2020年度の政府予算案が閣議決定された。2020年度は、財政収支は32.6兆円の赤字になる計画である。もっとも、税収の63.5兆円は、2019年度の下方修正された税収見通し60.2兆円から比べるとより大きな増収にならなくてはいけない。何とか中長期試算の計画くらいに財政赤字額を抑え込んだが、今後、東京五輪後にまた別の大型経済対策が打たれて、歳出増になることも警戒される
縮まない財政赤字
政府は、ひとつの器に多くのものを盛り込みすぎるように、2020年度予算に大型歳出案件を入れ込もうとしている。全世代型社会保障、国土強靭化計画、そして先の経済対策である。いくら10%の消費税収が年度全体で増収効果を発揮しても、これではたまらない。歳出拡大の要請が強すぎて、思ったようには財政赤字は縮まなくなってしまっている(図表1)。
火種は他にもある。2020年度の税収見通しは、63.5兆円とされる。2019年度の当初予算税収62.5兆円に比べて増えたように思えるが、期中に見通しを60.2兆円へと下方修正している。増税分があるとはいえ、63.5兆円が本当に確保できるかどうかが不安視される。2019年7月に発表した中長期試算の2020 年度・成長実現ケースの税収は65.6兆円だった。2020年度予算案の63.5兆円はそれよりも▲2兆円程度低い。つまり、以前はもっと多くの税収確保を政府は狙っていたと思われる。
2020年度の財政収支は、予算ベースでは32.6兆円の赤字の計画である。財政収支の黒字化に向けて、以前は2019・2020年度の両年で赤字縮小が一気に進捗するイメージを描いてきた。消費税率を10%にすれば、それが財政再建の決定打になると、皆が信じていたのである。その期待は、見事に裏切られた。
先の中長期試算の一般会計ベースの財政収支(成長実現ケース)を見ると、2019年度32.7兆円、2020年度32.8兆円となった後、2021年度30.0兆円、2022年度29.8兆円と赤字幅が縮む見立てとなっている(図表2)。これは、基礎的財政収支対象経費の拡大が2021年度から抑制され、かつ税収が経済成長とともに増えていく目算になっている。2019・2020年度の歳出増は、そこでの経済対策があくまで臨時・特別の措置であり、2021年度をもってその膨らみはなくなるという希望的観測がある。しかし、政治的にそれで済ませられるのだろうか。筆者は東京五輪が終われば、再び景気リスクに備えるという名目で特別な経済対策が立案されて、2025年度に財政再建を果たすという目標がないがしろにされることを心配している。
財政リスクを耳にしない
最近、耳にしなくなった言葉は財政リスクである。以前は、欧州債務危機が海外にあり、日本でも長期金利上昇、円安、物価上昇などのショックの顕在化が恐ろしい作用として語られていた。今は、日銀がそのリスク・シナリオを極めて見えにくくしている。筆者は、財政ファイナンスの恐怖とは不健康に身体がなっていく状態に気付きにくくなり、感覚が麻痺してしまうことだと改めてわかった。
これまでの教訓は、税収が増えるほどに、歳出拡大圧力は強まってしまい、それを政治的にコントロールすることができなくなるということだ。本来は、税収の裏側には、国民の負担感があって、その負担感があるからこそ、政府支出は無駄なく大切に使ってもらわなくてはいけないという国民感情が生まれる。今は、政府支出の増加と税金の負担感は切り離されてしまっている印象がある。その責任を日銀の金融政策だけに押し付ける訳にはいかないだろう。
次の中長期試算に注目
経済財政諮問会議では、毎年1月に翌年度政府予算を受ける形で、財政収支見通しを更新する。2019年7月に更新された成長実現ケースの見通しでは、2027年度に基礎的財政収支が黒字化するシナリオになっていた。2025年度の目標には黒字化できなくても、もう2年程度分努力すれば達成できるところまで来ていた。 注目したいのは、次に更新される2020年1月の中長期の財政収支見通しである。ここで楽観的な税収見通しによらず、歳出拡大を抑制する見通しになっていれば、まだ希望は持てるだろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生