シンカー:現在、AI、IoT、ロボティクス、ビッグデータ、5G、それに付随するサービスなどの新たな技術と産業の黎明期にあり、今後の数十年の経済基盤の大きな変革が起きている可能性がある。日米ともに実質設備投資のGDP比率は上昇し、設備投資サイクルは新たなレンジの形成を始めており、企業は新たな技術と産業の経済基盤の下で競争力を向上させるためにも、投資の拡大を継続しなければならない状況にある。新たな技術と産業の黎明期には、過剰資本を恐れて1年でも投資を競合他社と比較し抑制してしまえば、技術革新とビジネス展開で遅れをとり、競争力を取り戻すことは不可能となり、マーケットから退出しなければならないリスクが高まる。米国が中国に対して貿易問題などで圧力を強めているのも、新たな技術と産業の黎明期を認識し、できるだけ投資の差を拡大し、優位なポジションを確立することを意図しているのかもしれない。一方、新たな技術と産業の黎明期の変革は速く、1・2年でも中国の投資が抑制されれば、米国との差が十分に拡大し、米国の優位なポジションが確立されるかもしれない。優位なポジションが確立されれば、米国は中国に対する貿易問題などでの圧力を緩和する可能性がある。中国の投資を抑制しても、米国の投資まで抑制されてしまえば、その差はなかなか拡大せず、優位なポジションを確立するまであまりにも時間がかかってしまう。トランプ政権が投資を抑制してしまうリスクとなるFEDの利上げに反対し、投資を促進すると考えられる利下げを好むのも、そのような意図があるのであれば理解できる。新たな技術と産業の黎明期にあり、今後の数十年の経済基盤の大きな変革が起きているのであれば、生産性の大きな向上が見込まれ、FEDの利上げが遅れて、景気が過熱しても、物価上昇を緩和することができると認識しているのかもしれない。貿易紛争で企業心理があまりにも悪化し、米国の投資が抑制されてしまえば本末転倒であるため、景気悪化に対するストッパーは存在すると考えられる。国家資本主義的な中国は、不況下でも国家主導の投資を継続することができるが、自由資本主義的な米国は、投資は民間主導であるため、不況下では投資が止まってしまい、中国の優位の結果になってしまう。新たな経済基盤での優位を確立するという米国政府の意図を考慮すれば、貿易紛争が直接的な理由で、米国が景気後退になる可能性が大きくないと考えられる。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

過剰貯蓄として総需要を追加的に破壊する力となっているプラスの企業貯蓄率が正常化(マイナス化)し、その破壊の力が払拭されることがデフレ完全脱却の条件であると考えられる。

経済ファンダメンタルズの改善と民間投資を喚起する成長戦略が徐々に効果を発揮し、ようやく企業貯蓄率を左右する投資サイクルも天井を打ち破った。

実質設備投資のGDP比率は16%を上回り、バブル崩壊後の最高水準までようやく上昇した。

16%の天井をなかなか打ち破れなかったことが、過剰貯蓄として総需要を破壊する力となっているプラスの企業貯蓄率の低下を妨げる要因となっていた。

景気拡大を促進する経済政策と成長戦略を更に推し進め、企業心理を刺激し、先行する設備投資サイクルを更に押し上げ、企業貯蓄率が低下を続け、正常なマイナスの領域に戻り、総需要を追加的に破壊する力が払拭されればデフレ完全脱却となる。

人手不足にともなう生産性上昇を企図する省力化投資は継続するであろうが、需要の拡大が投資を生み、それが更なる需要喚起と投資を生む好循環がなければ、企業貯蓄率を正常なマイナスに戻すほどの設備投資のサイクルの上振れはできない。

日本経済の設備投資サイクルはまだ中盤で、これから更に強くなっていき、それが企業貯蓄率のマイナスへの低下により、過剰貯蓄としての総需要を追加的に破壊する力を払拭し、2%に向けて物価上昇率が高まり、デフレ完全脱却に至ると考えられる。

デフレ完全脱却のためには、企業の期待成長率と期待インフレ率が上振れなければならない。

設備投資サイクルのレンジが上方シフトすれば、企業の行動が変化し始め、企業の期待成長率と期待インフレ率が上振れたことが事後的に確認できることになる。

現在、AI、IoT、ロボティクス、ビッグデータ、5G、それに付随するサービスなどの新たな技術と産業の黎明期にあり、今後の数十年の経済基盤の大きな変革が起きている可能性がある。

日米ともに実質設備投資のGDP比率は上昇し、設備投資サイクルは新たなレンジの形成を始めており、企業は新たな技術と産業の経済基盤の下で競争力を向上させるためにも、投資の拡大を継続しなければならない状況にある。

過剰資本を恐れて投資を怠れば、技術革新とビジネス展開で遅れをとり、企業は生産性と収益力の向上の機会を逸してしまうことになるだろう。

新たな技術と産業の黎明期には、1年でも投資が競合他社と比較し抑制してしまえば、競争力を取り戻すことは不可能となり、マーケットから退出しなければならないリスクが高まる。(自動運転技術に対する投資が典型的な例である。)

米国が中国に対して貿易問題などで圧力を強めているのも、新たな技術と産業の黎明期を認識し、できるだけ投資の差を拡大し、優位なポジションを確立することを意図しているのかもしれない。

一方、新たな技術と産業の黎明期の変革は速く、1・2年でも中国の投資が抑制されれば、米国との差が十分に拡大し、米国の優位なポジションが確立されるかもしれない。

優位なポジションが確立されれば、米国は中国に対する貿易問題などでの圧力を緩和する可能性がある。

中国の投資を抑制しても、米国の投資まで抑制されてしまえば、その差はなかなか拡大せず、優位なポジションを確立するまであまりにも時間がかかってしまう。

トランプ政権が投資を抑制してしまうリスクとなるFEDの利上げに反対し、投資を促進すると考えられる利下げを好むのも、そのような意図があるのであれば理解できる。

新たな技術と産業の黎明期にあり、今後の数十年の経済基盤の大きな変革が起きているのであれば、生産性の大きな向上が見込まれ、FEDの利上げが遅れて、景気が過熱しても、物価上昇を緩和することができると認識しているのかもしれない。

貿易紛争で企業心理があまりにも悪化し、米国の投資が抑制されてしまえば本末転倒であるため、景気悪化に対するストッパーは存在すると考えられる。

国家資本主義的な中国は、不況下でも国家主導の投資を継続することができるが、自由資本主義的な米国は、投資は民間主導であるため、不況下では投資が止まってしまい、中国の優位の結果になってしまう。

新たな経済基盤での優位を確立するという米国政府の意図を考慮すれば、貿易紛争が直接的な理由で、米国が景気後退になる可能性が大きくないと考えられる。

このような中で日本は、アベノミクスの三本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)を一つも欠かすことなく強く放ち続け、オリンピック関連投資の一巡などを乗り越えて、新たな技術と産業の黎明期を追い風にしながら、設備投資サイクルが新しいレンジに上振れ、企業の期待成長率と期待インフレ率の上昇にともない企業貯蓄率がマイナスに正常化し、総需要を追加的に破壊する力を払拭させ、デフレから完全に脱却することが重要であろう。

図)民間設備投資の対GDP比%

民間設備投資の対GDP比%
(画像=内閣府、日銀、SG)

図)日米の民間設備投資の対GDP比%

日米の民間設備投資の対GDP比%
(画像=内閣府、BEA、SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司