自体は昨年度と大きく変わるものではなく、20年度の景気を大きく押し上げる性質の措置ではないと考えられる。

● また、企業業績の悪化に伴う税収の下振れを受け、赤字国債が2兆円強発行される。2019年度の見込み値をみると、所得税・法人税を中心に下方修正されていることに加え、10月からの消費税率10%への引き上げに伴い、所得税と消費税の水準がほぼ同水準に接近。20年度予算では消費税が最大税目となる姿が描かれる可能性が高い。

予算・税制改正等の動き
(画像=PIXTA)

今年の補正予算案が閣議決定

政府は13日、今年度の補正予算案を閣議決定した。概要は以下の資料1の通りだ。今回の補正予算は先般閣議決定された「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」(2019年12月5日)に紐づいたものとなっており、経済対策で掲げられた災害復旧や災害対策、生産性向上のためのインフラ強化、中小企業の設備投資、IT 投資、賃上げの支援に加え、ポスト5Gに向けた基盤強化や小中学校のIT環境整備などが含まれている。経済対策関連の追加歳出額は4.3兆円(資料1の1+2+3)であり、今回の補正予算の追加歳出4.5兆円のほとんどを占めている。

2019 年度補正予算案のポイント
(画像=第一生命経済研究所)

これらの補正予算のうち、経済対策部分には建設国債の発行や国債費の下振れ、2018年度の純剰余金などが財源として充当される。国債費に関して、当初予算編成時には想定する10年債利回り(積算金利と呼ばれる)が保守的に(高めに)仮置きされており、毎年国債費が下振れしている。2019年度当初予算の積算金利は1.1%であったが、今年の長期金利はゼロないしそれを下回る水準での推移となっており、大きく乖離している。そこで浮いた国債費が補正財源に充当されている形だ。ここに加え、2018年度の決算では、税収の上振れなどを通じて1.3兆円の純剰余金が発生している。このうち0.8兆円が補正予算に充当される。なお、財政法では純剰余金の2分の1以上を国債や借入金の償還に充てる旨が示されており、それ以外を一般財源に充当することができる。ただし、特例法を制定した場合には2分の1の基準を緩めることも可能だ。今回の純剰余金1.3兆円に対して充当額0.8兆円は2分の1を超えており、特例法が必要になる。これは来年の通常国会で可決されることとなろう。

また、今回の補正予算のもう一つのテーマが税収の下振れである。昨今の製造業を中心とした企業業績の下振れなどに伴い、所得税・法人税が当初予算の想定よりを大きく下振れている。これを受け、財務省は2019年度の税収見込みを62.5兆円から60.2兆円へ2.3兆円下方修正している。税収下振れ部分には、特例公債(いわゆる赤字国債)が発行されることになる。

補正規模は昨年並み

以前のレポート1でも指摘している通り、今回実施される経済対策は特別に規模の大きいものではない。今回の補正予算で追加される歳出額は4.5兆円になるが、アベノミクス開始時の2012年度は追加歳出規模8.2兆円、2016年度には3度の補正予算で計5.5兆円、昨年度には2度の補正予算で3.9兆円が措置されている。追加歳出規模では昨年度に近い水準であり、過去と比べて抜きんでて大きな規模の予算措置ではない。

来年度の景気押し上げ効果を図るうえでは、「昨年度の補正よりどれだけ大きいか」が重要になる。当初予算の歳出構造が硬直化する中で、実質的に補正予算の規模が財政支出の規模を規定しているためだ。その意味で、前年並みとなった補正予算の効果は、来年度の景気を大きく押し上げる、というよりは、“補正予算がなければ発生したであろう景気の落ち込みを防ぐ”、効果をもたらすに過ぎないだろう。

2019 年度補正予算案のポイント
(画像=第一生命経済研究所)

消費税と所得税がほぼ同水準に

今回の補正編成に伴う2019年度税収の修正状況をみると、所得税が当初予算編成時点:19.9兆円→補正後:19.1兆円(▲0.9兆円)、法人税が同12.9兆円→同11.7兆円(▲1.1兆円)、消費税が同19.4兆円→同19.1兆円(▲0.3兆円)となっている。これにより、2019年度の税収見込みでは所得税と消費税の水準がほぼ同等になった。細かく見れば、所得税は190,640億円、消費税は190,620億円で所得税が若干上回っている。

消費税率が今年10月から10%に引き上げられたことで消費税が増加する一方、所得税が伸び悩むことで両者の差がほぼなくなる姿が描かれている。今週中にも示される見込みの2020年度予算案では、消費税率引き上げの影響が平年度化(2019 年度は10月~翌3月分の消費税が10%になっている)することで、消費税がさらに伸びる見込みだ。消費税が所得税を上回り、最大税目になる姿が描かれる可能性が高いだろう。(提供:第一生命経済研究所

2019 年度補正予算案のポイント
(画像=第一生命経済研究所)

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
副主任エコノミスト 星野 卓也